「……一応、理由を聞いておこうか」
静かにそう問い掛けられる。
自分はゆっくりと身体を起こした。
さっきまで仰向けに寝転がっていたが、この話だけは寝たままでする気になれなかった。
地面へ腰を下ろし、先生と向き合う。
先生も煙草を咥えたまま黙ってこちらを見ていた。
だから自分も正直に話すことにした。
「昔、自分の生まれ育った村が魔物に襲われたことがあったんです」
「……」
先生は何も言わない。
続きを促すように煙を吐いただけだった。
「それから一年くらい、魔物に奴隷みたいに扱われました」
言葉にすると改めて酷い話だと思う。
だが、それが事実だった。
「親も村の大人達もみんな死にました。俺達子供だけで何とか生き延びて……」
一瞬言葉が詰まる。
今でも鮮明に思い出せる。
飢え。
恐怖。
絶望。
そして仲間達の死。
「……結局、生き残ったのは俺とミオだけでしたけど」
静かにそう締め括る。
先生は僅かに目を細めた。
「ドレーカ村か」
「……はい」
頷く。
どうやら知っていたらしい。
無理もない。
あれだけの事件だ。
学園の教師なら耳にしていて当然だろう。
しばらく沈黙が流れる。
体育館の中に煙草の煙だけがゆっくりと漂った。
やがて自分は続きを口にする。
「その時、思ったんです」
拳を握る。
無意識だった。
「自分がもっと強ければって」
先生は黙って聞いている。
「もっと強かったら両親を助けられたかもしれない」
握る力が強くなる。
「村の大人達も」
脳裏に懐かしい顔が浮かぶ。
「子供達も」
消えていった命の数だけ。
後悔がある。
「だから俺は強くなりたいんです」
顔を上げる。
先生の目を真っ直ぐ見据えた。
「勇者みたいな強い人に」
それが自分の答えだった。
「その為なら多少の無茶なんて屁でもないですよ」
少しだけ笑う。
「魔物にしごかれたおかげで我慢強くなりましたし」
冗談めかして言ってみる。
だが先生は笑わなかった。
ただ静かに煙草へ火を付け直した。
パチリ、と小さな音が鳴る。
そして。
「なるほどな」
短くそう言った。
理解してくれた。
少なくとも自分はそう思った。
だからこそ次の言葉は予想外だった。
「だが」
先生の声が少しだけ低くなる。
「今のお前のやり方に賛同する気にはなれねぇな」
「ッ――」
思わず息を呑む。
否定された。
理解してもらえたと思った矢先に。
しかし先生は構わず続ける。
「理由は分かった」
煙を吐く。
「強くなりたい気持ちも本物だ」
そこまでは認めてくれる。
だが。
「このままだと先に身体が壊れる」
断言だった。
「お前、自分が潰れる前提で頑張ってるだろ」
「……」
反論できない。
図星だったからだ。
先生は小さくため息を吐いた。
「そこでだ」
そして不意に口元を吊り上げる。
どこか悪戯を思い付いた子供みたいな顔だった。
「お前に条件を出す」
「条件?」
「その達成次第で補習授業を続けるか決める」
思わず背筋が伸びる。
先生が本題に入ったことを察したからだ。
先生は煙草を咥えたまま人差し指を立てた。
「一週間」
「……」
「一週間で俺にその魔法を撃てるようになれ」
「ッ!?」
一瞬耳を疑った。
「い、一週間!?」
思わず声が裏返る。
先生は平然としていた。
「期限内に出来なければ補習は終了」
淡々と言い放つ。
「その代わり」
そこで不敵な笑みを浮かべた。
嫌な予感と期待が同時に込み上げる。
「達成したら補習は継続だ」
先生は親指で自分を指差した。
そして。
「――俺のとっておきの必殺技を教えてやるよ」
その瞬間。
疲労で重かった意識が一気に覚醒した。