「なっ……!?」
自分の言葉を聞いた瞬間、ソンジさんは目を見開いた。
さっきまで撤退を最優先に考えていた相手が、まさか救出を提案するとは思っていなかったのだろう。
『サダメ……それ、本気で言ってるの?』
フィーも怯えた声で問い返してくる。
無理もない。
これから向かおうとしているのは、生きて帰れる保証すらない場所なのだから。
「ああ」
迷いはなかった。
「このままここにいても、魔物は増え続ける。どのみち安全なんてない。それに――」
一度息を吸う。
胸の奥に残っている、あの日の後悔を押し殺すように。
「友達を見捨てて生き残るなんて、俺はもうごめんだ」
「サダメ……」
マヒロが飛び降りる前に言った言葉。
あの覚悟が、自分の中に眠っていた決意を呼び覚ましていた。
もう二度と、あんな後悔はしたくない。
「それに、この状況を切り抜けるなら、一人でも欠けちゃ駄目な気がするんだ」
根拠なんてない。
けれど、確信だけはあった。
「魔物が増え続ける中を逃げ回るなんて現実的じゃない。だったら、全員の力を合わせて突破するしかない。そう思わないか?」
マヒロの剣。
ミオの魔法。
フィーの支援。
ソンジさんの経験。
そしてギリスケも……まあ、何かしら役に立つだろう。
誰か一人欠けるだけで、この状況は乗り越えられない。
「……うん」
最初に口を開いたのはミオだった。
「私も、その方がいいと思う」
「ッ!? ミオ君……」
優しく微笑みながらも、その瞳に迷いはない。
最初から同じ気持ちだったのだろう。
やっぱり、ミオはそういう人だ。
『うーん……ミオがそう言うなら……』
「フィーちゃん」
フィーも小さく頷く。
まだ怖さは消えていない。
それでも仲間を信じる気持ちが、不安を少しだけ上回ったようだった。
残るは、一人。
「ソンジさん」
三人の視線が、一斉にソンジさんへ集まる。
「…………」
ソンジさんは黙ったまま空洞を見つめていた。
拳を握り締め、唇を噛む。
責任者としての判断。
一人でも多く生き残らせる義務。
そして、仲間を見捨てたくないという想い。
二つの正しさが胸の中でぶつかり合っているのが伝わってくる。
長い沈黙。
魔物の唸り声だけが迷宮に響く。
やがて――。
「っっっ!」
ソンジさんは頭を乱暴にかきむしった。
「あ゛あ゛もうっ! 分かった分かった!」
半ば叫ぶように言い放つ。
「ここまでイレギュラー続きなら、私の想定なんてもう当てにならない! 一か八か――君達を信じるよ!」
「ッ! ありがとうございます!」
その一言で、胸につかえていたものが一気に晴れる。
本当ならこんな決断はさせたくなかった。
責任を負う立場なのはソンジさんなのだから。
それでも、自分達を信じてくれた。
なら、その信頼に応えるしかない。
「よし!」
気持ちを切り替える。
「時間がない! 急ぎましょう!」
こうしている間にも、マヒロ達は戦っているかもしれない。
一秒でも早く合流しなければ。
自分達は空洞の縁に並んだ。
「せーのっ!」
『うわあぁぁぁぁ!?』
「きゃあああっ!?」
掛け声と同時に、全員で闇の中へ飛び込む。
足元から地面が消え、身体が重力に引かれて落ちていく。
光はない。
先も見えない。
待ち受けるものが何なのかも分からない。
それでも――。
仲間を救うため、自分達は未知なる闇へと身を投じた。