転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

476 / 476
第9章ー36

 「『なっ!?』」

 

 マヒロの言葉の意味を理解した瞬間、自分達は言葉を失った。

 

 彼女が言っているのは単純な話だ。

 

 ――自分で助けに行く。

 

 ただそれだけ。

 

 だが、それがどれほど無茶なことなのか、この場にいる全員が理解していた。

 

 目の前に広がる底の見えない奈落。

 

 異様な冷気。

 

 そして、ミオの魔法すら通じない未知の魔力。

 

 そんな場所へ、自ら飛び込むと言っているのだ。

 

 「ちょ、ちょっと待った!?」

 

 真っ先に我に返ったのはソンジさんだった。

 

 「マヒロ君。それ、本気で言ってるんだよな?」

 

 「うむ」

 

 マヒロは即答する。

 

 迷いなど微塵も感じられない。

 

 「着地なら何とかなると思うでござる」

 

 「いや、問題はそこじゃないんだよ!」

 

 ソンジさんが頭を抱えた。

 

 その気持ちは痛いほど分かる。

 

 確かに落下も問題だ。

 

 だが、本当に恐ろしいのはその先にある。

 

 この穴から溢れ出る異常な魔力。

 

 本能が警告している。

 

 絶対に近付いてはいけない場所だと。

 

 「恐らく、その先は騎士団ですら近付けない危険区域だ」

 

 ソンジさんは穴を睨みながら続ける。

 

 「この壁だって、侵入を防ぐための封印か結界だろう。ギリスケ君は偶然その仕掛けを作動させてしまったんだと思う」

 

 冷静に分析しているように見える。

 

 だが、その声には焦りが滲んでいた。

 

 「私が言いたいことは分かるよね?」

 

 マヒロは何も言わない。

 

 ただ静かに聞いている。

 

 「その先は未知の領域なんだ。私達が相手にできる保証なんてどこにもない」

 

 ソンジさんの拳が小さく震えていた。

 

 「君の気持ちは分かる。助けたいと思うのは当然だ」

 

 一度言葉を切る。

 

 そして、苦しそうに続けた。

 

 「出来ることなら私だって助けたい」

 

 その声は少し掠れていた。

 

 「だけど、もし君まで帰って来られなくなったらどうするんだ」

 

 沈黙。

 

 誰も何も言えない。

 

 「ギリスケ君には悪いけど……」

 

 その先の言葉は最後まで口にできなかった。

 

 言う必要がなかったからだ。

 

 ここにいる全員が理解してしまっている。

 

 助かる可能性は低い。

 

 それどころか、限りなくゼロに近い。

 

 だからこそソンジさんは止めている。

 

 これ以上仲間を失わないために。

 

 犠牲者を増やさないために。

 

 それが正しい判断だと分かっているから。

 

 悔しい。

 

 苦しい。

 

 認めたくない。

 

 それでも――。

 

 自分もまた、ソンジさんの言葉を否定できなかった。

 

 理屈だけなら、彼女が正しい。

 

 そう思った時だった。

 

 「うむ」

 

 静かな声が響く。

 

 マヒロだった。

 

 彼女は依然として穴の奥を見つめている。

 

 「ソンジ殿の言い分も理解しておる」

 

 穏やかな声だった。

 

 だからこそ、その次の言葉は重かった。

 

 「危険なのも分かる」

 

 「帰って来られぬ可能性があることも理解しておる」

 

 「それでも――」

 

 そこでようやくマヒロはこちらを振り返った。

 

 その瞳に迷いはない。

 

 決意だけがあった。

 

 「拙者はギリスケ殿を助けに行くでござる」

 

 「ッ!?」

 

 ソンジさんが息を呑む。

 

 予想していたはずなのに。

 

 それでも止められなかった。

 

 マヒロの覚悟がそれほどまでに強かったからだ。

 

 「何故だ」

 

 絞り出すようにソンジさんが尋ねる。

 

 「そこまでして行く理由は何なんだ」

 

 その問いに。

 

 マヒロは少しだけ目を伏せた。

 

 そして。

 

 静かに答える。

 

 「簡単なことでござるよ」

 

 その声音は驚くほど優しかった。

 

 まるで当たり前のことを話しているかのように。

 

 「拙者は――」

 

 一歩前へ出る。

 

 奈落の縁へ。

 

 「友を見殺しにして」

 

 冷気が吹き上がる。

 

 それでも彼女は立ち止まらない。

 

 「その後の日々を笑って過ごせるほど」

 

 拳を握る。

 

 迷いなく。

 

 強く。

 

 「器用な人間ではござらぬ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

転生者がTS魔法少女になって頑張る話。(作者:メルヘン侍)(オリジナル現代/冒険・バトル)

TSして魔法少女して頑張る話です。▼カクヨムでも同時投稿しております。


総合評価:1534/評価:7.55/連載:42話/更新日時:2026年06月03日(水) 11:57 小説情報

俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜(作者:鴨山兄助)(オリジナル現代/ノンジャンル)

「ハズレSRの買取価格が1枚100万円超えるとか嘘だろ!?10枚あるよ!」▼ 転移先は、カードゲーム至上主義世界でした。▼ TCG『モンスター・サモナー』が好きな大学生主人公、天川ツルギ。▼ ある日彼は、目が覚めると中学生時代に戻っていた。▼ しかも、戻っていたのはツルギの家族もである。▼ 状況確認のためにつけたテレビから流れるのは、大量のモンスター・サモナ…


総合評価:4818/評価:7.84/連載:279話/更新日時:2026年07月03日(金) 07:11 小説情報

【書籍化決定】クラス転移したけど俺だけステータス表記が違った(作者:星野林(旧ゆっくり霊沙))(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

学校で進路を悩んでいた斎藤隆史(サイトウ タカシ)はクラスに馴染めずに居た。▼そんな最中、突如異世界にクラスごと召喚もとい拉致され、魔王と戦えと言われる。▼そして各自に役職と能力が付与されているからとステータスを開くように言われてステータス画面を見ると……皆が普通のRPG表記なのに、俺だけポケ◯ンみたいにレベル形式だし、技ってのが見える。▼そして始まる異世界…


総合評価:2893/評価:8.09/完結:95話/更新日時:2026年08月06日(木) 10:50 小説情報

カスレアクロニクル(作者:すばみずる)(オリジナル現代/コメディ)

【平日更新中:昼12時】▼カスレアのカードの精霊が出てくる話。▼かつてカードゲームを愛好していた主人公は、生活苦から手持ちのカードを売ろうとしていた。そんな時、相棒だと思っていたポンコツ美少女カードが突如として実体化してしまい、彼の腐っていた人生が動き始める。▼待ち構えるのは合法ロリ店長や腹黒聖女、厄介な常連客たちとろくでなしの精霊たち。▼ラブコメじみたドタ…


総合評価:4381/評価:8.73/連載:199話/更新日時:2026年08月07日(金) 12:04 小説情報

TS被検体少女による模範的曇らせ(作者:鰻重特上)(オリジナル現代/ノンジャンル)

▼「はじめまして!わたしはニーナ!被検体027番だからニーナだよ!」▼ 享年15歳、病気で死んだ曇らせ大好き男が違法な人体実験の被検体の少女に転生して本当の『愛してる』を理解するまでの話。▼※なお関わった人間の情緒と精神状態は考慮しないものとする。▼


総合評価:19276/評価:8.99/完結:8話/更新日時:2023年12月12日(火) 19:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>