「……ウソだろ? 実在したのかよ!?」
「なんで……なんでこんなところに?」
「……なんと美しい」
『あ、ああ……あああ……』
「……」
"何か"が姿を現した瞬間、その場にいた全員が息を呑んだ。
誰も動けない。
誰も目を逸らせない。
目の前にいる存在が、あまりにも現実離れしていたからだ。
自分もまた、言葉を失っていた。
この世界の人間なら、子どもから大人まで誰もが知っている昔話がある。
日本で言えば、桃太郎や浦島太郎のように語り継がれている有名な伝承。
国一つを凍土へ変え、多くの命を奪い、最後は勇者達との死闘の末に討たれたとされる――白銀の怪鳥。
その伝説に描かれていた姿と、今目の前にいる魔物は驚くほど一致していた。
いや、似ているなどという話ではない。
幼い頃に何度も読み返した絵本に描かれていた姿、そのままだった。
銀色の巨大な翼。
鏡のような輝きを放つ白銀の鱗。
鋭い牙。
獣を思わせる凶悪な顔つき。
一目見ただけで忘れられない異形の姿。
ここまで特徴が一致する生き物など、他にいるはずがない。
もっとも、伝承の初期ではその存在は"怪鳥"として語られていた。
巨大な翼を持ち、大空を自在に飛ぶことから、人々は鳥の化け物だと思っていたのだろう。
しかし、時代が流れ、伝承が語り継がれるうちに、その姿は次第に"龍《ドラゴン》"として解釈されるようになった。
鳥ではなく、翼を持つ龍。
それが現代では一般的な認識になっている。
さらに、その白銀の龍を始祖とするように、炎、水、風、雷といった様々な属性を宿す龍の伝承も各地で語られるようになり、それらをまとめて『龍《ドラゴン》族』と呼ぶようになった――という説も存在している。
もっとも、それは数ある学説の一つに過ぎない。
現在でも古文書や遺跡を調査し、龍の歴史を研究している学者達がいるほどで、その正体はいまだ多くの謎に包まれている。
つまり、この存在は長らく"実在するかどうかも分からない伝説上の生物"として扱われてきたのだ。
だからこそ。
今、自分達の目の前にいる存在を前にして、誰もが現実を受け止めきれずにいた。
その神々しい姿に見惚れる者。
圧倒的な威圧感に身体を震わせる者。
フィーに至っては恐怖のあまり涙声になっていた。
「【
ソンジさんも目を見開いたまま、その白銀の龍を見上げていた。
《銀鏡の翼龍》。
銀色の翼と、鏡のような光沢を放つ鱗を持つことから名付けられた、伝説の龍族。
彼女の言う通り、この世界でも龍は基本的に空想上の存在として認識されている。
もちろん、竜に似た魔物や、「ドラゴン」の名を冠する魔物は存在する。
しかし、それらはあくまで名前や姿形が似ているだけで、伝承に語られる龍とは別物だ。
ましてや、絵本や神話に描かれるような存在が実在したという記録は一つも残されていない。
だからこそ、目の前の光景は常識を根底から覆していた。
あの一撃。
あの圧倒的な存在感。
そして、この神話そのものの姿。
十死怪のような規格外の存在でもなければ、あれほどの力を持つ魔物など考えられない。
「……」
信じたくはなかった。
だが、信じるしかない。
伝説はただの作り話ではなかった。
あの白銀の龍は実在していた。
そして今、永い眠りから目覚め、自分達の目の前に姿を現したのだった。