転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

444 / 446
第9章ー4

 「めいきゅー? とは何でござる?」

 

 聞き慣れない単語に、マヒロが首を傾げる。

 

 すると先生は煙草を咥えたまま気だるそうに答えた。

 

 「迷宮ってのは、ざっくり言やぁ魔物の巣窟の総称だな」

 

 「魔物の巣窟?」

 

 「ああ。その辺の土地と違って、迷宮は魔力の質が特殊なんだよ。その影響で、普通の土地じゃ見かけねぇようなクセの強い魔物が生まれやすい」

 

 先生は指を一本立てる。

 

 「しかも内部はやたら広い。場所によっちゃ街一つ分くらいあることも珍しくねぇし、構造も迷路みてぇに入り組んでる。探索だけでも一苦労だ」

 

 続いて二本目の指を立てる。

 

 「つまり、強い魔物がいて、地形も厄介。冒険者からすりゃ色んな意味で面倒極まりねぇ場所ってことだ」

 

 「ふむ」

 

 マヒロは腕を組みながら頷いた。

 

 「なんとなく理解したでござる」

 

 そして何故か目を輝かせる。

 

 「話を聞く限り、修行にはもってこいの場所でござるな」

 

 「ああ。そういうこった」

 

 先生もあっさり頷く。

 

 「「……」」

 

 一方で教室の空気は重かった。

 

 俺もどちらかと言えばそっち側だ。

 

 マヒロと先生は妙に意気投合しているが、普通に考えて今までとは危険度が段違いである。

 

 広大な迷路。

 

 強力な魔物。

 

 慣れない環境。

 

 どう考えても難易度が跳ね上がっていた。

 

 魔物退治だけならまだしも、そんな場所を探索しながら戦えと言われれば不安になるのも当然だろう。

 

 だが、そんな空気を察したのか、先生は肩を竦めた。

 

 「つっても、今回は予行演習みたいなもんだから余計な心配はいらねぇけどな」

 

 「?」

 

 今度はギリスケが首を傾げる。

 

 「どういうこと?」

 

 「迷宮は危険な場所だ。だからこそ国が管理してる」

 

 先生は煙を吐きながら説明を続ける。

 

 「定期的に冒険者や騎士団を送り込んで魔物を駆除してんだよ。放置したら被害が出るからな」

 

 なるほど。

 

 確かに危険な場所なら国が放っておくはずがない。

 

 「今回お前らが行く頃には、ちょうど大規模な掃討作戦が終わってる頃だろう。大物は大体片付いてるはずだ」

 

 「つまり私達は残った魔物を倒しながら探索するということですか?」

 

 フィーが確認するように尋ねる。

 

 「そういうことだ」

 

 先生は頷いた。

 

 「残党狩りと探索が主な目的だな」

 

 「むぅ……そうなのでござるか」

 

 何故かマヒロが残念そうな顔をする。

 

 『なんでそこでテンション下がるの?』

 

 クラスの何人かが思わずツッコミを入れていた。

 

 俺も同感だった。

 

 むしろ安全になっている方がありがたいだろうに。

 

 とはいえ、先生の説明を聞いて多少は安心した。

 

 危険な場所であることに変わりはないが、少なくとも魔物だらけの地獄へ放り込まれる訳ではないらしい。

 

 だが。

 

 その程度で不安が消えるほど甘くもなかった。

 

 「でも……」

 

 ミオがおずおずと手を挙げる。

 

 「迷宮の魔物って強いんですよね?」

 

 その声には明らかな不安が混じっていた。

 

 「私達だけで行って、本当に大丈夫なんですか?」

 

 教室中の生徒が頷く。

 

 それは皆が抱いていた疑問だった。

 

 魔物の強さは土地に宿る魔力の質によって左右される。

 

 それは授業でも習っている。

 

 迷宮が特殊な土地なら、そこに棲む魔物も当然強いはずだ。

 

 仮に掃討作戦で大半が倒されていたとしても、一体でも危険な個体が残っていたらどうするのか。

 

 生徒だけで対処できるのだろうか。

 

 俺自身も同じ疑問を抱いていた。

 

 すると先生は静かに煙草を咥え直した。

 

 「……ふぅ」

 

 紫煙がゆっくりと宙へ昇る。

 

 「たしかに迷宮の魔物は強い」

 

 教室の空気が張り詰める。

 

 「中には普通の冒険者じゃ歯が立たねぇような奴もいる」

 

 「ッ!?」

 

 ミオが思わず立ち上がる。

 

 周囲からもざわめきが広がった。

 

 不安を和らげるどころか、むしろ悪化している。

 

 だが先生はそんな反応を見ても表情一つ変えなかった。

 

 いや。

 

 むしろ当然だと言わんばかりだった。

 

 そして。

 

 教室全体を見渡しながら静かに告げる。

 

 「――言ったはずだよな?」

 

 低く落ち着いた声。

 

 だが、その一言だけで教室が静まり返る。

 

 「これからは厳しくなっていくって」

 

 誰も言葉を返せなかった。

 

 先生の表情は普段と変わらない。

 

 だが、その瞳だけはどこか冷たく見えた。

 

 まるで、それが当たり前だと言わんばかりに。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。