転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

458 / 462
第9章ー18

 あれから一週間。

 

 コールスタッシュ先生との約束の日が、ついにやってきた。

 

 「約束どおり期限は今日までだ。やれるか?」

 

 「はい! 大丈夫です!」

 

 「ほお? この前とはえらい違いだな」

 

 体育館の中央で、再び先生と向かい合う。

 

 この一週間、ひたすら練習した。

 

 何度も失敗し、何度も調整を重ねた。

 

 今では成功率もかなり安定している。

 

 準備は万全。

 

 あとは考え抜いた作戦を実行するだけだ。

 

 完成度を少しでも高めたくて、結局ぶっつけ本番になってしまったが、それでも以前のような焦りはない。

 

 やれる。

 

 今ならきっと。

 

 「……来い」

 

 先生は腰を落として構えを取る。

 

 そして人差し指と中指を軽く曲げ、挑発するように合図を送った。

 

 かかってこい、と。

 

 それを見た自分も深く息を吸う。

 

 「……スゥ」

 

 腰を落とし、右拳を腹の前へ。

 

 意識を一点に集中させる。

 

 「爆ぜる焔よ、火の球として右腕に聚合し、眼前に現れし標的に爆炎の一撃を与えん」

 

 静かに詠唱を紡ぐ。

 

 頭の中で組み上げるのは、自分なりの完成形。

 

 火球・炎衝拳。

 

 火力は二・九。

 

 身体強化は七・一。

 

 火力を削りすぎれば威力が足りない。

 

 だが火力を上げれば制御できない。

 

 何度も試した末に辿り着いた最適解。

 

 これ以上は削れない。

 

 あとは――殴るだけだ。

 

 だが問題はそこではない。

 

 先生に向かって撃つ。

 

 たったそれだけのことが、怖かった。

 

 いくら練習しても。

 

 いくら成功率を上げても。

 

 目の前に立つのは、自分の担任教師なのだから。

 

 「……」

 

 だから自分は目を閉じた。

 

 魔法ではなく、相手をイメージする。

 

 この魔法を放ったら先生はどう動くのか。

 

 どう対処するのか。

 

 考える。

 

 考える。

 

 考える。

 

 そして答えはすぐに出た。

 

 先生なら――

 

 「【火球《フレール》】ッ!!」

 

 きっとこうするはず。

 

 「【炎衝拳《インパクト》】ォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

 目を閉じたまま、全力で右拳を振り抜く。

 

 爆発的な推進力が身体を押し出す。

 

 だが。

 

 右腕に痛みはない。

 

 反動もない。

 

 成功した。

 

 その確信だけはあった。

 

 目の前にある標的はただ一人。

 

 コールスタッシュ先生だけ。

 

 魔断石もない。

 

 ならば――

 

 「……なるほどな」

 

 低い声が響く。

 

 「ちっとは考えたな、レールステン」

 

 「ッ!?」

 

 右手に違和感を覚える。

 

 何かを殴った感触ではない。

 

 掴まれている。

 

 そう気づいた瞬間、恐る恐る目を開いた。

 

 見たくないような。

 

 けれど見届けなければならないような。

 

 複雑な感情を抱えながら視界を開く。

 

 そして――

 

 そこには、自分の拳を右手一本で受け止めている先生の姿があった。

 

 炎を纏った拳は確かに届いている。

 

 だが、その先へは一歩たりとも進めない。

 

 まるで巨大な壁に阻まれたかのように。

 

 先生は微動だにしていなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。