転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー22

 それから五日後。

 

 初迷宮まで残り二日となった。

 

 「よし。今日はここまでだ」

 

 コールスタッシュ先生は肩を回しながらそう言った。

 

 「明日の魔法学と補習はなしだ。しっかり休んで任務に備えろ」

 

 そして少し間を置き、

 

 「当日に風邪なんか引いたら殺すかんな」

 

 「は、はい……」

 

 最後だけ物騒だった。

 

 この五日間、自分は先生の指導の下で新必殺技の習得に励んでいた。

 

 とはいえ――

 

 「どうだ? 新しい必殺技覚えた感想は?」

 

 「いや、感想も何も……」

 

 思わず苦笑する。

 

 「ひたすら素振りとダミー人形斬っただけなんで、覚えた実感すらないんですけど」

 

 「ははっ。そりゃそうだろうな」

 

 先生は楽しそうに笑った。

 

 だが笑い事ではない。

 

 本当に覚えた気がしないのだ。

 

 教わったのは魔法の効果。

 

 そして剣の振り方。

 

 それだけ。

 

 あとは毎日延々と素振り。

 

 素振り。

 

 素振り。

 

 たまにダミー人形。

 

 そしてまた素振り。

 

 やっていることだけ見れば、いつもの朝練と大差ない。

 

 なんなら最近は朝練でも意識して同じ振り方をしている。

 

 これで本当に新必殺技を覚えたと言えるのだろうか。

 

 「先生。本当にこれで習得できてるんですかね?」

 

 素直な疑問を口にする。

 

 すると先生は顎を掻いた。

 

 「さあな」

 

 「さあな?」

 

 「生物で試すしかねーしな」

 

 先生は平然と続ける。

 

 「その辺の虫斬っても意味ねーし、使い魔で試すにしても効率悪い」

 

 そこまでは分かる。

 

 問題はその次だった。

 

 「なんならその辺の生徒で試してみるか?」

 

 「俺ただの辻斬りじゃないっすか!?」

 

 思わず叫んだ。

 

 先生は悪びれもしない。

 

 「こんな夜中に出歩いてる方も悪いだろ」

 

 「悪くないですよ!?」

 

 「今後の指導のためにも一回くらい――」

 

 「やる訳ないでしょ!?」

 

 全力で否定する。

 

 この人、冗談みたいな顔をしているが一割くらい本気で言ってそうなのが怖い。

 

 本当に怖い。

 

 もし実行したら退学どころの騒ぎじゃない。

 

 普通に犯罪である。

 

 人生終了だ。

 

 「ほら、終わったならさっさと帰れ」

 

 先生は面倒そうに手を振った。

 

 「そんなに眠いなら寮に戻って寝ろ」

 

 そして一拍置いて、

 

 「永眠してえなら話は別だが?」

 

 「ッ!?」

 

 背筋が凍った。

 

 「お、お疲れ様でしたー!!」

 

 逃げるように頭を下げる。

 

 先生は呆れたようにため息を吐いた。

 

 「ったく」

 

 その姿を横目に、自分は重たい身体を無理やり起こす。

 

 疲労は限界。

 

 今すぐベッドに飛び込みたい。

 

 だが先生の顔を見ていると、それ以上ここに残る方が危険な気がした。

 

 というか本当に危険かもしれない。

 

 あの人なら何かしらやらかしても不思議じゃない。

 

 そんなことを考えながら体育館を後にする。

 

 廊下を歩き、夜風に当たりながら空を見上げた。

 

 初迷宮まで残り二日。

 

 楽しみな気持ちはある。

 

 だが同じくらい不安もあった。

 

 迷宮とはどんな場所なのか。

 

 本当に自分は通用するのか。

 

 新必殺技は役に立つのか。

 

 考えれば考えるほど分からなくなる。

 

 それでも。

 

 今は進むしかない。

 

 期待と不安を胸に抱えながら、自分は寮への帰路に就いた。

 

 ――この時の自分はまだ知らない。

 

 二日後の迷宮で、想像を遥かに超える出来事に巻き込まれることを。

 

 ――転生勇者が死ぬまで、残り3916日

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