「レールステン」
「はい?」
迷宮へ向かう準備を進めている最中、不意にコールスタッシュ先生から呼び止められた。
なんだろう。
もしかして新必殺技の件だろうか。
そう思って振り返る。
すると先生は親指で背後を指した。
「今回はお前らに助っ人を用意しておいた」
「助っ人?」
予想外の言葉だった。
先生は面倒そうに頭を掻きながら続ける。
「こき使え」
「いや、人をなんだと思ってるんですか?」
聞き覚えのある声がした。
次の瞬間。
先生の背後からひょっこりと小柄な人影が顔を出す。
「ソンジさん!?」
思わず声が出た。
どうやら今回の助っ人とは彼女のことらしい。
というか、ずっと先生の後ろに隠れていたのか。
全然気付かなかった。
「迷宮には希少な鉱石や素材があるからな」
先生は説明する。
「こいつが魔道具研究に必要だって騒いでた。ちょうどお前らも行くし、ついでに同行させることにした」
なるほど。
確かにソンジさんなら興味を持ちそうな話だ。
「お前ら仲良いんだろ?」
先生がそう言うと、ソンジさんは満面の笑みを浮かべた。
「そりゃもう! お互い身体を重ね合わせた関係ですし!」
「そんな覚えありませんけど」
即答だった。
するとソンジさんは両手で頬を押さえる。
「ひど~い! サダメおにいちゃん、わたしとの初めての思い出を忘れちゃったの~!?」
「その言い方やめてください」
朝から面倒臭い。
非常に面倒臭い。
まだ迷宮にも着いていないのに精神力を削られている気がする。
そんなやり取りを見ていた先生は大きなため息を吐いた。
「冗談はそこまでにしとけ」
そう言うと。
先生はソンジさんの首根っこを掴んだ。
「へ?」
そしてそのまま――
ぽいっ。
「うおっ!?」
まるで荷物でも渡すような感覚で自分の方へ押し付けてきた。
結果。
なぜかソンジさんを背負う形になる。
「……」
「……」
二人してしばらく固まった。
何なんだこの状況。
先生はそんなこちらを気にも留めない。
「こんな性格だが魔道具の腕は本物だ。いざとなったら頼れ」
「せんせー。女の子を荷物みたいに扱うのはどうかと思うんですけどー」
「荷物じゃねえ。面倒事だ」
「否定になってませんよ!?」
ソンジさんが抗議する。
だが先生は完全に聞き流していた。
ひどい。
いや、気持ちは分からなくもないけど。
「さて」
ソンジさんは気を取り直したように自分の背中へ体重を預ける。
「今日、ブラ付けてくるの忘れちゃった。ごめんね?」
「はあ、そうですか」
もはや反応する気力もない。
ここで突っ込んだら負けな気がした。
「最近みんなが冷たい……」
「普段の行いじゃないですか?」
「サダメおにいちゃんまで酷い!」
朝から元気だな、この人。
そんなソンジさんの嘆きを適当に聞き流しながら、自分は皆のいる場所へ向かう。
迷宮への出発前だというのに、既にどっと疲れていた。
不安しかない。
迷宮そのものもそうだが、この人を連れて行くことに対してもだ。
もっとも――
魔道具の腕だけは本物だ。
先生がわざわざ同行を許可するほどには。
だからきっと役に立つのだろう。
……たぶん。
そんな一抹の不安を抱えながら、自分は仲間達の元へと歩いていくのだった。