転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー41

 『うぅぅ……寒いぃぃ……』

 

「まだ【妖精の温もり(フェアリー・ウォーム)】の効果は残ってるはずなんだけど……念のため、もう一回かけておくね」

 

 『ありがとぉ、ミオぉ……』

 

 無事に着地したのも束の間。

 

 辺りを見渡せば、視界に映るのは氷、氷、氷。

 

 地面も壁も天井も、すべてが白く凍り付き、この地下空間そのものが巨大な氷の洞窟になっていた。

 

 これも魔障の影響なのだろうか。

 

 【妖精の温もり(フェアリー・ウォーム)】のおかげで辛うじて身体は動くものの、冷気は服の隙間から容赦なく入り込み、骨の芯まで凍えさせてくる。

 

 試しに炎魔法で身体を温めてみた。

 

 確かに一瞬だけ暖かくなる。

 

 だが、それも束の間。

 

 すぐに魔障の冷気へ飲み込まれ、熱は跡形もなく消え去ってしまった。

 

 これでは魔力を無駄遣いするだけだ。

 

 素直にミオの魔法へ頼った方が賢明だろう。

 

 「んー……」

 

 「? どうかしました、ソンジさん?」

 

 身体を温め直してもらっている最中、ソンジさんが再び地図を広げていた。

 

 眉間には深い皺が刻まれている。

 

 嫌な予感しかしない。

 

 「今、落下地点を確認してたんだけど……」

 

 一度言葉を切り、地図と周囲を見比べる。

 

 「どこにも一致する場所がない」

 

 「え……?」

 

 「つまり私達が今いる場所は、騎士団ですら地図を作れなかった区域ってことさ」

 

 その一言で空気が凍り付いた。

 

 「騎士団でも調査を断念した……禁止区域ってわけ」

 

 「そんな……」

 

 思わず息を呑む。

 

 経験豊富な騎士達ですら立ち入ることを諦めた場所。

 

 そんな危険地帯へ、自分達は落ちてしまったというのか。

 

 薄々嫌な予感はしていた。

 

 だが、現実は予想以上だった。

 

 ギリスケの奴……とんでもない場所まで落ちてくれたもんだ。

 

 「あっ!」

 

 その時、ようやく本来の目的を思い出す。

 

 「そういえば、ギリスケとマヒロは!?」

 

 全員で周囲を見渡す。

 

 しかし、人影はない。

 

 気配も感じられない。

 

 「おかしいな……」

 

 ソンジさんが腕を組む。

 

「途中で分岐はなかったし、落下中に二人が軌道を変えた様子もなかった。同じ場所へ落ちても不思議じゃないはずなんだけど。」

 

 確かにその通りだ。

 

 あの空洞は一本道だった。

 

 途中で横穴へ入れるような場所もなかったし、落下中に二人の姿が見えなくなるような出来事もなかった。

 

 それなのに、姿だけが消えている。

 

 まさか――。

 

 嫌な想像が頭をよぎる。

 

 いや、落ちてすぐ命を落としたとは考えにくい。

 

 周囲に遺体らしきものも見当たらない。

 

 なら、一体どこへ……。

 

 『ねぇ?』

 

 フィーの声が思考を遮った。

 

 『これ、何だろ?』

 

 「ん?」

 

 「何か見つけたのかい?」

 

 自分達は慌ててフィーのもとへ駆け寄る。

 

 『ほら、これ』

 

 フィーが指差した先へ目を向ける。

 

 「……これは……」

 

 白銀の地面を一直線に走る一本の切れ目。

 

 自然にできた亀裂とは思えない。

 

 まるで鋭利な刃物で、大地そのものを一刀のもとに断ち切ったような――。

 

 そんな異様な痕跡が、氷の大地に静かに刻まれていた。

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