「ギリスケッ!?」
悲鳴を聞いた瞬間、反射的に振り返る。
だが、そこにいるはずのギリスケの姿はなかった。
「なっ……!?」
さっきまで岩陰で治療を受けていたはずだ。
目を凝らして周囲を見回すが、どこにもいない。
「何があった!?」
ソンジさんもすぐさま状況確認に動く。
『よ、よく分かんないの!』
フィーが慌てながら説明した。
『ギリスケ君が壁にもたれた瞬間、急に穴が開いて……そのまま落ちちゃったんだ!』
「穴だと!?」
言われて視線を向ける。
そこには先ほどまで存在しなかったはずの空洞がぽっかりと口を開けていた。
大きさは人一人が余裕で通れるほど。
しかも――
「深っ……」
底が見えない。
暗闇が延々と続いている。
ギリスケの姿も声も、もう確認できなかった。
「何やってるミオ君! 早く引き上げるんだ!」
珍しくソンジさんが声を荒げる。
ギリスケが落ちてからまだ数秒。
風魔法なら十分間に合うはずだった。
だが――
「……っ!」
ミオは動かない。
いや、正確には動けないように見えた。
両手を前に突き出し、何かをしようとしている。
だが魔法が発動する気配がない。
「ミオ?」
呼びかける。
すると、
「っ!? はぁ……はぁ……!」
突然、ミオの呼吸が乱れた。
肩が大きく上下し始める。
顔色もみるみる青くなっていく。
「お、おい!?」
倒れかけた身体を慌てて支える。
呼吸が浅い。
額には汗まで浮かんでいた。
『ミオ!?』
フィーも駆け寄る。
『これ飲んで!』
慌てて水筒を差し出すが、ミオは震える手でそれを受け取るだけだった。
「はぁ……はぁ……ご、ごめんなさい……」
「謝るなって。今は落ち着け」
何が起きている?
魔力切れか?
それとも体調不良か?
この数日ずっと防寒魔法を維持していた。
その負担が今になって出たのかもしれない。
そんな考えが頭をよぎる。
だが――
「何をやっているんだ君は」
冷たい声が響いた。
ソンジさんだった。
「体調を崩すのは仕方ない。だが、そんな状態で迷宮に来るなんて無責任にも程がある」
「ちょっ……!」
思わず反論する。
「ソンジさん! いくらなんでも――」
「ここは学園じゃない」
鋭い声が遮った。
「命を落とすかもしれない場所なんだ。体調不良の仲間が一人いるだけで全員が危険になる。それくらい分かるだろう?」
「……」
言葉が詰まる。
反論できない。
実際、その通りだからだ。
だが。
それでも。
ここまで頑張ってきたミオに向かって言う言葉ではない気がした。
そう思った、その時。
「……違うんです」
か細い声が聞こえた。
「ッ!? ミオ?」
ミオは震える唇を必死に動かしていた。
俯いていた顔がゆっくりと上がる。
その瞳には、恐怖が浮かんでいた。
体調不良なんかじゃない。
そんなことを本能が告げる。
そして次の瞬間。
「ま、魔法が……使えないんです」