「……はあ……はあ……」
息を整えながら、目の前の光景を見つめる。
調整は完璧だった。
威力も申し分ない。
反動も来ていない。
失敗はしていない。
頭の中で描いていた通り、魔法そのものは間違いなく成功していた。
だが――
「俺がこうするところまでイメージ通りだったか?」
先生は自分の拳を掴んだまま、口元を僅かに吊り上げる。
「ま、まあ……先生ぐらいならこうするんじゃないかとは思ってましたけど……」
自分も苦笑いを浮かべる。
予想していた。
確かに予想していたのだ。
だが実際にやられると話は別である。
「いざやられると結構精神的にきますね……」
せっかく完成させた一撃を右手一本で止められているのだ。
ショックがないわけがない。
しかもこちらの考えまで見抜かれている。
改めて思う。
やっぱりこの人、普通じゃない。
「魔法をイメージする感覚で相手の動きまで予測するか」
先生は掴んでいた拳を離した。
「発想は悪くねえ。威力も十分だ。正直、俺も全力の部分魔力強化《パージング》なしじゃ受け止められなかった」
「えっ」
思わず目を見開く。
今なんて言った?
受け止められなかった?
先生が?
少しだけ嬉しくなる。
だが。
「ただし欠点も多い」
やはり続きがあった。
「まず俺がお前の想定通りに動く保証がねえ。今回みたいな状況だから成立しただけだ」
先生は指を一本立てる。
「それに目を閉じてる以上、相手の動きは見えてねえ。次の行動に対応できなくなる」
二本目。
「最悪、そのまま相手を見失う」
三本目。
「要するに、読みが外れた瞬間に終わる」
「うっ……」
反論できなかった。
実際その通りだからだ。
今回の作戦は弱点克服だけを目的に考えたもの。
実戦向きかと聞かれれば答えはノーだろう。
先生はしばらくこちらを見つめる。
そして、
「だが」
その一言で空気が変わった。
「今回の条件は俺に魔法を撃つことだ」
先生が腕を組む。
「条件は達成してる。約束通り補習は続行だ」
「ッ!?」
一瞬、言葉の意味を理解できなかった。
だが次の瞬間。
「はい!!」
思わず大声が飛び出した。
終わらなかった。
補習は続く。
胸の奥に溜まっていた重石が一気に消えていく。
先生はそんな自分を見て呆れたように肩を竦めた。
「んじゃ、追加の報酬もやんねーとな」
「追加の報酬?」
「ったく。この前言ったろ」
先生は深いため息を吐く。
「新しい必殺技を教えてやるってな」
「あっ!?」
そうだった。
補習のことばかり考えていて完全に忘れていた。
新しい必殺技。
先生直々の指導。
つまり次の課題であり、自分の新たな切り札になる可能性が高い。
自然と胸が高鳴る。
先生は自分と同じ炎魔法使いだ。
なら炎魔法なのだろうか。
それとも火球・炎衝拳をさらに発展させた技なのか。
考えるだけでワクワクしてくる。
だが。
先生はすぐには話を続けなかった。
何かを考えるように顎を掻き、
「その前にレールステン」
「はい?」
先生は静かにこちらを見る。
先ほどまでの軽い雰囲気とは少し違う。
まるで何かを見定めるような視線だった。
「一つ聞いておきたい」
「……?」
自然と背筋が伸びる。
すると先生は短く問いかけた。
「お前、剣と拳ならどっちがいい?」