「う、うーん……」
「サダメ、大丈夫?」
「ん~?」
声を掛けられ、のろのろと顔を上げる。
目の前には心配そうなフィーの姿があった。
「うん。だいじょーぶ……」
『全然大丈夫そうに見えないんだけど』
ミオが呆れたように肩を竦める。
「なんか眠そうだよね。寝不足?」
「ん~……そういうわけじゃないんだけど……」
自分でも理由は分かっている。
分かっているのだが、上手く説明する気力がなかった。
「そういえば今朝は見かけなかったでござるな。体調でも優れぬのでござるか?」
「ん~。ダイジョ~ブ……」
全然大丈夫じゃない声だった。
「どうせ遅くまで一人でシコリまくって疲れてんだろ?」
「……」
「なんか言えよ!? 否定しろよ!? ガチっぽくなるだろうが!?」
「しこり?」
『マヒロちゃんは知らなくていいことだよ』
いつも通りのやり取りが繰り広げられる。
だが、それを聞いている自分は半分以上意識が飛びかけていた。
翌日。
朝から絶賛疲労困憊である。
昨夜は補習授業を終えた後、寮へ戻って二度目の風呂を済ませ、そのままベッドへ直行した。
睡眠時間自体はしっかり確保したはずだ。
にもかかわらず、この有様である。
眠い。
とにかく眠い。
気を抜けばその場で寝てしまいそうなくらい眠い。
その結果、毎朝欠かさず続けていた早朝トレーニングすらサボってしまった。
我ながら衝撃である。
それほどまでに昨日の疲労は凄まじかったらしい。
正直、少し舐めていた。
前世の社会人時代。
朝から晩まで肉体労働をこなし、帰宅後は深夜までゲーム。
今思えばかなり馬鹿な生活を送っていたが、それでも五、六時間ほど寝れば何とかなっていた。
だから今回も似たようなものだろうと考えていたのだ。
しかし現実は甘くなかった。
今の自分は十六歳。
しかも前世の自分とは比較にならないほど鍛え上げられた身体を持っている。
それなのにこの有様だ。
肉体だけの問題ではないのだろう。
魔力消費による疲労も関係しているのかもしれない。
だとしても予想以上だった。
身体が重い。
瞼も重い。
頭の回転まで鈍くなっている気がする。
授業中も何度か意識が飛びかけた。
昼休みになって皆が心配してくれている今ですら、会話の内容が半分ほどしか頭に入ってきていない。
参ったな。
今日はまだ終わっていない。
午後の授業もある。
魔法学の授業もある。
そして放課後には補習授業だ。
もし今の状態をコールスタッシュ先生に見られたら。
「補習程度でへばるな」
ぐらいは確実に言われるだろう。
いや、あの人ならもっと酷いかもしれない。
考えただけで少し気が重くなった。
もっとも、流石に昼過ぎには回復するだろう。
多分。
きっと。
恐らく。
……してほしい。
だが問題は今日だけではない。
恐らく次の任務まで、この生活は続く。
昼は授業。
放課後は補習。
朝は自主トレ。
このままでは身体が持たない。
さて、どうしたものか。
「……」
朝練を減らす。
一瞬その案が頭をよぎる。
だが即座に却下した。
それだけは駄目だ。
一度妥協すれば二度目もある。
三度目もある。
人間というのは案外簡単に楽な方へ流される。
少なくとも自分はそうだった。
前世の自分がまさにその典型だ。
今日は疲れているから。
明日やればいいから。
少しぐらいなら問題ないから。
そんな言い訳を積み重ねた結果、随分と自分を甘やかしてきた。
そして最後には――。
「……」
そこまで考えて思考を止める。
あまり思い出したくない。
ともかく。
朝練だけは続ける。
それは決定事項だ。
なら改善するべきはそれ以外。
生活習慣か。
それとも疲労回復の方法か。
学生という立場上、生活リズムを大きく変えるのは難しい。
だが後者なら何とかなるかもしれない。
例えば魔道具。
ソンジさんなら疲労回復に役立つ物の一つや二つ作れそうな気がする。
駄目でも相談する価値はあるだろう。
時間が空いたら聞いてみるか。
そんなことを考えながら、自分は欠伸を噛み殺した。