「ふぅぅぅぅ……づかれたぁぁぁぁぁ……」
寮へ戻り、風呂を済ませた自分はそのままベッドへダイブした。
顔から。
勢いよく。
ふかり、と柔らかな感触が身体を受け止める。
最高だ。
やっぱりベッドは偉大だった。
昨日の疲労が完全に抜け切っていない状態で今日も補習授業。
しかも途中から威力調整まで始めたせいで、身体も頭も限界に近い。
このまま目を閉じたら五秒で眠れる自信があった。
いや、多分三秒だ。
それくらい疲れている。
「……はぁ」
しかし。
眠る前に考えなければならないことがある。
うつ伏せになっていた身体をひっくり返し、天井を見上げる。
今日の先生との会話が脳裏に浮かんだ。
――一週間で俺にその魔法を撃てるようになれ。
先生が出した条件。
期限は一週間。
達成できなければ補習授業は終了。
達成できれば先生の必殺技を教えてもらえる。
正直、魅力的すぎる報酬だった。
だからこそ失敗できない。
「どうすっかなぁ……」
思わず独り言が漏れる。
威力調整については何とかなる気がしている。
実際、今日だけでも色々な感触は掴めた。
火球の出力。
部分魔力強化《パージング》との比率。
その辺りは試行錯誤を続ければ答えに近付けるだろう。
多少痛い思いはするだろうが、先生も治療してくれる。
問題はそこじゃない。
問題は。
「俺自身か……」
小さく呟く。
結局、自分が先生へ魔法を撃てない原因はそこにある。
魔法の技術ではない。
威力でもない。
自分の頭の中だ。
万が一を考えてしまう。
最悪の結果を想像してしまう。
そしてブレーキを掛けてしまう。
昨日の失敗はまさにそれだった。
先生の身体を貫く拳。
血飛沫。
倒れる姿。
そんな光景を想像してしまった瞬間、身体が止まった。
原因は分かっている。
問題はどうやって克服するかだ。
「……」
正直、難しい。
というか無理だ。
一週間で性格を変えろと言われて出来る人間なんて存在するのだろうか。
少なくとも自分には無理な気がする。
人間の性格はそう簡単に変わらない。
昔どこかでそんな話を聞いたことがある。
もちろん例外はある。
人生を変えるような出来事。
価値観そのものをひっくり返すような経験。
そういうものがあれば変わることもあるだろう。
実際、自分も前世から考えれば随分変わったと思う。
前世の自分なら。
あんな魔物だらけの環境で生き残れなかった。
痛いことも苦しいことも嫌いだったし、面倒事から逃げるのも得意だった。
だから今の自分は確実に変わっている。
変わってはいるのだが。
「だからって一週間は無理だろ……」
苦笑する。
急に人格改造なんて出来る訳がない。
だったらどうする。
性格を変えられないなら。
考え方を変えるか。
あるいは――。
「……あ」
その瞬間だった。
一つの考えが頭をよぎる。
そして。
次々と点と点が繋がっていく。
先生へ魔法を撃てない理由。
自分が恐れていること。
そして火球・炎衝拳の未完成な部分。
もし。
もしそれが完成したら。
「……待てよ」
思わず身体を起こした。
眠気が少し吹き飛ぶ。
まだ確信はない。
成功する保証もない。
だが。
試してみる価値はある。
「いけるかもしれない……」
条件達成への道筋が、ほんの少しだけ見えた気がした。
まずは火球・炎衝拳の完成だ。
威力を調整する。
成功率を上げる。
話はそこからだ。
「よし」
小さく拳を握る。
やるべきことは決まった。
後は実行するだけだ。
再びベッドへ身体を沈める。
疲労は相変わらず酷い。
だが先ほどまでの不安は少しだけ薄れていた。
瞼が重い。
意識が沈む。
眠りへ落ちる直前まで、自分は頭の中で火球・炎衝拳の調整を繰り返していた。
火力と強化。
その黄金比を探しながら。
――転生勇者が死ぬまで、残り3928日