「よし。今日はここまでだ」
コールスタッシュ先生の声が体育館に響く。
その瞬間。
「はあ……はあ……」
「うっ……」
「し、死ぬ……」
あちこちで力尽きた生徒達がその場に崩れ落ちた。
当然、俺もその一人だ。
午後から始まった二学期最初の魔法学。
だが、その内容は予想していたものとは大きく違っていた。
いつもの走り込みはなし。
代わりに、自分達は巨大な体育館のような施設へ連れて来られていた。
東京ドームくらいありそうな広さだ。
実際に見たことはないけど。
そして授業内容は極めてシンプルだった。
ひたすら魔法を使う。
それだけ。
一学期の頃も自主練習や個別指導で似たようなことをやった覚えはある。
だが今回は違う。
クラス全員が同じ場所に集められ、一斉に行う形式へ変更されていた。
ようやく本格的な魔法の授業が始まる。
そんな期待を抱いていた生徒も少なくなかった。
俺もその一人だった。
しかし。
現実は甘くなかった。
むしろ地獄だった。
授業内容は、頭の中で魔法の発動手順をイメージし、その通りに魔法を放つ。
それを延々と繰り返すだけ。
言葉にすれば簡単だ。
だが、実際にやってみると想像以上に過酷だった。
二時間。
ただひたすら魔法を使い続ける。
集中力は削られる。
魔力は容赦なく消費される。
時間が経つにつれて頭がぼんやりし始め、思い描いた通りに魔法が発動しなくなる。
それだけではない。
身体のあちこちが痺れ始め、腕は震え、足にも力が入らなくなっていく。
まるで全身のエネルギーを根こそぎ持っていかれているような感覚だった。
途中で吐き出す生徒まで現れたほどだ。
走り込みの方がまだ楽だった。
今なら断言できる。
最初の頃、先生が体力作りの重要性を口酸っぱく言っていた理由もよく分かった。
魔法使いに必要なのは魔力だけじゃない。
それを扱い続けるための身体も必要なのだ。
俺自身、一学期でかなり体力は付いたと思っていた。
だが、この有様を見る限り全然足りていない。
本当に死ぬかと思った。
「……」
床に倒れ込みながら周囲を見渡す。
マヒロも珍しく辛そうな顔をしていた。
彼女の場合、妖刀の補助がある分、魔力消費は比較的少ないはずだ。
それでも二時間近く妖刀を振り続けるのは相当堪えたらしい。
授業終了と同時に、その場へへたり込んでいた。
あのマヒロですらこうなのだ。
他の生徒達はもっと酷い。
皆揃って満身創痍だった。
――と思ったのだが。
「……」
一人だけ平然としている奴がいた。
アラガだ。
多少の汗はかいている。
だが、それだけだった。
呼吸も乱れていない。
疲労困憊している様子もない。
まるで軽い運動でも終えた後のような顔をしている。
正直、意味が分からない。
マヒロでさえ苦戦していた授業だぞ?
やはり桁違いの魔力量が関係しているのだろうか。
それとも単純に体力なのか。
そういえば魔力量って鍛えれば増えるのだろうか――。
「おい」
「……?」
考え事をしていた俺の耳に声が届く。
だが、疲れすぎていて反応が遅れた。
「おい。聞いてんのか、レールステン」
「はあ……はあ……はい?」
慌てて顔を上げる。
しまった。
完全に別のことを考えていた。
誰が呼んでいるのかも確認していない。
そして視線を向けた瞬間。
背筋が凍った。
「……てめぇ、中々いい度胸してんじゃねーか」
「ッ!? せ、先生!?」
そこにはコールスタッシュ先生が立っていた。
煙草を咥えたまま、俺を見下ろしている。
しかも滅茶苦茶機嫌が悪そうだ。
慌てて飛び起きる。
え?
何?
俺なんかした?
今日に限っては何もやらかしてないはずだぞ?
授業も真面目に受けた。
居眠りもしてない。
サボってもいない。
魔海の大行進の件でまだ怒られてるのか?
いや、それにしたって理不尽すぎるだろ。
そんなことを考えていると。
先生は煙を吐きながら静かに口を開いた。
「――今日の夜。またここに来い」
その一言だけを残して。