「まさかソンジ殿も同行してくれるとは。これは心強いでござるな」
「ははっ。困ったことがあったら何でも頼りなよ」
ソンジさんは胸を張る。
そして次の瞬間。
「もちろんエッチなことでも、ねっ!」
「エエエエッチなこと!? そ、それは具体的にどういう――」
「冗談はやめてくださいよ。本気にする奴がいるんで」
ミオが慌ててギリスケを止める。
するとソンジさんはケラケラと笑った。
「ごめんごめん」
全然反省していない顔だった。
迷宮へ向かう馬車の中。
最初こそ突然の同行に皆驚いていたものの、今ではすっかりいつもの空気になっていた。
まあ無理もない。
なんだかんだでソンジさんは皆の知り合いだ。
緊張していた出発前の空気も彼女のおかげでかなり和らいでいる。
……騒がしくもなっているけど。
「いやー、それにしても嬉しいなあ」
ソンジさんはしみじみと頷く。
「どっかの誰かさんと違って、みんないい反応してくれるから」
「……はい?」
なんかこっち見てる。
朝食代わりのパンをかじりながら首を傾げる。
「君、それ素でやってる?」
「??」
何を言われているのか分からない。
ソンジさんは呆れたように額を押さえた。
だが自分には本当に心当たりがなかった。
朝だから頭が回っていないのかもしれない。
そういうことにしておこう。
『そういえばソンジさんって二年生なんですよね?』
フィーがふと思い出したように尋ねる。
『迷宮って行ったことあるんですか?』
「ああ、あるよ」
ソンジさんはあっさり頷いた。
「まあ今回みたいに他の班へ同行する形だったけどね」
『へえー』
そういえばこの人は一学年上の先輩だった。
普段の言動のせいで忘れそうになるが。
ということは当然、迷宮経験者ということになる。
「じゃあ迷宮がどんな場所か知ってるんですね?」
「んー」
ソンジさんは少し考える。
「今回行く迷宮は初めてだけど、軽いアドバイスくらいならできるかな」
「おお!」
リックが身を乗り出した。
「それは助かる!」
「ぜひ拙者達にも教授してくだされ!」
マヒロも珍しく食い気味だ。
皆の反応を見たソンジさんは満足そうに頷く。
「ふっふっふー」
腕を組む。
「可愛い後輩達のためだからね!」
完全に調子に乗っていた。
そのうえ何故かこちらへドヤ顔まで向けてくる。
意味が分からない。
というか大丈夫なんだろうか。
こういう人って大体調子に乗りすぎて後で痛い目を見るイメージがあるのだが。
本人は全く気にしていない様子だった。
そして。
ソンジさんは一度咳払いをする。
「さて」
それだけで少し空気が変わった。
さっきまでのおちゃらけた雰囲気が僅かに薄れる。
経験者として話すつもりなのだろう。
皆も自然と口を閉じた。
視線が集まる。
馬車の中が静かになる。
自分もパンを食べる手を止めた。
「いいかい?」
ソンジさんは指を一本立てる。
「迷宮攻略において、一番大事なことを教えてあげよう」
誰も口を挟まない。
先ほどまで笑っていたフィー達も真剣な表情になっている。
そして。
ソンジさんはゆっくりと言った。
「一番危険な状況――」
一拍置く。
「それはズバリ、『帰り道』だ」
その言葉に、馬車の空気が一変した。