あれから一週間。
コールスタッシュ先生との約束の日が、ついにやってきた。
「約束どおり期限は今日までだ。やれるか?」
「はい! 大丈夫です!」
「ほお? この前とはえらい違いだな」
体育館の中央で、再び先生と向かい合う。
この一週間、ひたすら練習した。
何度も失敗し、何度も調整を重ねた。
今では成功率もかなり安定している。
準備は万全。
あとは考え抜いた作戦を実行するだけだ。
完成度を少しでも高めたくて、結局ぶっつけ本番になってしまったが、それでも以前のような焦りはない。
やれる。
今ならきっと。
「……来い」
先生は腰を落として構えを取る。
そして人差し指と中指を軽く曲げ、挑発するように合図を送った。
かかってこい、と。
それを見た自分も深く息を吸う。
「……スゥ」
腰を落とし、右拳を腹の前へ。
意識を一点に集中させる。
「爆ぜる焔よ、火の球として右腕に聚合し、眼前に現れし標的に爆炎の一撃を与えん」
静かに詠唱を紡ぐ。
頭の中で組み上げるのは、自分なりの完成形。
火球・炎衝拳。
火力は二・九。
身体強化は七・一。
火力を削りすぎれば威力が足りない。
だが火力を上げれば制御できない。
何度も試した末に辿り着いた最適解。
これ以上は削れない。
あとは――殴るだけだ。
だが問題はそこではない。
先生に向かって撃つ。
たったそれだけのことが、怖かった。
いくら練習しても。
いくら成功率を上げても。
目の前に立つのは、自分の担任教師なのだから。
「……」
だから自分は目を閉じた。
魔法ではなく、相手をイメージする。
この魔法を放ったら先生はどう動くのか。
どう対処するのか。
考える。
考える。
考える。
そして答えはすぐに出た。
先生なら――
「【火球《フレール》】ッ!!」
きっとこうするはず。
「【炎衝拳《インパクト》】ォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
目を閉じたまま、全力で右拳を振り抜く。
爆発的な推進力が身体を押し出す。
だが。
右腕に痛みはない。
反動もない。
成功した。
その確信だけはあった。
目の前にある標的はただ一人。
コールスタッシュ先生だけ。
魔断石もない。
ならば――
「……なるほどな」
低い声が響く。
「ちっとは考えたな、レールステン」
「ッ!?」
右手に違和感を覚える。
何かを殴った感触ではない。
掴まれている。
そう気づいた瞬間、恐る恐る目を開いた。
見たくないような。
けれど見届けなければならないような。
複雑な感情を抱えながら視界を開く。
そして――
そこには、自分の拳を右手一本で受け止めている先生の姿があった。
炎を纏った拳は確かに届いている。
だが、その先へは一歩たりとも進めない。
まるで巨大な壁に阻まれたかのように。
先生は微動だにしていなかった。