転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー45

 「のお、サダメ。やはり新たな道を切り開くわけにはいかぬのか?」

 

 行き詰まった空気の中、マヒロが先ほどの提案をもう一度口にした。

 

 気持ちは分かる。

 

 正直、自分も「もうそれしかないんじゃないか」と一瞬考えた。

 

 だが、簡単に頷ける話ではない。

 

 「駄目に決まってるだろ」

 

 首を横に振る。

 

 「まず、ここがどの辺りにあるのか分からない。適当に掘っても元の通路へ繋がる保証はないし、もっと地下へ進むだけかもしれない」

 

 「そうだね」

 

 ソンジさんも頷く。

 

 「もし地図に載ってる階層より深い場所だったら、いくら掘っても無駄足になる可能性が高い」

 

 体力だけを消耗し、時間まで失う。

 

 そんな展開だけは避けたかった。

 

 「それに、一番怖いのは――」

 

 「地盤沈下、ですよね?」

 

 自分の言葉を、ソンジさんが引き継ぐ。

 

 「そう」

 

 「じばん……ちんか?」

 

 案の定、マヒロは首を傾げた。

 

 聞き慣れない言葉なのだろう。

 

 「簡単に言えば、支えを失った地面が崩れることさ」

 

 ソンジさんは少し考え込む。

 

 「例えばダンボール箱の中身を――」

 

 「だんぼーる、とは何でござる?」

 

 「…………」

 

 ぴたりと説明が止まった。

 

 数秒の沈黙。

 

 「……そうだった」

 

 ソンジさんが額を押さえる。

 

 「この世界じゃ木箱が主流だった」

 

 せっかく思いついた例え話が、一瞬で崩壊した。

 

 世界が違えば、常識も違う。

 

 ジェネレーションギャップならぬ、ワールドギャップというやつだ。

 

 いや、普通にカルチャーショックか。

 

 「えっと……」

 

 ソンジさんは咳払いを一つして仕切り直す。

 

 「要するに、考えなしに穴を掘ると天井や壁を支えられなくなって、全部崩れるかもしれないってこと」

 

 「ああ、それなら分かるでござる」

 

 マヒロは何度も頷いた。

 

 「つまり、拙者達まで生き埋めになる危険があるのでござるな」

 

 「そういうこと」

 

 ソンジさんも安堵したように笑う。

 

 細かい理屈はともかく、危険性だけ伝われば十分だ。

 

 今は講義をしている場合ではない。

 

 「して、これからどうするのでござる?」

 

 マヒロが腕を組みながら考え込む。

 

 「穴が掘れぬのであれば、やはり来た道を戻るしかないのでござろう?」

 

 「まあ、それしか……」

 

 「ならば!」

 

 何か閃いたらしい。

 

 「拙者の【水龍】を使って上を目指すというのはどうでござる?」

 

 なるほど。

 

 確かに発想としては悪くない。

 

 水龍なら空中を駆けるようなこともできる。

 

 だが――。

 

 「……いや、それ、せいぜい二人乗りくらいだろ?」

 

 「うむ」

 

 「しかも何百メートルも上まで行くんだぞ?」

 

 「うむ」

 

 「乗ってる方は、かなり怖いと思う」

 

 「……おろ?」

 

 きょとんと首を傾げるマヒロ。

 

 どうやら本人は全く問題ないと思っていたらしい。

 

 「それ以前に、水龍をそこまで維持し続ける魔力も必要だね」

 

 ソンジさんが苦笑する。

 

 「発想は悪くない。でも、現実的じゃないかな」

 

 「むぅ……」

 

 マヒロは少し残念そうに唇を尖らせた。

 

 助けたいという気持ちは誰よりも強い。

 

 だからこそ、思いつくたびに提案してくれるのだろう。

 

 その気持ちはありがたい。

 

 けれど今は、焦って動けば動くほど状況は悪くなる。

 

 だからこそ、自分達は慎重に答えを探さなければならなかった。

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