長かったような、短かったような一か月の夏休みが終わり、ソワレル魔法学園は新学期を迎えた。
貴族学校の生徒達には自分達より少し長めの休暇が与えられているらしく、始業式に参加しているのは魔法学園の生徒だけだ。
夏休み前に見た時よりも講堂は幾分か人が少なく感じる。
その分、壇上に立つ人物の姿はよく見えた。
『皆、一か月間の休日は満喫できたかな?』
講堂全体に響き渡る落ち着いた声。
壇上に立つ理事長――リーフさんは、相変わらず涼しげな表情を浮かべながら生徒達へ語りかけていた。
『中には補習授業で学園から一歩も出られなかった生徒もいるだろう。だが安心してほしい。年末年始の休暇は漏れなく全員に与えられる予定だ』
その言葉に、あちこちから安堵の声が漏れる。
どうやらこの世界にも冬休みのような制度が存在するらしい。
まあ、元の世界でも年末年始の休みは当たり前だったし、そこは変わらないようだ。
周囲の会話を聞いていると、補習授業のせいで夏休み中一度も学園から出られなかった生徒もいたらしい。
その話を聞く度に、期末試験を突破できて本当に良かったと思う。
もし落第していたら、俺も今頃は補習漬けの日々を送っていたのだろう。
考えただけで気が滅入る。
『さて、二年生と三年生の諸君なら既に知っていると思うが、二学期からは様々な意味で忙しくなる』
リーフさんは穏やかな口調のまま話を続ける。
『辛いと感じる時期もあるだろう。だが、その先には楽しい出来事も待っている。三年生は卒業まで残り半年。一、二年生もそれぞれの目標へ向かって努力を続けてほしい』
講堂の空気が僅かに引き締まる。
二学期。
その言葉だけで何となく嫌な予感がした。
一学期ですら十分大変だったのだ。
魔法の訓練に座学。
実技試験に補習。
さらには命の危険すら感じる出来事も何度かあった。
それなのに、ここから更に忙しくなるらしい。
正直、聞かなかったことにしたい。
だが、そんな願いが通じるはずもなく、リーフさんの話はその後もしばらく続いた。
結局、小一時間ほど話していただろうか。
途中から内容を覚えていない。
周囲の生徒達も似たようなものらしく、集中力が切れている者がちらほら見受けられた。
それでも一つだけ確かなことがある。
二学期は、一学期以上に厳しいものになるということだ。
夏休みの間は幸いにも退学者や脱落者は出なかったらしい。
だが、この先も同じとは限らない。
学園の授業は年々厳しくなっていくと聞いている。
この学園を卒業できる者は決して多くない。
だからこそ、不安になる。
皆と特別仲が良いわけではない。
それでも、一緒に過ごしてきた同級生達が少しずつ姿を消していくのは、やはり寂しいものだ。
できることなら、一人でも多く最後まで残ってほしい。
そんなことを考えていた。
一方で、少しだけ気になる話もあった。
リーフさんの言葉によれば、二学期には楽しい行事も用意されているらしい。
もっとも、具体的な内容までは教えてくれなかったが。
時期を考えるなら、学園祭や体育祭のような大規模なイベントだろうか。
もしそうなら、それは少し楽しみだ。
皆で何かを作り上げる行事というのは嫌いではない。
だからこそ、なおさら脱落者が出てほしくないと思ってしまう。
◇
『えー、少々話が長くなってしまったね。申し訳ない』
ようやく終わりが見えてきたらしい。
講堂の空気が目に見えて緩む。
『私からは以上だ。皆、新学期も引き続き頑張ってくれたまえ』
その言葉を最後に、リーフさんの長い挨拶は幕を閉じた。
講堂のあちこちから安堵の息が漏れる。
どうやら長いと感じていたのは俺だけではなかったようだ。
こうして始業式は無事終了した。
だが、本当の意味でのスタートはここからだ。
夏休みは終わった。
楽しかった日々はひとまず幕を下ろし、再び学園生活が始まる。
これからどんな試験が待ち受けているのか。
どんな困難が降りかかるのか。
期待よりも不安の方が大きい。
それでも進むしかない。
胸の奥に湧き上がる妙な緊張感を感じながら、俺は静かに立ち上がった。
二学期が、始まる。