「はあ……はあ……」
気がつくと、私を中心に吹き荒れていた竜巻は、倉庫の瓦礫や魔造種の残骸を細かく噛み砕きながら、ゆっくりとその勢いを失っていった。
耳を裂くような風音が遠ざかり、砂塵が静かに地へ落ちていく。
そして――
私の周囲には、何一つ残っていなかった。
砕けた木箱も、床を埋め尽くしていた魔造種の部品も、すべて塵となって消えている。
自分が立っている地面だけが、不自然なほどぽっかりと空白を残していた。
「……はっ! そうだ、結界は?!」
呆然としている暇はない。
胸の奥に湧き上がる達成感を無理やり押し込め、私は慌てて空を見上げた。
――お願い、消えていて。
その願いが通じたかのように、空を覆っていた半透明の膜が揺らぎ始める。
光を拒んでいた障壁は、霧が溶けるように薄れていき――
「っ!?」
ついに、それは完全に消え去った。
夜空が開かれる。
閉じ込められていた世界に、星の光が降り注いだ。
「……久しぶりの、星だぁ……」
胸の奥がじんわりと熱くなる。
目の奥が潤み、視界がぼやけた。
成功した。
結界は確かに解除された。
皆が――サダメが、ラエルが。
この星空の下へ戻れる。
その事実だけで、心の底から安堵が込み上げた。
だが。
「――一体、何事だこれは?!」
「ッ!?」
背後から突き刺さるような声。
私は一瞬で現実へ引き戻される。
「おい、小娘。これはテメェがやったのか?」
振り向いた先には、魔物が一体。
鋭い歯をむき出しにし、血走った目で私を睨んでいた。
「ひっ……!?」
足が動かない。
身体の奥から恐怖が噴き出し、全身を縛りつける。
「よくも大事な儀式をぶち壊してくれたなぁ!?
テメェのせいで結界が解けちまったじゃねぇか!
あ゛あ゛ん゛?! ただで済むと思うなよ、クソガキ!!」
荒い息。
唾を飛ばしながら、魔物は棍棒を振り上げる。
「い、いや……! だれか、助けて……!」
声は震え、喉の奥でかすれる。
逃げなきゃ。分かっているのに、身体が言うことを聞かない。
「うるせぇ! 助けなんか来るわけ――」
棍棒が頭上に掲げられる。
影が私を覆い、死の匂いが迫る。
――嫌だ。
――死にたくない。
願いだけが胸の奥で暴れる。
けれど声すら出せない。
そのとき。
「はああっ!!」
「ぐうっ?!」
金属が肉を叩く鈍い音。
私は反射的に目を閉じた。
「ミオ!」
「ッ!?」
聞き慣れた声。
何度も危機の中で聞いてきた、確かな声。
「……サダメ?」
恐る恐る目を開く。
倒れ伏す魔物。
そして、私の前に立つ一人の背中。
短く息を吐き、剣を構えるサダメの姿。
「大丈夫か、ミオ?」
その一言で、張り詰めていた恐怖が一気に溶けていく。
全身から力が抜け、また涙がこぼれそうになる。
「……うん!」
でも、今は泣かない。
私は必死に涙をこらえ、強くうなずいた。
「ミオのおかげで結界は解けた。
あとは皆でここから逃げるだけだ。行こう!」
「うん!!」
差し出された手を、私はぎゅっと握る。
温かい掌が、確かに生きていることを教えてくれる。
引かれるまま、瓦礫の地面を走り出す。
夜風が頬を打ち、星の光が道を照らす。
もう少し。
あと少しで、みんな助かる。
閉ざされていた世界は終わった。
星空の下、希望の光が確かにそこにあった。