「はぁ……はぁ……。ったく、なんなんだよもう! あと少しだったってのに」
『でも、もう少し進んでたら私達、死んでたよ』
「うむ。これもサダメが気付いてくれたおかげでござるな」
「ありがとう、サダメ」
「礼はいいって。それより――」
全員が再び地面へ降り立ち、ようやく一息つく。
ギリスケは悔しそうに頭を掻き、フィーとマヒロは胸を撫で下ろしていた。
だが、自分だけは気を緩めることができなかった。
「問題はここからだ」
まだ何一つ解決していない。
いや、それどころか状況はさらに悪化している。
先ほど放たれた光の一撃。
あれほどの威力を持つ魔道具など聞いたことがない。
となれば、考えられる可能性は一つ。
誰かが――いや、"何か"が、自分達を狙って魔法を放った。
しかも、この地下から。
こんな場所に人間がいるとは思えない。
ならば答えは一つしかない。
「……くるぞ!!」
「『ッ!?』」
咄嗟に全員へ声を張り上げる。
武器を握る者。
魔法の準備に入る者。
誰もが反射的に構えを取った。
その直後だった。
陥没した地面の奥から、重く空気を叩くような羽音が響き始める。
――バサッ。
――バサァッ。
巨大な翼が空気を打つたび、冷たい風が空洞を吹き抜けた。
「……」
喉が渇く。
嫌というほど聞こえていた鼓動が、さらに速くなる。
ついに現れる。
この地下へ封じられていた"何か"が。
誰も言葉を発しない。
ただ一点。
陥没した穴だけを見つめていた。
―――――――――― ―――――――――― ――――――――――
低く唸るような咆哮。
獣とも鳥とも違う。
それでいて、生物とは思えないほど重々しい鳴き声だった。
耳ではなく、本能へ直接響いてくるような威圧感。
全身の毛穴が総毛立つ。
こんな鳴き声は聞いたことがない。
生き物が発している音だと理解しているはずなのに、身体は本能的な恐怖を訴え続けていた。
――――――――――
「ッ!? きた!?」
視界の端を銀色の何かが横切る。
翼だ。
しかも、とてつもなく大きい。
「業火の炎よ。鉄より堅き剣となり、我が元に……」
反射的に詠唱を始める。
まだ姿は見えていない。
それでも、あの翼だけで十分だった。
ライラック先生の《緋翔の大鷹《レッド・ホーク》》など比較にならない。
一回りどころか、二回りは大きい。
もしあの巨体で自在に空を飛び回れるなら、空中戦では圧倒的に不利になる。
ならば狙うべきは翼。
飛べなくしてしまえば勝機はある。
そう判断した自分は、業火剣を顕現させようとする。
「顕現せよ。ヘルファー……ド」
だが。
詠唱は最後まで続かなかった。
ゆっくりと。
本当にゆっくりと。
陥没した穴の奥から、その姿が姿を現したからだ。
まず見えたのは巨大な翼。
続いて長い首。
鋭い鉤爪。
しなやかな尾。
全身を覆う、一枚一枚が宝石のように輝く白銀の鱗。
その神々しい姿を目にした瞬間、自分の思考は止まった。
「なっ……!?」
誰かが息を呑む音が聞こえる。
それが誰だったのか分からない。
自分だったのかもしれない。
マヒロか。
ミオか。
全員が、その場に立ち尽くしていた。
戦おうという意志すら、一瞬で吹き飛ぶ。
あまりにも美しく。
あまりにも圧倒的な存在感。
伝説の中だけに存在すると思っていた生物が、今まさに目の前で翼を広げている。
そんな光景を前にして、冷静でいられる者などいるはずがなかった。
自分達の目の前に姿を現した"何か"。
それは、息を呑むほど美しい――白銀の龍だった。