転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー49

 「じゃ、じゃあ、この場所に居座ってるのってマズくないっすか!?」

 

 ソンジさんの話を聞いたギリスケが、顔を青ざめさせながら声を上げる。

 

 その言葉は、誰もが心のどこかで思っていたことだった。

 

 真相がどうであれ、この空洞が普通の場所ではないことだけは確かだ。

 

 騎士団が存在そのものを隠し、魔物すら近寄らない異様な空間。

 

 そんな場所に、いつまでも留まっていていいはずがない。

 

           ズン   ズン   ズン

 

 鈍く、重い音が地の底から響く。

 

 まるで巨大な何かが歩いているかのような、不気味な衝撃音。

 

 だが、その場の誰もまだ気に留めてはいなかった。

 

 「そうだね。面倒なことになる前に引き揚げよう。ミオ君、準備はいいかい?」

 

 「はい。私はいつでも。フィーちゃん、急いで!」

 

 『う、うん!』

 

 場の空気が一変する。

 

 先ほどまで推理を巡らせていた全員が、一斉に脱出の準備へ意識を切り替えた。

 

 ソンジさんの指示に従い、ミオが風魔法の詠唱に備える。

 

 少し離れた場所にいたフィーも、慌ててこちらへ駆け寄ってきた。

 

        ズン   ズン   ズン   ズン

 

 「皆、準備はいい?」

 

 「ああ」

 

 『オッケー』

 

 「もち」

 

 「うむ」

 

 「……」

 

 皆が次々と返事を返す。

 

 だが、自分だけは返事をしなかった。

 

 耳を澄ませ、じっと闇の奥へ意識を向ける。

 

      ズン   ズン   ズン   ズン   ズン

 

 「? サダメ? どうしたの?」

 

 ミオが心配そうにこちらを覗き込む。

 

 声は聞こえていた。

 

 話の内容も理解している。

 

 それでも返事を返せなかった。

 

 胸の奥で、嫌な予感が膨らみ続けていたからだ。

 

 何か聞こえる。

 

 ずっと、下の方から。

 

 一定の間隔で。

 

 重く、鈍く。

 

 何かが近付いてくる。

 

 そんな音が。

 

    ズン   ズン   ズン   ズン   ズン   ズン

 

 「まだ何か気になることでもあるのかい?」

 

 怪訝そうな表情を浮かべながらソンジさんが尋ねる。

 

 気のせいなら、それでいい。

 

 ただの聞き間違いなら笑い話で済む。

 

 だが、この胸騒ぎだけはどうしても拭えなかった。

 

 「なんか……さっきから変な音が聞こえません?」

 

 「変な音?」

 

 「耳を澄ませてみてください」

 

 皆は互いに顔を見合わせる。

 

 そして口を閉ざし、静かに耳を澄ませた。

 

      ズン   ズン   ズン   ズン   ズン   ズン   ズン

 

 「ッ!? 本当だ!」

 

 『ズンズンって、下から聞こえてくる気がする!』

 

 「これは……何の音でござる?」

 

 「分からない。何かを壊している音……か?」

 

 「つーか、なんかだんだん速くなってきてねーか!?」

 

 どうやら空耳ではなかったらしい。

 

 皆にもはっきり聞こえている。

 

 地の底から響いてくる重い衝撃音。

 

 岩を砕き、地面を踏み締めながら、巨大な何かがこちらへ向かっているような音だった。

 

      ズン   ズン   ズン   ズン   ズン   ズン   ズン   ズン

 

 音の間隔が縮まる。

 

 一歩。

 

 また一歩。

 

 ゆっくりと。

 

 しかし確実に。

 

 こちらへ近付いてきている。

 

 しかも、それだけではない。

 

 ドン、と足裏に微かな震動が伝わった。

 

 続いてもう一度。

 

 そして、また一度。

 

 空気が震え、足元の小石がカタカタと跳ねる。

 

 音だけではない。

 

 地面そのものが揺れ始めていた。

 

 もはや耳を澄ます必要はない。

 

 誰もが、その異変を肌で感じ始めていた。

 

 嫌な汗が背中を伝う。

 

 息を呑む音すら、この静寂では大きく聞こえる。

 

 誰一人として言葉を発しない。

 

 いや、発することができなかった。

 

 ただ全員が、闇の奥を見つめていた。

 

      ズン  ズン  ズン  ズン  ズン  ズン  ズン  ズン  ズン  ズン

 

 音はもう、すぐそこまで迫っていた。

 

 その瞬間――

 

 空洞全体を震わせるような、耳をつんざく遠吠えが闇の底から轟いた。

 

 獣とも竜ともつかない咆哮。

 

 それは生き物の叫びというより、この地下世界そのものが悲鳴を上げたかのような、おぞましい咆哮だった。

 

 その場にいた全員の身体が、本能のまま硬直した。

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