転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー1

 夏休みも残すところあと一週間。

 

 だが、のんびりしている時間はもうあまり残されていなかった。

 

 自分達は学園へ戻るため、朝一番の馬車を待っていた。

 

 「マヒロさん。これからも二人と仲良くしてくださいね」

 

 「うむ。色々と世話になり申した。また機会があればお伺いしても宜しいか?」

 

 「ああ、もちろんですとも。いつでもいらっしゃい」

 

 「かたじけない」

 

 馬車を待つ間、マヒロは神父様夫妻と別れの挨拶を交わしていた。

 

 滞在中に随分と親しくなったらしく、二人とも本当の孫を見送るかのような優しい表情を浮かべている。

 

 今更ながら、誰とでも自然に打ち解けられる彼女のコミュニケーション能力には驚かされる。

 

 まあ――一人だけ例外はいるみたいだけど。

 

 あの頑固な理事長補佐の顔を思い浮かべ、思わず苦笑した。

 

 ◇

 

 「それじゃあ行ってきます!」

 

 「サダメー! ミオー! 元気でねー!」

 

 「しっかり励んで来るんだぞー!」

 

 「はーい!」

 

 やがて馬車が到着し、自分達は学園へ向けて出発した。

 

 荷台に揺られながら振り返ると、神父様達が村の入口で大きく手を振っている。

 

 俺とミオも負けじと両手を振り返した。

 

 徐々に小さくなっていく二人の姿。

 

 見慣れた村の景色。

 

 夏休みの間ずっと見ていたはずなのに、離れるとなると急に名残惜しく感じる。

 

 本当にあっという間だった。

 

 またいつ帰って来られるか分からない。

 

 そう思うと、胸の奥に少しだけ寂しさが広がった。

 

 ◇

 

 「いいご家族でござったな」

 

 「ああ。あの村はなんだかんだ良い人ばっかりだよ」

 

 「ふふ。そうでござるな」

 

 リーヴ村が見えなくなってしばらく経った頃。

 

 俺達は馬車の中で村の思い出話に花を咲かせていた。

 

 振り返ってみれば、本当に良い人ばかりだった。

 

 酔っ払うと多少口が悪くなる人もいるし、酒場では時々喧嘩も起こる。

 

 だが、それも含めてあの村らしい。

 

 困っている人がいれば自然と助け合う。

 

 誰かが怪我をすれば皆で支える。

 

 小さな村だからこそ、人と人との繋がりが強いのだろう。

 

 「拙者も、ああいう温かい村に生まれたかったでござるな」

 

 不意に零れたマヒロの言葉に、俺は少しだけ目を丸くした。

 

 「生まれた場所は違うけどな。マヒロの村――というか島は、あんな雰囲気じゃないのか?」

 

 マヒロは島の出身だと聞いている。

 

 島なら人口も少ないだろうし、勝手にリーヴ村と似たような環境を想像していた。

 

 だが、彼女はゆっくりと首を横に振った。

 

 「……うむ」

 

 その声には、どこか沈んだ響きがあった。

 

 「拙者の生まれた島は、領主が強い権力を握っておるのでござる」

 

 「領主?」

 

 「うむ。しかも閉鎖的なお考えの方でな。他所との交流も少なく、少なくともあの村のような活気はなかったでござるよ」

 

 「そう、なのか」

 

 思わず言葉が詰まる。

 

 いつも明るい彼女にしては珍しく、その横顔はどこか遠くを見つめているようだった。

 

 懐かしんでいるのか。

 

 それとも別の感情なのか。

 

 俺には分からない。

 

 ただ一つだけ分かったのは、この話題には簡単に踏み込まない方がいいということだった。

 

 自然と会話が途切れる。

 

 馬車の車輪が石畳を転がる音だけが静かに響いた。

 

 「……」

 

 けれど、一つだけ気になることがあった。

 

 そんな閉鎖的な考えを持つ領主が、なぜマヒロの学園入学を許可したのだろうか。

 

 島の外へ出ることすら嫌がりそうな人物に聞こえる。

 

 それなのに、どうして――。

 

 疑問は浮かんだものの、今の空気の中で聞けるような話ではなかった。

 

 結局その疑問を口にすることはなく、俺は窓の外へ視線を向けた。

 

 そうして馬車に揺られること数時間。

 

 俺達は無事に学園へと帰還した。

 

 ――転生勇者が死ぬまで、残り3936日

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