「のお、サダメ。やはり新たな道を切り開くわけにはいかぬのか?」
行き詰まった空気の中、マヒロが先ほどの提案をもう一度口にした。
気持ちは分かる。
正直、自分も「もうそれしかないんじゃないか」と一瞬考えた。
だが、簡単に頷ける話ではない。
「駄目に決まってるだろ」
首を横に振る。
「まず、ここがどの辺りにあるのか分からない。適当に掘っても元の通路へ繋がる保証はないし、もっと地下へ進むだけかもしれない」
「そうだね」
ソンジさんも頷く。
「もし地図に載ってる階層より深い場所だったら、いくら掘っても無駄足になる可能性が高い」
体力だけを消耗し、時間まで失う。
そんな展開だけは避けたかった。
「それに、一番怖いのは――」
「地盤沈下、ですよね?」
自分の言葉を、ソンジさんが引き継ぐ。
「そう」
「じばん……ちんか?」
案の定、マヒロは首を傾げた。
聞き慣れない言葉なのだろう。
「簡単に言えば、支えを失った地面が崩れることさ」
ソンジさんは少し考え込む。
「例えばダンボール箱の中身を――」
「だんぼーる、とは何でござる?」
「…………」
ぴたりと説明が止まった。
数秒の沈黙。
「……そうだった」
ソンジさんが額を押さえる。
「この世界じゃ木箱が主流だった」
せっかく思いついた例え話が、一瞬で崩壊した。
世界が違えば、常識も違う。
ジェネレーションギャップならぬ、ワールドギャップというやつだ。
いや、普通にカルチャーショックか。
「えっと……」
ソンジさんは咳払いを一つして仕切り直す。
「要するに、考えなしに穴を掘ると天井や壁を支えられなくなって、全部崩れるかもしれないってこと」
「ああ、それなら分かるでござる」
マヒロは何度も頷いた。
「つまり、拙者達まで生き埋めになる危険があるのでござるな」
「そういうこと」
ソンジさんも安堵したように笑う。
細かい理屈はともかく、危険性だけ伝われば十分だ。
今は講義をしている場合ではない。
「して、これからどうするのでござる?」
マヒロが腕を組みながら考え込む。
「穴が掘れぬのであれば、やはり来た道を戻るしかないのでござろう?」
「まあ、それしか……」
「ならば!」
何か閃いたらしい。
「拙者の【水龍】を使って上を目指すというのはどうでござる?」
なるほど。
確かに発想としては悪くない。
水龍なら空中を駆けるようなこともできる。
だが――。
「……いや、それ、せいぜい二人乗りくらいだろ?」
「うむ」
「しかも何百メートルも上まで行くんだぞ?」
「うむ」
「乗ってる方は、かなり怖いと思う」
「……おろ?」
きょとんと首を傾げるマヒロ。
どうやら本人は全く問題ないと思っていたらしい。
「それ以前に、水龍をそこまで維持し続ける魔力も必要だね」
ソンジさんが苦笑する。
「発想は悪くない。でも、現実的じゃないかな」
「むぅ……」
マヒロは少し残念そうに唇を尖らせた。
助けたいという気持ちは誰よりも強い。
だからこそ、思いつくたびに提案してくれるのだろう。
その気持ちはありがたい。
けれど今は、焦って動けば動くほど状況は悪くなる。
だからこそ、自分達は慎重に答えを探さなければならなかった。