転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー40

 『あわわわわわわ!?』

 

 「くっ……!」

 

 勢いのまま空洞へ飛び込んだ自分達の身体は、底知れぬ闇へと吸い込まれていく。

 

 耳元では風が唸りを上げ、吹きつける冷気が容赦なく肌を刺した。

 

 寒い。

 

 いや、痛い。

 

 全身の熱が一瞬で奪われていくような感覚だった。

 

 思っていた以上に深い。

 

 どれだけ落ちても底が見えず、自分達はただ闇の中を落下し続けていた。

 

 『ね、ねぇ……これ、本当に着地できるんだよね?』

 

 不安を隠せないフィーが叫ぶ。

 

 当然だ。

 

 これほどの高さでは、以前使った結界だけでは衝撃を受け止め切れないだろう。

 

 「大丈夫!」

 

 だが、ミオは迷わず答えた。

 

 「受け止めるだけなら、私の風魔法で何とかするから!」

 

 その力強い返事に自然と肩の力が抜ける。

 

 自分も火球の爆風で落下速度を殺し、結界で受け止める方法は考えていた。

 

 だが、安全性を考えればミオの風魔法の方がずっと確実だ。

 

 ここは彼女を信じるしかない。

 

 「みんな! 下を見て!」

 

 ソンジさんの声が響く。

 

 「う゛っ!?」「まぶしっ!?」

 

 慌てて視線を落とした瞬間、目の前が真っ白な光に包まれた。

 

 暗闇に慣れ切っていた瞳にはあまりにも眩しい。

 

 思わず目を細め、手で光を遮る。

 

 ――出口だ。

 

 長かった暗闇を抜けた先。

 

 その光の中へ飛び込むと――。

 

 「ッ!?」

 

 思わず息を呑んだ。

 

 一面、白銀。

 

 地面だけではない。

 

 壁も、天井も、巨大な岩柱までもが氷に覆われ、まるで世界そのものが凍り付いていた。

 

 幻想的な美しさ。

 

 しかし、その静けさがかえって不気味だった。

 

 「ミオ君! 今だ!」

 

 「は、はい!」

 

 感嘆に浸る暇もない。

 

 地面が猛スピードで迫ってくる。

 

 ミオは即座に両手を突き出し、詠唱を紡いだ。

 

 「出でよ、衝撃を包むつむじ風!

 

 【廻風の絨毯(ワード・カーペット)】!」

 

 詠唱が終わると同時に、地面すれすれで巨大な風の渦が展開される。

 

 次の瞬間――。

 

 ぼよんっ!

 

 『うわっ!?』

 

 風の塊に身体が包み込まれ、大きく跳ね返された。

 

 まるで祭りで見かける巨大なエアドームの上へ飛び込んだような感覚だ。

 

 一瞬、心臓が口から飛び出そうになる。

 

 だが、衝撃はほとんど感じない。

 

 身体は風に優しく受け止められ、そのまま羽毛のようにふわりと地面へ降ろされていく。

 

 こうして、自分達は誰一人大きな怪我を負うことなく着地した。

 

 ……絨毯というより、どう考えても巨大なトランポリンだったけど。

 

 『はぁぁぁ……やっと着いたぁ。怖かったぁ……』

 

 フィーはその場へへたり込み、大きく息を吐いた。

 

 「うん。地面があって本当に良かった……」

 

 ミオも安堵したように胸へ手を当てる。

 

「途中で『このままずっと落ち続けるんじゃないか』って、本気で思っちゃった」

 

 「……俺も」

 

 思わず苦笑が漏れる。

 

 どれだけ落ちてきたのかは分からない。

 

 何百メートルだったのか。

 

 それとも、それ以上だったのか。

 

 ただ一つ確かなのは――。

 

 自分達は今、未知なる氷の世界へ足を踏み入れたということだった。

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