転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー39

 「なっ……!?」

 

 自分の言葉を聞いた瞬間、ソンジさんは目を見開いた。

 

 さっきまで撤退を最優先に考えていた相手が、まさか救出を提案するとは思っていなかったのだろう。

 

 『サダメ……それ、本気で言ってるの?』

 

 フィーも怯えた声で問い返してくる。

 

 無理もない。

 

 これから向かおうとしているのは、生きて帰れる保証すらない場所なのだから。

 

 「ああ」

 

 迷いはなかった。

 

 「このままここにいても、魔物は増え続ける。どのみち安全なんてない。それに――」

 

 一度息を吸う。

 

 胸の奥に残っている、あの日の後悔を押し殺すように。

 

「友達を見捨てて生き残るなんて、俺はもうごめんだ」

 

 「サダメ……」

 

 マヒロが飛び降りる前に言った言葉。

 

 あの覚悟が、自分の中に眠っていた決意を呼び覚ましていた。

 

 もう二度と、あんな後悔はしたくない。

 

 「それに、この状況を切り抜けるなら、一人でも欠けちゃ駄目な気がするんだ」

 

 根拠なんてない。

 

 けれど、確信だけはあった。

 

 「魔物が増え続ける中を逃げ回るなんて現実的じゃない。だったら、全員の力を合わせて突破するしかない。そう思わないか?」

 

 マヒロの剣。

 

 ミオの魔法。

 

 フィーの支援。

 

 ソンジさんの経験。

 

 そしてギリスケも……まあ、何かしら役に立つだろう。

 

 誰か一人欠けるだけで、この状況は乗り越えられない。

 

 「……うん」

 

 最初に口を開いたのはミオだった。

 

「私も、その方がいいと思う」

 

 「ッ!? ミオ君……」

 

 優しく微笑みながらも、その瞳に迷いはない。

 

 最初から同じ気持ちだったのだろう。

 

 やっぱり、ミオはそういう人だ。

 

 『うーん……ミオがそう言うなら……』

 

 「フィーちゃん」

 

 フィーも小さく頷く。

 

 まだ怖さは消えていない。

 

 それでも仲間を信じる気持ちが、不安を少しだけ上回ったようだった。

 

 残るは、一人。

 

 「ソンジさん」

 

 三人の視線が、一斉にソンジさんへ集まる。

 

 「…………」

 

 ソンジさんは黙ったまま空洞を見つめていた。

 

 拳を握り締め、唇を噛む。

 

 責任者としての判断。

 

 一人でも多く生き残らせる義務。

 

 そして、仲間を見捨てたくないという想い。

 

 二つの正しさが胸の中でぶつかり合っているのが伝わってくる。

 

 長い沈黙。

 

 魔物の唸り声だけが迷宮に響く。

 

 やがて――。

 

 「っっっ!」

 

 ソンジさんは頭を乱暴にかきむしった。

 

 「あ゛あ゛もうっ! 分かった分かった!」

 

 半ば叫ぶように言い放つ。

 

 「ここまでイレギュラー続きなら、私の想定なんてもう当てにならない! 一か八か――君達を信じるよ!」

 

 「ッ! ありがとうございます!」

 

 その一言で、胸につかえていたものが一気に晴れる。

 

 本当ならこんな決断はさせたくなかった。

 

 責任を負う立場なのはソンジさんなのだから。

 

 それでも、自分達を信じてくれた。

 

 なら、その信頼に応えるしかない。

 

 「よし!」

 

 気持ちを切り替える。

 

 「時間がない! 急ぎましょう!」

 

 こうしている間にも、マヒロ達は戦っているかもしれない。

 

 一秒でも早く合流しなければ。

 

 自分達は空洞の縁に並んだ。

 

 「せーのっ!」

 

 『うわあぁぁぁぁ!?』

 

 「きゃあああっ!?」

 

 掛け声と同時に、全員で闇の中へ飛び込む。

 

 足元から地面が消え、身体が重力に引かれて落ちていく。

 

 光はない。

 

 先も見えない。

 

 待ち受けるものが何なのかも分からない。

 

 それでも――。

 

 仲間を救うため、自分達は未知なる闇へと身を投じた。

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