転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー23

 二日後。

 

 新学期最初の任務の日がやってきた。

 

 まだ朝日も昇りきっていない早朝。

 

 学園の正門前には各班の生徒達が集められていた。

 

 緊張した顔。

 

 楽しそうな顔。

 

 不安そうな顔。

 

 反応は様々だが、全員に共通していることが一つだけある。

 

 これから初めて迷宮へ向かうのだ。

 

 自然と空気も張り詰める。

 

 そんな生徒達を前に、コールスタッシュ先生が腕を組んだ。

 

 「いいかお前ら。改めて今回の任務内容を確認する」

 

 周囲が静かになる。

 

 先生は淡々と説明を始めた。

 

 「今回の任務は迷宮の攻略だ。つっても最下層まで行って帰ってくるだけの簡単なお仕事だな」

 

 その言い方に何人かが安堵しかける。

 

 だが先生はすぐに続けた。

 

 「ただし、道中に危険な魔物が出る可能性は十分ある」

 

 その一言で空気が引き締まった。

 

 「危険だと判断した場合は最下層に行く前でも帰還していい。無理に進む必要はねえ」

 

 先生は腰のポーチから小冊子を取り出す。

 

 「各班には迷宮の地図と生息魔物の情報が載った冊子を配ってある。基本的にはそこに書いてある連中が相手だ」

 

 自分も手元の冊子へ目を落とした。

 

 地図。

 

 出現魔物。

 

 危険区域。

 

 騎士団が調査した情報が細かく記載されている。

 

 簡易的な攻略本のようなものだ。

 

 『あのー』

 

 フィーが手を上げた。

 

 「なんだ、ミッドブルー」

 

 『ここに載ってない魔物が出る可能性ってあるんですか?』

 

 当然の疑問だった。

 

 記録はあくまで記録。

 

 絶対ではない。

 

 先生もすぐに頷く。

 

 「あるな」

 

 即答だった。

 

 「特に人語を話す連中は厄介だ。人間と同じくらい知恵が回るからな。情報通りに動く保証なんざねえ」

 

 周囲がざわつく。

 

 先生は構わず続けた。

 

 「だから撤退を許可してる。想定外が起きることも含めて考えろ」

 

 『なるほど。了解です』

 

 フィーは納得したように頷いた。

 

 先生は全員を見渡す。

 

 そして少しだけ声の調子を変えた。

 

 「今回の目的は攻略じゃねえ」

 

 その言葉に全員の視線が集まる。

 

 「下見だ。いや、見学と言った方が近いな」

 

 先生は一拍置いた。

 

 「だが普通の見学とは違う」

 

 空気が静まる。

 

 「一歩間違えれば死ぬ」

 

 誰も口を開かない。

 

 冗談を言っている時とは違う。

 

 今の先生は教師として話していた。

 

 「お前らの最優先事項は生きて帰ってくることだ」

 

 先生の声が響く。

 

 「戦闘は極力避けろ。勝てそうだからって手を出した結果、仲間を危険に晒すこともある」

 

 迷宮では何が起こるか分からない。

 

 一体倒した瞬間、別の群れに囲まれるかもしれない。

 

 騒ぎを聞きつけた上位種が現れるかもしれない。

 

 戦うということは、それだけ危険を招く行為なのだ。

 

 そして先生はゆっくりとこちらを見た。

 

 嫌な予感がする。

 

 非常に嫌な予感がする。

 

 次の瞬間。

 

 「分かったか?」

 

 先生は目を細めた。

 

 「特に――」

 

 指が向く。

 

 真っ直ぐこちらへ。

 

 「お・ま・え・ら・は・なっ!!」

 

 「……はい」

 

 「う、うむ」

 

 自分とマヒロは揃って肩を震わせた。

 

 周囲から微妙な視線を感じる。

 

 納得されている気がする。

 

 非常に納得されている気がする。

 

 心外である。

 

 別に好き好んで危険な目に遭っているわけじゃない。

 

 ……たぶん。

 

 少なくとも自分は。

 

 隣のマヒロはどうだか知らないが。

 

 「他に質問あるやついるか?」

 

 先生は周囲を見回す。

 

 誰も手を挙げない。

 

 それを確認すると大きく頷いた。

 

 「よし。話は以上だ」

 

 そして右手を振る。

 

 「解散!」

 

 その一言で緊張していた空気が一気に動き出した。

 

 いよいよだ。

 

 初めての迷宮。

 

 初めての本格任務。

 

 胸の奥が少しだけ高鳴る。

 

 期待。

 

 不安。

 

 緊張。

 

 様々な感情が入り混じる中、自分達は迷宮への出発準備を始めるのだった。

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