転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー16

 「……一応、理由を聞いておこうか」

 

 静かにそう問い掛けられる。

 

 自分はゆっくりと身体を起こした。

 

 さっきまで仰向けに寝転がっていたが、この話だけは寝たままでする気になれなかった。

 

 地面へ腰を下ろし、先生と向き合う。

 

 先生も煙草を咥えたまま黙ってこちらを見ていた。

 

 だから自分も正直に話すことにした。

 

 「昔、自分の生まれ育った村が魔物に襲われたことがあったんです」

 

 「……」

 

 先生は何も言わない。

 

 続きを促すように煙を吐いただけだった。

 

 「それから一年くらい、魔物に奴隷みたいに扱われました」

 

 言葉にすると改めて酷い話だと思う。

 

 だが、それが事実だった。

 

 「親も村の大人達もみんな死にました。俺達子供だけで何とか生き延びて……」

 

 一瞬言葉が詰まる。

 

 今でも鮮明に思い出せる。

 

 飢え。

 

 恐怖。

 

 絶望。

 

 そして仲間達の死。

 

 「……結局、生き残ったのは俺とミオだけでしたけど」

 

 静かにそう締め括る。

 

 先生は僅かに目を細めた。

 

 「ドレーカ村か」

 

 「……はい」

 

 頷く。

 

 どうやら知っていたらしい。

 

 無理もない。

 

 あれだけの事件だ。

 

 学園の教師なら耳にしていて当然だろう。

 

 しばらく沈黙が流れる。

 

 体育館の中に煙草の煙だけがゆっくりと漂った。

 

 やがて自分は続きを口にする。

 

 「その時、思ったんです」

 

 拳を握る。

 

 無意識だった。

 

 「自分がもっと強ければって」

 

 先生は黙って聞いている。

 

 「もっと強かったら両親を助けられたかもしれない」

 

 握る力が強くなる。

 

 「村の大人達も」

 

 脳裏に懐かしい顔が浮かぶ。

 

 「子供達も」

 

 消えていった命の数だけ。

 

 後悔がある。

 

 「だから俺は強くなりたいんです」

 

 顔を上げる。

 

 先生の目を真っ直ぐ見据えた。

 

 「勇者みたいな強い人に」

 

 それが自分の答えだった。

 

 「その為なら多少の無茶なんて屁でもないですよ」

 

 少しだけ笑う。

 

 「魔物にしごかれたおかげで我慢強くなりましたし」

 

 冗談めかして言ってみる。

 

 だが先生は笑わなかった。

 

 ただ静かに煙草へ火を付け直した。

 

 パチリ、と小さな音が鳴る。

 

 そして。

 

 「なるほどな」

 

 短くそう言った。

 

 理解してくれた。

 

 少なくとも自分はそう思った。

 

 だからこそ次の言葉は予想外だった。

 

 「だが」

 

 先生の声が少しだけ低くなる。

 

 「今のお前のやり方に賛同する気にはなれねぇな」

 

 「ッ――」

 

 思わず息を呑む。

 

 否定された。

 

 理解してもらえたと思った矢先に。

 

 しかし先生は構わず続ける。

 

 「理由は分かった」

 

 煙を吐く。

 

 「強くなりたい気持ちも本物だ」

 

 そこまでは認めてくれる。

 

 だが。

 

 「このままだと先に身体が壊れる」

 

 断言だった。

 

 「お前、自分が潰れる前提で頑張ってるだろ」

 

 「……」

 

 反論できない。

 

 図星だったからだ。

 

 先生は小さくため息を吐いた。

 

 「そこでだ」

 

 そして不意に口元を吊り上げる。

 

 どこか悪戯を思い付いた子供みたいな顔だった。

 

 「お前に条件を出す」

 

 「条件?」

 

 「その達成次第で補習授業を続けるか決める」

 

 思わず背筋が伸びる。

 

 先生が本題に入ったことを察したからだ。

 

 先生は煙草を咥えたまま人差し指を立てた。

 

 「一週間」

 

 「……」

 

 「一週間で俺にその魔法を撃てるようになれ」

 

 「ッ!?」

 

 一瞬耳を疑った。

 

 「い、一週間!?」

 

 思わず声が裏返る。

 

 先生は平然としていた。

 

 「期限内に出来なければ補習は終了」

 

 淡々と言い放つ。

 

 「その代わり」

 

 そこで不敵な笑みを浮かべた。

 

 嫌な予感と期待が同時に込み上げる。

 

 「達成したら補習は継続だ」

 

 先生は親指で自分を指差した。

 

 そして。

 

 「――俺のとっておきの必殺技を教えてやるよ」

 

 その瞬間。

 

 疲労で重かった意識が一気に覚醒した。

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