「にしても……一体ここ、何なんだ?」
全員と合流し、互いの無事を確認したところで、自分達は改めて周囲へ視線を巡らせた。
広がるのは、どこまでも続く白銀の世界。
足元の地面は分厚い氷で覆われ、壁も天井も巨大な氷柱を纏っている。
吐いた息は白く凍り、静寂だけがこの空間を支配していた。
耳を澄ませても、水滴の音ひとつ聞こえない。
まるで、この場所だけ時間そのものが凍り付いてしまったような感覚だった。
広さは東京ドーム一つ分ほどだろうか。
いや、実際にはそれ以上あるかもしれない。
横へ広がるというより、縦へ大きく伸びた巨大な吹き抜け。
見上げれば、自分達が落ちてきた縦穴が遥か彼方まで続いている。
暗く深いその穴は、底の見えない井戸を逆さまにしたようで、見つめているだけでも吸い込まれそうな錯覚を覚えた。
周囲に出口らしき通路はない。
横穴も、扉も、人工物らしい痕跡も見当たらない。
あるのは氷と岩、そして頭上へぽっかりと空いた巨大な穴だけだった。
「……なるほど」
ソンジさんが地図を畳み、小さく息を吐く。
何か結論に至ったらしい。
「ここだけ完全に隔離されてるんだ」
「隔離?」
「地図に載ってる迷宮とは繋がってない。少なくとも騎士団が調査した範囲には、この場所は存在していない」
そう言って頭上の縦穴を指差す。
「つまり、出入り口はあそこだけってことさ」
思わず視線を追う。
……あそこを登れ、と?
何百メートル。
いや、下手をすれば何キロあるのかも分からない。
しかも、壁は一面が氷。
まともに登れるとは到底思えなかった。
自然と乾いた笑みが漏れる。
これはもう迷宮というより、巨大な監獄だ。
『ねぇミオー』
フィーが上を見上げながら首を傾げる。
『あそこまで風魔法で飛んでいけたりしないの?』
全員の視線がミオへ集まる。
ミオはしばらく縦穴を見つめた後、小さく首を横へ振った。
「うーん……できるかどうかは、やってみないと分からないかな」
少し申し訳なさそうに笑う。
「でも、途中で魔力切れになったら……今度は誰も受け止められない」
その一言だけで十分だった。
落下してきた時の恐怖が鮮明に蘇る。
もし途中で魔法が消えれば、全員が真っ逆さまだ。
「それに」
ミオは自分達へ掛けている魔法を見つめる。
「【
「私も同感だね」
ソンジさんも頷く。
「仮に上まで飛べたとしても、その先には迷宮の探索が残ってる。ここで魔力を使い切るのは悪手だ」
確かにその通りだ。
ここへ落ちてくるまでにも、ミオは何度も魔法を使ってきた。
落下の衝撃を和らげた風魔法。
身体を守る防寒魔法。
どちらも今の自分達には欠かせない。
切り札は、本当に必要な時まで温存するべきだろう。
『でもさぁ……』
フィーが辺りを見回す。
『他に道なんて、ないんですよね?』
その言葉に全員が沈黙する。
改めて周囲を確認しても、見えるのは氷の壁だけ。
右を見ても。
左を見ても。
正面を見ても。
どこにも通路らしきものは存在しなかった。
「そこが問題なんだよなぁ……」
ソンジさんが困ったように頭を掻く。
「このまま立ち止まってても、防寒魔法で魔力を消耗するだけだし」
時間だけが過ぎていく。
寒さは容赦なく体力を奪い続ける。
探索するにも道がない。
上へ戻るにも現実的ではない。
完全な袋小路だった。
重苦しい空気が一行を包み込む。
その沈黙を、いつもの明るい声が吹き飛ばした。
「ならば!」
マヒロが勢いよく手を挙げる。
嫌な予感しかしない。
「拙者がこの氷の壁を全部ぶった斬り、新たな道を切り開くでござる!」
「『いや、それだけは絶対やめて!!』」
全員のツッコミが、氷の空間いっぱいに見事なハーモニーとなって響き渡った。