転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー52

 「はぁ……はぁ……。ったく、なんなんだよもう! あと少しだったってのに」

 

 『でも、もう少し進んでたら私達、死んでたよ』

 

 「うむ。これもサダメが気付いてくれたおかげでござるな」

 

 「ありがとう、サダメ」

 

 「礼はいいって。それより――」

 

 全員が再び地面へ降り立ち、ようやく一息つく。

 

 ギリスケは悔しそうに頭を掻き、フィーとマヒロは胸を撫で下ろしていた。

 

 だが、自分だけは気を緩めることができなかった。

 

 「問題はここからだ」

 

 まだ何一つ解決していない。

 

 いや、それどころか状況はさらに悪化している。

 

 先ほど放たれた光の一撃。

 

 あれほどの威力を持つ魔道具など聞いたことがない。

 

 となれば、考えられる可能性は一つ。

 

 誰かが――いや、"何か"が、自分達を狙って魔法を放った。

 

 しかも、この地下から。

 

 こんな場所に人間がいるとは思えない。

 

 ならば答えは一つしかない。

 

             「……くるぞ!!」

 

 「『ッ!?』」

 

 咄嗟に全員へ声を張り上げる。

 

 武器を握る者。

 

 魔法の準備に入る者。

 

 誰もが反射的に構えを取った。

 

 その直後だった。

 

 陥没した地面の奥から、重く空気を叩くような羽音が響き始める。

 

 ――バサッ。

 

 ――バサァッ。

 

 巨大な翼が空気を打つたび、冷たい風が空洞を吹き抜けた。

 

 「……」

 

 喉が渇く。

 

 嫌というほど聞こえていた鼓動が、さらに速くなる。

 

 ついに現れる。

 

 この地下へ封じられていた"何か"が。

 

 誰も言葉を発しない。

 

 ただ一点。

 

 陥没した穴だけを見つめていた。

 

   ―――――――――― ―――――――――― ――――――――――

 

 低く唸るような咆哮。

 

 獣とも鳥とも違う。

 

 それでいて、生物とは思えないほど重々しい鳴き声だった。

 

 耳ではなく、本能へ直接響いてくるような威圧感。

 

 全身の毛穴が総毛立つ。

 

 こんな鳴き声は聞いたことがない。

 

 生き物が発している音だと理解しているはずなのに、身体は本能的な恐怖を訴え続けていた。

 

    ――――――――――

 

 「ッ!? きた!?」

 

 視界の端を銀色の何かが横切る。

 

 翼だ。

 

 しかも、とてつもなく大きい。

 

 「業火の炎よ。鉄より堅き剣となり、我が元に……」

 

 反射的に詠唱を始める。

 

 まだ姿は見えていない。

 

 それでも、あの翼だけで十分だった。

 

 ライラック先生の《緋翔の大鷹《レッド・ホーク》》など比較にならない。

 

 一回りどころか、二回りは大きい。

 

 もしあの巨体で自在に空を飛び回れるなら、空中戦では圧倒的に不利になる。

 

 ならば狙うべきは翼。

 

 飛べなくしてしまえば勝機はある。

 

 そう判断した自分は、業火剣を顕現させようとする。

 

 「顕現せよ。ヘルファー……ド」

 

 だが。

 

 詠唱は最後まで続かなかった。

 

 ゆっくりと。

 

 本当にゆっくりと。

 

 陥没した穴の奥から、その姿が姿を現したからだ。

 

 まず見えたのは巨大な翼。

 

 続いて長い首。

 

 鋭い鉤爪。

 

 しなやかな尾。

 

 全身を覆う、一枚一枚が宝石のように輝く白銀の鱗。

 

 その神々しい姿を目にした瞬間、自分の思考は止まった。

 

 「なっ……!?」

 

 誰かが息を呑む音が聞こえる。

 

 それが誰だったのか分からない。

 

 自分だったのかもしれない。

 

 マヒロか。

 

 ミオか。

 

 全員が、その場に立ち尽くしていた。

 

 戦おうという意志すら、一瞬で吹き飛ぶ。

 

 あまりにも美しく。

 

 あまりにも圧倒的な存在感。

 

 伝説の中だけに存在すると思っていた生物が、今まさに目の前で翼を広げている。

 

 そんな光景を前にして、冷静でいられる者などいるはずがなかった。

 

 自分達の目の前に姿を現した"何か"。

 

 それは、息を呑むほど美しい――白銀の龍だった。

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