転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー55

 「な、なあ? これってひょっとして……かなりヤバい状況なんじゃあ……」

 

 ――――――――――ッ!!

 

 「ひいっ!?」

 

 硬直した空気を切り裂くように、銀色の翼龍が咆哮を放つ。

 

 空洞全体を震わせるほどの轟音に、ギリスケは情けない悲鳴を上げてその場に尻もちをついた。

 

 耳をつんざくような咆哮。

 

 胸の奥まで揺さぶられる重低音。

 

 鼓膜だけではない。

 

 本能そのものへ直接叩き込まれるような威圧感だった。

 

 「……ッ!」

 

 その咆哮で、自分もようやく我に返る。

 

 そうだ。

 

 見惚れている場合じゃない。

 

 相手は伝説の生物だろうが何だろうが関係ない。

 

 目の前にいるのは、間違いなく敵意を持った魔物。

 

 さっきの一撃だけでも十分だ。

 

 あれは明らかに、自分達を殺すための攻撃だった。

 

 ならば選択肢は二つ。

 

 逃げるか。

 

 戦うか。

 

 どちらにせよ、一刻も早く動かなければならない。

 

 「ミオ! もう一度、皆を上まで飛ばせるか?」

 

 まずは逃走手段を確認する。

 

 ここから脱出するには、彼女の風魔法が必要不可欠だ。

 

 それが使えないなら、この場で戦うしかない。

 

 「う、うん……できなくはない……と思う。でも……」

 

 ミオは小さく頷いたあと、不安そうに頭上を見上げる。

 

 つられて自分も見上げた。

 

 「ッ!?」

 

 そこには、光の柱が貫いた傷跡が生々しく残っていた。

 

 砕けた天井からは、今なお大小さまざまな岩石が次々と落下している。

 

 崩落はまだ終わっていない。

 

 むしろ、今にも空洞そのものが崩れてしまいそうだった。

 

 この状況で上昇するのは危険すぎる。

 

 途中で巨大な岩が落ちてきたら、それだけで全滅しかねない。

 

 マヒロなら斬り払えるだろう。

 

 だが、無数に降り注ぐ岩を全て防ぎ切れる保証はない。

 

 それに、あの龍がもう一度さっきの攻撃を放ってきたら――。

 

 終わりだ。

 

 逃走は現実的ではない。

 

 「……仕方ない」

 

 覚悟を決める。

 

 「皆、戦闘準備だ!」

 

 「ッ!? サダメ君、まさか……」

 

 ソンジさんが目を見開く。

 

 「逃げられない以上、やるしかないでしょ!? マヒロ、いけるか?」

 

 「うむ。問題ござらん」

 

 迷いのない返事。

 

 マヒロは待っていたと言わんばかりに魔妖を構える。

 

 その瞳には恐怖よりも闘志が宿っていた。

 

 「ま、マジかよ……」

 

 ギリスケが青ざめた顔で呟く。

 

 無理もない。

 

 相手は昔話の中だけに存在すると思われていた伝説の龍だ。

 

 普通なら戦おうなどとは考えない。

 

 だが、他に道はない。

 

 自分とマヒロが前衛。

 

 マヒロは水龍を駆使して機動力を確保し、自分は《脱兎跳躍《ラジャスト》》と遠距離魔法で援護する。

 

 隙が生まれた瞬間、一気に接近戦へ持ち込む。

 

 ミオは魔力を温存。

 

 ソンジさんは魔道具による支援。

 

 フィーには強化魔法を担当してもらう。

 

 それしか勝機は思い浮かばなかった。

 

 「フィー。悪いけど、まずは俺とマヒロに強化魔法を――」

 

 指示を出しかけた、その時だった。

 

 返事がない。

 

 不思議に思って振り向く。

 

 フィーは震えていた。

 

 肩を小刻みに揺らし、両手で自分の身体を抱き締めるように縮こまっている。

 

 顔は真っ青。

 

 唇も震えていた。

 

 目には大粒の涙が浮かび、今にもこぼれ落ちそうになっている。

 

 これまでどんな相手を前にしても、最後まで皆を支え続けてくれたフィー。

 

 その彼女が――。

 

 か細い声で、絞り出すように呟いた。

 

          『……無理だよ。こんなの』

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