馬車を降りてから約一時間。
自分達は未だに迷宮へ続く道を歩いていた。
『はあ……はあ……』
フィーが額の汗を拭う。
『意外と距離あるんだね』
「一応危険区域だからな」
ソンジさんが肩を竦める。
「普通なら人が近づかないようにしてあるんだろうさ」
「た、たしかに……」
そう返しながらも内心では同感だった。
迷宮に辿り着く前に体力が削られていく。
こんなに大変な行事だとは思わなかった。
学園を出発して二日。
さらに徒歩で一時間。
まだ任務すら始まっていないというのだから恐ろしい。
「地図を見る限り、もう少しのはずなんだけどね」
ソンジさんは冊子を開く。
「着いたら一旦休憩にしようか」
「休むのでござるか?」
マヒロが首を傾げた。
「拙者はすぐにでも入りたいのでござるが」
「勘弁してくれよ……」
ギリスケが肩で息をする。
「成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗な俺でも足が限界なんだが……」
『自分で言うことじゃないよね?』
フィーが即座に突っ込む。
『というか一番遅れてるのギリスケ君だし』
「ぐふっ」
痛いところを突かれたらしい。
ギリスケが胸を押さえた。
対照的にマヒロはまだまだ元気そうだった。
むしろ今から迷宮に突撃しそうな勢いである。
自分も体力にはまだ余裕がある。
だが休憩は欲しかった。
攻略にどれだけ時間が掛かるか分からない以上、万全の状態で挑みたい。
「おっ?」
その時だった。
先頭を歩いていたソンジさんが前方を指差す。
「あれじゃない?」
「えっ?」
皆が顔を上げる。
前方。
木々の隙間から金網フェンスらしきものが見えていた。
こんな場所に人工物があるということは――
「ひょっとして見えてきました?」
「多分ね」
ソンジさんが頷く。
その言葉に一気に足取りが軽くなった。
やっと着く。
ようやく目的地だ。
疲労と同時に安堵が押し寄せてくる。
もっとも。
任務はまだ始まってすらいないのだが。
◇
数分後。
自分達は金網フェンスの前へ辿り着いていた。
「……ここが迷宮でござるか?」
マヒロがぽつりと呟く。
「うん」
ソンジさんは地図と周囲を見比べる。
「場所はここで間違いないみたい」
「でも……」
ミオが困惑した声を漏らした。
「ここって……」
誰も言葉を続けられなかった。
目の前の光景が予想外すぎたからだ。
迷宮。
その言葉から連想するのは巨大な洞窟や古代遺跡。
少なくとも自分はそうだった。
だからこそ。
皆しばらく呆然と立ち尽くす。
沈黙。
風の音だけが耳を掠めていく。
そして改めて目の前を見る。
フェンスの向こう。
そこにあったのは――
ごく普通の木造住宅だった。
一軒だけ。
まるで誰かが暮らしているかのような家が、ぽつんと建っているだけだったのである。