「えっ!?」
突然、ソンジさんが自分の考えを代弁したかのような言葉を口にした。
あまりにもタイミングが良すぎて、一瞬背筋に冷たいものが走る。
まさか思考を読まれたのか――そんな馬鹿げた考えまで頭をよぎった。
だが、すぐにそれは勘違いだと分かる。
ソンジさんの視線は自分ではなく、何もない空間へ向けられていた。
顎に手を添え、思考を巡らせている様子を見るに、どうやら独り言だったらしい。
なんだ。
てっきり自分が無意識に口に出してしまったのかと思った。
それにしても、ここまで考えが一致するとは驚きだ。
「ソンジさん。何か分かったんですか?」
ミオが恐る恐る問い掛ける。
その声に反応するように、皆の視線がソンジさんへ集まった。
「あくまで可能性の話だけどね」
ソンジさんは前置きをしてから続ける。
「この場所のどこかに、騎士団ですら管理しきれないような『何か』が封印されているんだと思う。恐らく存在を知っているのも騎士団の中のごく一部だけだろうね。結界だって、一度張れば終わりじゃない。誰かが定期的に維持しているはずだ」
「『何か』って、何です?」
「そこまでは分からないさ。凶悪な魔物かもしれないし、呪われた魔道具かもしれない。あるいはもっと別の何かかもね」
ソンジさんは肩を竦める。
「ほら、絵本や小説なんかでよくあるだろ? 封印された災厄とか、触れてはいけない遺物とか。そういう類のものが、この世界にも実在したってことさ」
そして苦笑を浮かべた。
「まあ、あくまで私の仮説だけどね」
だが、その仮説は妙にしっくりきた。
少なくとも騎士団がこの場所を隠した理由としては十分納得できる。
危険な何かを封印している。
そう考えれば、記録を残さなかったことも説明がつく。
もちろん疑問はまだ残っている。
なぜ魔物が現れないのか。
そこだけは上手く説明できない。
そんなことを考えていると――
『じゃあ、魔物が出てこないのはなんでです?』
フィーがちょうどその疑問を口にした。
自分が聞こうとしていたことを先に聞いてくれた形だ。
皆の視線が再びソンジさんへ向く。
彼女は少し考えてから答えた。
「それは、封印されている『何か』が強すぎるからじゃないかな」
「強すぎる?」
「ここだけ魔障が発生している。この迷宮全体が異常な寒さになっている。その原因も恐らくここだ」
ソンジさんは足元の地面を軽く叩く。
「つまり、それだけの影響を周囲へ及ぼすほど危険な存在が眠っているってことになる」
そう言って空洞の奥へ視線を向けた。
「魔物達も本能的に理解しているんじゃないかな。この場所に近付くのは危険だって」
「本能で?」
「うん。近寄らないんじゃなくて、近寄れないと言った方が正しいかもしれない」
ソンジさんは続ける。
「昔、本で読んだことがあるんだ。魔物は基本的に自分へ害が及びにくい場所へ発生するってね」
「あー」
言われてみれば思い当たる節はあった。
「例えば村の近くに魔物が現れることはあっても、村のど真ん中に出現することはないだろ?」
「たしかに」
ドレーカ村もリーヴ村もそうだった。
魔物が出ることはあっても、いきなり村の中央へ現れた話は聞いたことがない。
「生まれた瞬間に討伐されるなんて、魔物からしても願い下げだろうしね。だから生まれる前から、ある程度危険を避ける仕組みがあるんじゃないかな」
『へー。りすきるっていうのはよく分かんないですけど、なんとなく理解はしたっす』
フィーが素直に頷く。
確証があるわけではない。
それでもソンジさんの説明には妙な説得力があった。
少なくとも、この異常な空洞に魔物が存在しない理由としては納得できる。
もし本当にそうなのだとしたら――
この場所には、魔物ですら本能的に避けるほど危険な何かが眠っていることになる。
その事実に気付いた瞬間。
空洞の冷気が、先ほどまでよりも数段冷たく感じられた。
ズン ズン ズン
その時だった。
静寂に包まれていた地下空洞の奥底から、何かが響くような重低音が鳴り渡ったのは。