「――とまあ、こんな感じだ」
先生はそう言うと業火剣《ヘルファード》を霧散させた。
体育館に静寂が戻る。
そして。
「……」
自分は何も言えなかった。
驚いていた。
それも、どちらかと言えば悪い意味で。
「……あの」
「ん?」
先生が首を傾げる。
自分は少しだけ言葉を選んだ。
「新しい必殺技っていうのは……」
「今見せただろ?」
「……」
会話が終わった。
いや、終わらせられた。
どうやら先生は本気で言っているらしい。
不思議そうな顔までしている。
俺、そんなに変なことを聞いたか?
正直に言う。
期待していた。
先生直伝の必殺技だ。
父さんみたいな巨大な炎の斬撃とか。
山を割るような大技とか。
そういうものを勝手に想像していた。
だが現実は違った。
先生がやったことはただ一つ。
剣で斬った。
それだけだ。
もちろんダミー人形は綺麗に真っ二つになっている。
剣筋も凄まじかった。
だが。
派手な爆発もなければ。
炎の奔流もない。
どう見ても普通に斬っただけである。
「なんか不満そうだな」
「ッ!?」
心の声が漏れていたのかと思った。
慌てて顔を上げると、先生がこちらを見ている。
「い、いえ……」
否定しようとして。
やめた。
どうせバレている。
この人相手に取り繕うだけ無駄だ。
「……まあ、はい」
小さく頷く。
すると先生は怒るどころか鼻で笑った。
「まっ、実際今のはダミー人形斬っただけだからな」
「えっ?」
思わず聞き返す。
「だから意味ねーんだよ」
「……は?」
今なんて言った?
意味がない?
自分で見本見せておいて?
先生は呆れたように頭を掻く。
「この魔法は生物や魔物に対して効果を発揮するタイプだ。無機物相手じゃただ斬ったのと変わらねえ」
「……」
じゃあ本当にただ斬っただけじゃないか。
なんだそれ。
さっきまで少し感心していた自分が馬鹿みたいだ。
「だから今日見せられるのはここまでだ」
「いやいやいや!」
思わず声が出た。
「それじゃあ覚えようにもどんな魔法なのか分からないじゃないですか!」
「まあな」
先生は悪びれもなく頷く。
「やり方と効果は今から教えてやる。実際どうなるかは実戦で試してからのお楽しみだ」
「そんな……」
あまりにも雑である。
だが先生は至って真面目な顔だ。
冗談ではないらしい。
どんな効果なのか。
どれだけ強いのか。
何一つ分からない。
分かることがあるとすれば――
どうやら地味そうな魔法だということくらいだった。
「……」
なんとも言えない気持ちになる。
期待が大きかった分だけ尚更だ。
そんな自分を見て先生は肩を竦めた。
「ま、そう落ち込むな」
「落ち込んでません」
「嘘つけ」
即答だった。
ぐうの音も出ない。
先生は小さく笑うと、ふと真面目な表情になる。
「その前に一つだけ言っとかなきゃならねえことがある」
「……?」
空気が変わった。
さっきまでの軽い雰囲気が消える。
自然と背筋が伸びる。
先生が先に注意するということは、それだけ重要な話なのだろう。
そして。
先生は静かに口を開いた。
「いいか」
その声だけで空気が張り詰める。
「この魔法は――必殺技であって必殺技じゃねえ」
意味が分からなかった。
その言葉の意味を理解できないまま。
自分は新たな特訓へと足を踏み入れることになるのだった。
――転生勇者が死ぬまで、残り3921日