転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー19

 「……はあ……はあ……」

 

 息を整えながら、目の前の光景を見つめる。

 

 調整は完璧だった。

 

 威力も申し分ない。

 

 反動も来ていない。

 

 失敗はしていない。

 

 頭の中で描いていた通り、魔法そのものは間違いなく成功していた。

 

 だが――

 

 「俺がこうするところまでイメージ通りだったか?」

 

 先生は自分の拳を掴んだまま、口元を僅かに吊り上げる。

 

 「ま、まあ……先生ぐらいならこうするんじゃないかとは思ってましたけど……」

 

 自分も苦笑いを浮かべる。

 

 予想していた。

 

 確かに予想していたのだ。

 

 だが実際にやられると話は別である。

 

 「いざやられると結構精神的にきますね……」

 

 せっかく完成させた一撃を右手一本で止められているのだ。

 

 ショックがないわけがない。

 

 しかもこちらの考えまで見抜かれている。

 

 改めて思う。

 

 やっぱりこの人、普通じゃない。

 

 「魔法をイメージする感覚で相手の動きまで予測するか」

 

 先生は掴んでいた拳を離した。

 

 「発想は悪くねえ。威力も十分だ。正直、俺も全力の部分魔力強化《パージング》なしじゃ受け止められなかった」

 

 「えっ」

 

 思わず目を見開く。

 

 今なんて言った?

 

 受け止められなかった?

 

 先生が?

 

 少しだけ嬉しくなる。

 

 だが。

 

 「ただし欠点も多い」

 

 やはり続きがあった。

 

 「まず俺がお前の想定通りに動く保証がねえ。今回みたいな状況だから成立しただけだ」

 

 先生は指を一本立てる。

 

 「それに目を閉じてる以上、相手の動きは見えてねえ。次の行動に対応できなくなる」

 

 二本目。

 

 「最悪、そのまま相手を見失う」

 

 三本目。

 

 「要するに、読みが外れた瞬間に終わる」

 

 「うっ……」

 

 反論できなかった。

 

 実際その通りだからだ。

 

 今回の作戦は弱点克服だけを目的に考えたもの。

 

 実戦向きかと聞かれれば答えはノーだろう。

 

 先生はしばらくこちらを見つめる。

 

 そして、

 

 「だが」

 

 その一言で空気が変わった。

 

 「今回の条件は俺に魔法を撃つことだ」

 

 先生が腕を組む。

 

 「条件は達成してる。約束通り補習は続行だ」

 

 「ッ!?」

 

 一瞬、言葉の意味を理解できなかった。

 

 だが次の瞬間。

 

 「はい!!」

 

 思わず大声が飛び出した。

 

 終わらなかった。

 

 補習は続く。

 

 胸の奥に溜まっていた重石が一気に消えていく。

 

 先生はそんな自分を見て呆れたように肩を竦めた。

 

 「んじゃ、追加の報酬もやんねーとな」

 

 「追加の報酬?」

 

 「ったく。この前言ったろ」

 

 先生は深いため息を吐く。

 

 「新しい必殺技を教えてやるってな」

 

 「あっ!?」

 

 そうだった。

 

 補習のことばかり考えていて完全に忘れていた。

 

 新しい必殺技。

 

 先生直々の指導。

 

 つまり次の課題であり、自分の新たな切り札になる可能性が高い。

 

 自然と胸が高鳴る。

 

 先生は自分と同じ炎魔法使いだ。

 

 なら炎魔法なのだろうか。

 

 それとも火球・炎衝拳をさらに発展させた技なのか。

 

 考えるだけでワクワクしてくる。

 

 だが。

 

 先生はすぐには話を続けなかった。

 

 何かを考えるように顎を掻き、

 

 「その前にレールステン」

 

 「はい?」

 

 先生は静かにこちらを見る。

 

 先ほどまでの軽い雰囲気とは少し違う。

 

 まるで何かを見定めるような視線だった。

 

 「一つ聞いておきたい」

 

 「……?」

 

 自然と背筋が伸びる。

 

 すると先生は短く問いかけた。

 

 「お前、剣と拳ならどっちがいい?」

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