転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー8

 「よし。準備はできてるな?」

 

 「はい! お願いします!」

 

 「夜なんだから、あんまでけぇ声出すな」

 

 その日の夜。

 

 先生に呼び出された俺は、再び体育館を訪れていた。

 

 風呂に入って汗を流し、夕食もしっかり食べたおかげで体力はある程度回復している。

 

 昼間の疲労感はまだ少し残っているものの、身体は問題なく動く。

 

 むしろ十分な休息を取ったことで気持ちはかなり前向きだった。

 

 先生直々の特訓。

 

 そう考えるだけで自然と気合が入る。

 

 これなら多少無茶な内容でも何とかなるかもしれない。

 

 そんなことを考えていたのだが――。

 

 「じゃあ早速だが、お前が奴を倒したっていう魔法を俺に向かって撃ってみろ」

 

 「……え?」

 

 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

 

 思考が止まる。

 

 だが先生は平然としていた。

 

 まるで当たり前のことを言ったかのような顔でこちらを見ている。

 

 「え、じゃねぇよ」

 

 先生は面倒臭そうに肩を竦めた。

 

 「お前の実力を見てやるって言っただろうが」

 

 そう言うと、体育館の中央へ歩いていく。

 

 そして俺の方へ向き直った。

 

 「ほら。掛かってこい」

 

 「……」

 

 思わず黙り込む。

 

 いや。

 

 無理だろ。

 

 先生は気軽に言っているが、あの魔法はそんな簡単な代物じゃない。

 

 【炎衝拳《インパクト》】。

 

 火球《フレール》の爆発力と、【部分魔力強化《パージング》】による身体強化を組み合わせた、自分なりの必殺技だ。

 

 あの時。

 

 グリムフィッシャーを倒した一撃。

 

 筋骨隆々の巨体を吹き飛ばし、決定打となった魔法。

 

 だが、その代償として制御が非常に難しい。

 

 威力の調整もまともにできない。

 

 未完成もいいところだ。

 

 そんな魔法を先生に向かって放てと言われても、はいそうですかとはいかなかった。

 

 もし制御を誤ったら。

 

 もし本気で直撃してしまったら。

 

 嫌な想像ばかりが頭をよぎる。

 

 「……すみません」

 

 悩んだ末、俺は首を横に振った。

 

 「撃てません」

 

 「あ?」

 

 先生の片眉がぴくりと動く。

 

 「その魔法、まだ未完成なんです」

 

 なるべく誤解されないよう言葉を選ぶ。

 

 「威力を抑えるのも難しいですし、その……」

 

 「ほー?」

 

 だが。

 

 先生は何故か不機嫌そうな顔になった。

 

 嫌な予感しかしない。

 

 「つまり何だ?」

 

 先生が一歩前へ出る。

 

 「俺を殺せるくらい強い魔法ってことか?」

 

 「いや、違います!」

 

 即座に否定した。

 

 だが先生は止まらない。

 

 「新しい魔法を一つ覚えたくらいで随分偉くなったじゃねぇか」

 

 さらに一歩。

 

 「もう俺に勝ったつもりか?」

 

 「いやいやいや!? そんなつもり全然ないですから!?」

 

 慌てて両手を振る。

 

 どうしてそうなる。

 

 何故そんな解釈になった。

 

 俺はただ危険だから撃ちたくないと言っただけだ。

 

 だが先生は完全に喧嘩腰だった。

 

 「教師なめんなよ」

 

 低い声が響く。

 

 「てめぇの覚えたての魔法程度で死ぬほどヤワな奴なんていねぇ」

 

 先生は鼻で笑った。

 

 その声音には揺るぎない自信があった。

 

 「それに」

 

 続けて指を突き付ける。

 

 「制御できねぇなら尚更鍛えなきゃならねぇだろ」

 

 「……」

 

 反論できなかった。

 

 「制御できませんでしたで済ませるつもりか?」

 

 先生の言葉が胸に刺さる。

 

 たしかにその通りだ。

 

 危険だから使わない。

 

 未完成だから避ける。

 

 それではいつまで経っても成長できない。

 

 強力な魔法だからこそ、自分の意思で扱えるようにならなければ意味がない。

 

 「いいから撃て」

 

 先生は腕を組んだ。

 

 「俺が見ててやる」

 

 その言葉に、不思議と安心感を覚えた。

 

 この人は本気だ。

 

 そして、本当に受け止めるつもりでいる。

 

 だったら。

 

 ここで逃げるのは違う。

 

 「……はい」

 

 小さく息を吐く。

 

 腹を括るしかない。

 

 先生はわざわざ自分のために時間を作ってくれた。

 

 それを無駄にはしたくなかった。

 

 「ふぅ……」

 

 ゆっくりと呼吸を整える。

 

 身体の中を巡る魔力を意識する。

 

 イメージするのは、あの日放った一撃。

 

 炎。

 

 爆発。

 

 衝撃。

 

 そして――制御。

 

 今度は暴走させない。

 

 俺の意思で扱う。

 

 そう心に決めながら拳を握り締めた。

 

 「それじゃあ……」

 

 先生を真っ直ぐ見据える。

 

 緊張で喉が渇く。

 

 それでも視線は逸らさない。

 

 「いきますよ?」

 

 体育館の空気が静かに張り詰めた。

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