転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー28

 馬車を降りてから約一時間。

 

 自分達は未だに迷宮へ続く道を歩いていた。

 

 『はあ……はあ……』

 

 フィーが額の汗を拭う。

 

 『意外と距離あるんだね』

 

 「一応危険区域だからな」

 

 ソンジさんが肩を竦める。

 

 「普通なら人が近づかないようにしてあるんだろうさ」

 

 「た、たしかに……」

 

 そう返しながらも内心では同感だった。

 

 迷宮に辿り着く前に体力が削られていく。

 

 こんなに大変な行事だとは思わなかった。

 

 学園を出発して二日。

 

 さらに徒歩で一時間。

 

 まだ任務すら始まっていないというのだから恐ろしい。

 

 「地図を見る限り、もう少しのはずなんだけどね」

 

 ソンジさんは冊子を開く。

 

 「着いたら一旦休憩にしようか」

 

 「休むのでござるか?」

 

 マヒロが首を傾げた。

 

 「拙者はすぐにでも入りたいのでござるが」

 

 「勘弁してくれよ……」

 

 ギリスケが肩で息をする。

 

 「成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗な俺でも足が限界なんだが……」

 

 『自分で言うことじゃないよね?』

 

 フィーが即座に突っ込む。

 

 『というか一番遅れてるのギリスケ君だし』

 

 「ぐふっ」

 

 痛いところを突かれたらしい。

 

 ギリスケが胸を押さえた。

 

 対照的にマヒロはまだまだ元気そうだった。

 

 むしろ今から迷宮に突撃しそうな勢いである。

 

 自分も体力にはまだ余裕がある。

 

 だが休憩は欲しかった。

 

 攻略にどれだけ時間が掛かるか分からない以上、万全の状態で挑みたい。

 

 「おっ?」

 

 その時だった。

 

 先頭を歩いていたソンジさんが前方を指差す。

 

 「あれじゃない?」

 

 「えっ?」

 

 皆が顔を上げる。

 

 前方。

 

 木々の隙間から金網フェンスらしきものが見えていた。

 

 こんな場所に人工物があるということは――

 

 「ひょっとして見えてきました?」

 

 「多分ね」

 

 ソンジさんが頷く。

 

 その言葉に一気に足取りが軽くなった。

 

 やっと着く。

 

 ようやく目的地だ。

 

 疲労と同時に安堵が押し寄せてくる。

 

 もっとも。

 

 任務はまだ始まってすらいないのだが。

 

 ◇

 

 数分後。

 

 自分達は金網フェンスの前へ辿り着いていた。

 

 「……ここが迷宮でござるか?」

 

 マヒロがぽつりと呟く。

 

 「うん」

 

 ソンジさんは地図と周囲を見比べる。

 

 「場所はここで間違いないみたい」

 

 「でも……」

 

 ミオが困惑した声を漏らした。

 

 「ここって……」

 

 誰も言葉を続けられなかった。

 

 目の前の光景が予想外すぎたからだ。

 

 迷宮。

 

 その言葉から連想するのは巨大な洞窟や古代遺跡。

 

 少なくとも自分はそうだった。

 

 だからこそ。

 

 皆しばらく呆然と立ち尽くす。

 

 沈黙。

 

 風の音だけが耳を掠めていく。

 

 そして改めて目の前を見る。

 

 フェンスの向こう。

 

 そこにあったのは――

 

 ごく普通の木造住宅だった。

 

 一軒だけ。

 

 まるで誰かが暮らしているかのような家が、ぽつんと建っているだけだったのである。

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