転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー15

 二学期二日目の夜。

 

 今日も放課後の体育館で、コールスタッシュ先生による補習授業を受けていた。

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 荒い息を吐きながら魔断石にもたれ掛かる。

 

 昨日に引き続き、今日の課題は威力調整だった。

 

 火球の出力。

 

 部分魔力強化《パージング》の比率。

 

 その二つを細かく調整しながら理想の一撃を探る。

 

 言葉にすれば簡単だ。

 

 だが実際にやってみると想像以上に難しい。

 

 火球の威力を落とし過ぎれば魔法として成立しない。

 

 逆に上げ過ぎれば反動が大きくなる。

 

 そこへ身体強化の調整まで加わる。

 

 どちらか一方だけならまだしも、二つ同時となると頭が追い付かなかった。

 

 何度も試行錯誤を繰り返す。

 

 少し火力を落とす。

 

 今度は強化を増やす。

 

 やっぱり違う。

 

 なら逆か。

 

 そんなことを延々と繰り返しているうちに、自分でも何が正解なのか分からなくなっていた。

 

 正直、頭が爆発しそうだった。

 

 「うーん……」

 

 先生が腕を組みながら唸る。

 

 「やっぱ昨日より成功率落ちてんな」

 

 「……」

 

 否定できない。

 

 昨日はほぼ成功していた。

 

 しかし今日は違う。

 

 威力調整を意識した途端、成功率が目に見えて落ちていた。

 

 途中で集中が切れる。

 

 魔力制御が乱れる。

 

 結果、不発。

 

 あるいは暴発。

 

 その繰り返しだった。

 

 「これ以上失敗して大怪我されてもな」

 

 先生はため息を吐く。

 

 「肉体よりメンタルの方が先に壊れそうだ。少し早いが今日はここまでにしとくか」

 

 「……はい」

 

 気付けば一時間ほどしか経っていない。

 

 それでも身体は限界だった。

 

 昨日ほど酷い怪我はしていない。

 

 だが細かい火傷や打撲は増えている。

 

 地味に痛い。

 

 しかも昨夜の疲労がまだ抜けきっていなかった。

 

 朝から感じていた倦怠感は結局消えず、授業中も何度も意識が飛びかけた。

 

 昼を過ぎれば何とかなる。

 

 そんな甘い考えをしていた昨日の自分を殴りたい。

 

 全然何とかなっていない。

 

 むしろ今の方が辛い。

 

 「……くそ」

 

 思わず悪態が漏れた。

 

 情けない。

 

 思った以上に自分は弱かったらしい。

 

 少し追い込まれただけでこの有様だ。

 

 そんな自分に苛立ちすら覚えていた。

 

 「レールステン」

 

 「はい?」

 

 先生に呼ばれて顔を上げる。

 

 何か説教だろうか。

 

 それとも今後の方針についてだろうか。

 

 そう思った次の瞬間。

 

 「もう辞めるか?」

 

 「……え?」

 

 一瞬意味が理解できなかった。

 

 辞める?

 

 何を?

 

 補習授業を?

 

 予想外の言葉に思考が止まる。

 

 先生は真剣な表情のまま続けた。

 

 「お前の練習風景を見ていて思ったんだがな」

 

 「……」

 

 「お前、自己犠牲精神が強すぎる」

 

 「ッ――」

 

 思わず息を呑む。

 

 「自分がどうなってもいいと思ってる奴の動きだ。見てりゃ分かる」

 

 先生は淡々と言った。

 

 怒っているわけでもない。

 

 呆れているわけでもない。

 

 ただ事実を述べているような口調だった。

 

 「普通の奴なら失敗した時点で怖くなる」

 

 先生は魔断石へ視線を向ける。

 

 「大怪我したら避ける。痛い思いしたら楽な方へ逃げる」

 

 それは自然な反応だ。

 

 誰だって苦しいことは嫌だ。

 

 怖いものは避けたい。

 

 だから先生の言葉は正しい。

 

 「だがお前は違う」

 

 視線が戻る。

 

 真っ直ぐこちらを見据えていた。

 

 「怪我しようが火傷しようが止まらねぇ」

 

 「……」

 

 「疲労でフラついてても続けようとする」

 

 反論できなかった。

 

 全部その通りだったからだ。

 

 「そのくせ人には魔法を撃てねぇ」

 

 先生は鼻で笑う。

 

 「はっきり言うぞ」

 

 一拍。

 

 静寂が落ちる。

 

 「お前は異常者だ」

 

 「……」

 

 胸が僅かに痛んだ。

 

 否定されたからではない。

 

 心当たりがあったからだ。

 

 石を殴って拳が裂けても続けた。

 

 魔法で火傷しても止まらなかった。

 

 疲労でまともに動けなくても朝練を続けようとしている。

 

 冷静に考えれば確かに普通ではない。

 

 「別に悪いとは言わねぇ」

 

 先生は続ける。

 

 「強くなりたいって気持ちは本物だろうしな」

 

 その言葉は少し嬉しかった。

 

 だが先生はすぐに表情を引き締める。

 

 「けどな」

 

 「……」

 

 「周りから見れば危なっかしくて見てられねぇんだよ」

 

 その一言でようやく理解した。

 

 先生が言いたかったこと。

 

 それは才能でも実力でもない。

 

 俺自身のことだった。

 

 先生は自分が潰れることを心配しているのだ。

 

 だから辞めるかと聞いた。

 

 だからここで選ばせようとしている。

 

 それでも続けるのか、と。

 

 「……」

 

 体育館に静寂が落ちる。

 

 普通なら。

 

 ここで休むべきなのだろう。

 

 少し身体を労わるべきなのだろう。

 

 それが正しい判断だ。

 

 先生の言葉も理解できる。

 

 理解できるが――

 

 それでも。

 

 「……いえ」

 

 自分の答えは変わらなかった。

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