二日後。
新学期最初の任務の日がやってきた。
まだ朝日も昇りきっていない早朝。
学園の正門前には各班の生徒達が集められていた。
緊張した顔。
楽しそうな顔。
不安そうな顔。
反応は様々だが、全員に共通していることが一つだけある。
これから初めて迷宮へ向かうのだ。
自然と空気も張り詰める。
そんな生徒達を前に、コールスタッシュ先生が腕を組んだ。
「いいかお前ら。改めて今回の任務内容を確認する」
周囲が静かになる。
先生は淡々と説明を始めた。
「今回の任務は迷宮の攻略だ。つっても最下層まで行って帰ってくるだけの簡単なお仕事だな」
その言い方に何人かが安堵しかける。
だが先生はすぐに続けた。
「ただし、道中に危険な魔物が出る可能性は十分ある」
その一言で空気が引き締まった。
「危険だと判断した場合は最下層に行く前でも帰還していい。無理に進む必要はねえ」
先生は腰のポーチから小冊子を取り出す。
「各班には迷宮の地図と生息魔物の情報が載った冊子を配ってある。基本的にはそこに書いてある連中が相手だ」
自分も手元の冊子へ目を落とした。
地図。
出現魔物。
危険区域。
騎士団が調査した情報が細かく記載されている。
簡易的な攻略本のようなものだ。
『あのー』
フィーが手を上げた。
「なんだ、ミッドブルー」
『ここに載ってない魔物が出る可能性ってあるんですか?』
当然の疑問だった。
記録はあくまで記録。
絶対ではない。
先生もすぐに頷く。
「あるな」
即答だった。
「特に人語を話す連中は厄介だ。人間と同じくらい知恵が回るからな。情報通りに動く保証なんざねえ」
周囲がざわつく。
先生は構わず続けた。
「だから撤退を許可してる。想定外が起きることも含めて考えろ」
『なるほど。了解です』
フィーは納得したように頷いた。
先生は全員を見渡す。
そして少しだけ声の調子を変えた。
「今回の目的は攻略じゃねえ」
その言葉に全員の視線が集まる。
「下見だ。いや、見学と言った方が近いな」
先生は一拍置いた。
「だが普通の見学とは違う」
空気が静まる。
「一歩間違えれば死ぬ」
誰も口を開かない。
冗談を言っている時とは違う。
今の先生は教師として話していた。
「お前らの最優先事項は生きて帰ってくることだ」
先生の声が響く。
「戦闘は極力避けろ。勝てそうだからって手を出した結果、仲間を危険に晒すこともある」
迷宮では何が起こるか分からない。
一体倒した瞬間、別の群れに囲まれるかもしれない。
騒ぎを聞きつけた上位種が現れるかもしれない。
戦うということは、それだけ危険を招く行為なのだ。
そして先生はゆっくりとこちらを見た。
嫌な予感がする。
非常に嫌な予感がする。
次の瞬間。
「分かったか?」
先生は目を細めた。
「特に――」
指が向く。
真っ直ぐこちらへ。
「お・ま・え・ら・は・なっ!!」
「……はい」
「う、うむ」
自分とマヒロは揃って肩を震わせた。
周囲から微妙な視線を感じる。
納得されている気がする。
非常に納得されている気がする。
心外である。
別に好き好んで危険な目に遭っているわけじゃない。
……たぶん。
少なくとも自分は。
隣のマヒロはどうだか知らないが。
「他に質問あるやついるか?」
先生は周囲を見回す。
誰も手を挙げない。
それを確認すると大きく頷いた。
「よし。話は以上だ」
そして右手を振る。
「解散!」
その一言で緊張していた空気が一気に動き出した。
いよいよだ。
初めての迷宮。
初めての本格任務。
胸の奥が少しだけ高鳴る。
期待。
不安。
緊張。
様々な感情が入り混じる中、自分達は迷宮への出発準備を始めるのだった。