学園を出発して二日。
目的の迷宮まであと少しというところまで来ていた。
「サダメ、起きて。そろそろ着くよ」
「ん……んん?」
誰かに肩を揺すられ、ゆっくりと目を開く。
朝だった。
馬車の窓から差し込む陽の光が眩しい。
ここまでの道中、自分達は交代で睡眠を取っていた。
迷宮の多くは人里離れた場所に存在する。
国によって街道には魔物除けの対策が施されているらしいが、それでも絶対ではない。
ごく稀に魔物が現れることもあるため、念のため見張りを立てていたのだ。
迷宮に辿り着くだけでも一苦労である。
そんな移動生活もようやく終わりが見えてきた。
「おはよう。ぐっすり眠れたみたいだね」
「ん~……おはようございます、ソンジさん」
大きく欠伸をする。
最近はコールスタッシュ先生の補習のおかげで、どんな場所でも眠れるようになってしまった。
成長と言っていいのかは分からない。
「ふふっ」
ソンジさんが楽しそうに笑う。
「その様子だと、昨日私とあんなことやこんなことをしたのも忘れちゃったかな?」
「ん~?」
頭が回らない。
まだ半分夢の中だ。
そんな自分を見て、ソンジさんは苦笑した。
「こりゃ相当だね」
そう言うと、湯気の立つカップを差し出してくる。
「ほら。これ飲みな」
「ありがとうございます」
受け取って一口飲む。
少し熱い。
だが香りの良いお茶だった。
じんわりと身体が温まっていく。
「どう?」
「美味しいです」
「それは良かった」
ソンジさんは満足そうに頷いた。
どうやら眠気覚ましに淹れてくれたらしい。
こういうところは本当に気が利く人だ。
「おーい。そろそろ本格的に起きろよー」
後ろからギリスケの声が飛ぶ。
「あと少しで迷宮なんだからな」
「分かってるよ」
そう返しながら身体を伸ばす。
まだ少し眠い。
だが頭はだいぶ冴えてきた。
「……あの、皆さん?」
そんな時だった。
御者の男性がこちらへ声を掛けてくる。
「はい?」
ソンジさんが返事をする。
「ここから先は馬車での進入が禁止されております」
御者は前方を指差した。
「申し訳ありませんが、この先は徒歩でお願いします」
「ああ、そうだったね」
ソンジさんが納得したように頷く。
迷宮周辺は安全確保のため馬車の立ち入りが制限されている。
その話は事前に聞いていた。
つまり――
ここから先は本当に迷宮の領域だ。
馬車を降りる。
朝の空気が肌を撫でた。
荷物を背負い直す。
自然と緊張が高まる。
いよいよだ。
初めて挑む迷宮。
これまで訓練してきたことが通用するのか。
新しい必殺技は役に立つのか。
期待と不安が入り混じる。
だが立ち止まる理由はない。
仲間達も次々と馬車を降りていく。
そして自分達は、迷宮へと続く道を歩き始めるのだった。