「いやー、ミオちゃんは恥ずかしがり屋さんだなー」
帰り道。
夕暮れの村道を歩きながら、父は背後からやたらと陽気に話しかけてくるが、俺は無言で前を見据えたまま歩いていた。
なぜなら――。
「けど、女の子はあれくらいが可愛いんだよなー。なあサダメ、お前もそう思うだろー?」
「……」
「優しくて良い子で、しかも治癒魔法まで使える。ウチに嫁いでくれたら、父さんいろいろ嬉しいぞー?」
「……」
めちゃくちゃウザい絡み方をしてくるからだ。
背後にいるにもかかわらず、父のニヤけきった顔が鮮明に想像できる。
今ここで振り向いたら、条件反射で拳が出る自信がある。それくらいの不快指数だった。
どうやら父は、唯一の同年代であるミオと俺が、将来いい感じの関係になることを本気で期待しているらしい。
だが、こちらの中身はアラサー手前のおっさんである。
可愛いとは思う。素直で優しくて、健気で、守ってやりたくなる存在だとも思う。
だが恋愛感情や欲情など、これっぽっちも湧かない。
そういうのは二次元で十分だ。
というか、四歳児相手にそんな目で見たら普通に犯罪である。即アウトだ。
「炎魔法の俺と、治癒魔法の母さん。うん、やっぱり何か運命を感じる。なあサダメー?」
いや、感じねぇよ。
心の中で即座にツッコミを入れる。
……とはいえ。
彼女がこの先成長したら、どうなるのだろう。
きっと綺麗な女性になるに違いない。
今でも整った顔立ちをしているし、性格も穏やかで思いやりがある。
その時、自分の気持ちは変わるのか。
守る対象から、対等な異性へ――?
正直、自分でもわからない。
「いいかサダメ。ああいう子は自分から行かなきゃダメなんだぞ。待ってるだけじゃ、女の子は来てくれない!」
父の人生経験(笑)に基づく説教をBGMに、俺は前世の記憶を掘り返していた。
小二の頃、クラスメイトの加奈ちゃんの笑顔に胸が跳ねた。
あれが、たぶん初恋だった。
小四では、保育園から一緒だったみのりちゃんを意識するようになった。
家も近く、席もよく隣になり、それなりに話す仲だったが――結局、想いを伝えることはなく、片思いのまま終わった。
高校では陸上部の内田さん。
誰にでも優しくて、眩しいくらいまっすぐで、俺みたいな陰キャ寄りの人間にも普通に接してくれた人だ。
――みんな、今頃どうしているのだろう。
俺みたいに早死にして、異世界転生なんてしていなければいいのだが。
「あと、キスとかそういうのはまだダメだからな!? 順序とか年齢とか色々――」
「……」
「……って、さっきから聞いてるのかサダメ!?」
「……あ゛?」
「うぉっ!?」
ついに限界が来た。
立ち止まり、ゆっくりと振り返り、無言で父を睨みつける。
父は思わず一歩後ずさった。
「な、なんだよ……?」
「……はあ……」
「?」
――この人、本気で自分が何を言っていたのか分かっていないらしい。
鈍感にも程がある。
チヤドールさんの爪の垢でも煎じて飲ませたい。
「なんでもない。早く帰ろう」
「お、おう」
結局その後も父の話は止まらず、俺は再び無言で聞き流し続けた。
夕焼けに染まる村道を、騒がしい父と無言の息子が並んで歩く。
こうして、どこかズレた親子の、平和で騒がしい帰り道は今日も続くのだった。