『あのー……』
フィーが恐る恐る口を開く。
『どう見ても普通の家にしか見えないんですけど……』
「うん」
ソンジさんも頷いた。
「私にもそう見える」
「いや、そう見えるじゃなくて……」
思わず突っ込みそうになる。
無理もない。
自分だって迷宮と聞けば巨大な塔や古代神殿、あるいは不気味な洞窟のようなものを想像していた。
少なくとも――
木こりのおじさんが住んでいそうな一軒家ではない。
目の前に建っているのは、ごく普通の木造住宅だった。
規模も大きくない。
むしろ小さい。
庭には雑草が伸び放題で、しばらく手入れされていないことが一目で分かる。
確かに雰囲気はある。
あるのだが。
それは迷宮というより廃屋の雰囲気だった。
周囲は巨大な金網フェンスと有刺鉄線で囲まれている。
入れそうなのは正面の門だけだ。
おそらく魔物対策なのだろう。
もっとも。
有刺鉄線が魔物相手にどこまで効果を発揮するのかは少々疑問だったが。
「まあ、迷宮って大体地下に作られてるからね」
ソンジさんが説明する。
「これは入口の目印みたいなものだよ」
「目印……」
家一軒建てるのが目印。
スケールが大きいのか小さいのか分からない。
「周りのフェンスも国が管理してるやつだね」
「へえ……」
なるほど。
だからこんな辺鄙な場所にも人工物があるのか。
しかし、それなら看板でも立てておけば良い気もする。
国のお偉いさんの考えることはよく分からない。
「して」
マヒロが門の前で首を傾げた。
「どうやって入るのでござる?」
「ん?」
「この門、戸が見当たらぬのでござるが」
言われて改めて確認する。
確かにそうだった。
門らしきものはある。
だが取っ手もなければ蝶番もない。
開き戸にも引き戸にも見えなかった。
そういえば先生が何か言っていたような――
「おいおい」
ソンジさんが苦笑する。
「忘れちゃったのかい?」
そう言って胸ポケットから学生証を取り出した。
「これを使うんだよ」
「ぬっ!?」
マヒロが目を丸くする。
ソンジさんは門の脇に設置されていた黒いパネルへ学生証をかざした。
直後。
ピッ――
電子音が鳴る。
そして、
ゴゴゴゴゴ……
重たい駆動音と共に門がゆっくり横へ動き始めた。
「おおっ!?」
思わず声が漏れる。
門は右から左へと滑るように開いていく。
どうやらスライド式だったらしい。
「迷宮に入る時は学生証が必要になるから忘れるなよ」
そういえば先生はそんなことを言っていた。
ただ。
今の説明だけでこの仕組みを理解しろというのは無理があると思う。
相変わらず説明がざっくりしている。
もう少し詳しく教えてほしいものだ。
「よし」
門が完全に開き切る。
ソンジさんは振り返った。
「中に入ろうか」
その言葉に皆が頷く。
いよいよ迷宮だ。
普通の家にしか見えない入口。
だが、その先には未知の世界が広がっている。
自分達は緊張と期待を胸に抱きながら、ソンジさんの後に続いて敷地の中へ足を踏み入れるのだった。