「お前ら。さっき理事長からも聞いたと思うが、この学期からは授業も今まで以上に厳しくなっていく」
二学期最初のホームルーム。
教室に入って早々、コールスタッシュ先生は煙草をふかしながらそう切り出した。
「今までは新入生だからって多少は大目に見られていた部分もあっただろうが、これからはそうはいかねぇ。甘えた考えは今日のうちに捨てておけ。いいな?」
「「……」」
誰も返事をしない。
いや、正確には返事ができなかった。
教室中の生徒が同じことを考えていたからだ。
――今まで甘く見られてたことなんてあったか?
少なくとも俺には覚えがない。
入学してからこっち、試験に補習に派遣任務にと散々振り回されてきた記憶しかない。
特に目の前にいる担任からは。
むしろ厳しく扱われた記憶しかないのだが。
だが、そんなことを口にしたら最後、間違いなく面倒なことになる。
誰もがそう理解していたため、教室には何とも言えない沈黙だけが流れていた。
「と・く・に!」
先生が煙草を指で挟みながら声を強める。
嫌な予感がした。
「夏休みだってのに事件に巻き込まれた挙句、魔物を撃退して浮かれてる連中はなぁ?」
「ッ!?」
鋭い視線がこちらへ突き刺さる。
いや、正確には俺達五人へ。
完全に名指しだった。
どうやら海水浴先で起きたあの一件は、既に学園側にも伝わっていたらしい。
しかも思った以上に話題になっているようだった。
今日だけでも何人かの先輩に話しかけられている。
中には初対面にも関わらず興奮した様子で話しかけてくる人までいた。
そういえば今朝も見知らぬ先輩から、
「お前達があの魔物を倒したのか!? すげぇな!」
と声を掛けられたばかりだ。
正直かなり戸惑った。
年上の相手と話すこと自体は別に問題ない。
中身はおっさんだし。
だが、今の俺は一応十六歳の学生である。
結果、どう返事をしていいか分からず曖昧な受け答えしかできなかった。
今思うと少し申し訳ない。
もっとも、先生からすればそれすら調子に乗っているように見えたのかもしれないが。
「勘違いすんなよ」
先生は煙を吐きながら言葉を続ける。
「お前らがやったこと自体は立派だ。だが、それで満足した瞬間に成長は止まる。まだ一年生だってことを忘れるな」
教室の空気が僅かに引き締まる。
相変わらず言い方は荒いが、言っていること自体は間違っていない。
実際、今回生き残れたのも運が良かった部分は大きい。
あんな経験をした後だからこそ、その言葉の重みは理解できた。
「いいか? 今学期は大きなイベントが二つある」
先生は話題を切り替えるように言った。
「つっても、そのうちの一つは『お前らにとっては』って話だけどな」
『?』
教室中に疑問符が浮かぶ。
大きなイベントが二つ。
そこまでは分かる。
だが、『お前らにとっては』とはどういう意味なのか。
皆を代表するようにフィーが手を挙げた。
「先生。それはどういう意味ですか?」
「簡単な話だ」
先生は椅子にもたれ掛かる。
「今までのお前らの派遣任務ってのは、誰にでもできる雑務みたいな内容だったろ?」
「……」
その言葉に、俺達五人は微妙な顔になる。
確かに基本的にはそうだった。
だが、海水浴先で遭遇したあの事件を思い出すと素直に頷きづらい。
結果的に命懸けだったのだから。
とはいえ、あれは例外中の例外だ。
普段の任務が比較的安全だったことは事実である。
俺達は周囲に合わせて渋々頷いた。
「次の任務からは少し難易度が変わる」
先生の声色が僅かに変わる。
「ま、より実践的な任務になると思っとけ」
「実践的な任務、でござるか?」
マヒロが首を傾げる。
「一体何をするのでござろう?」
当然の疑問だった。
雑務ではない。
より実践的。
その言葉だけでは具体的な内容が全く見えてこない。
教室中の視線が先生へ集まる。
そんな俺達を見渡しながら、先生は不敵な笑みを浮かべた。
「そうだな。なら今ここで教えといてやるか」
先生は煙草を灰皿に押し付ける。
「班分けは基本的に前回と同じだ」
そして、一拍置いてから続けた。
「今回の任務は全班共通」
教室の空気が張り詰める。
「次の派遣任務は――」
先生の口元が僅かに吊り上がった。
「迷宮攻略だ」