転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー58

 『私、勝手に諦めて、皆の気持ちも考えずにあんなこと言っちゃった。本当にごめんなさい。

 

 ……うん。そうだよね。皆で協力すれば、きっとなんとかなる。

 

 わかった。私も最後まで諦めずに頑張るよ!』

 

 「……フィーちゃん!!」

 

 返ってきた「ごめん」は拒絶の言葉ではなかった。

 

 自分達へ向けられた謝罪――そして、もう一度前を向こうとする決意の言葉だった。

 

 袖で涙を拭ったフィーは、大きく息を吸い込むと、力強く立ち上がる。

 

 その姿を見た瞬間、真っ先に駆け寄ったのはミオだった。

 

 「フィーちゃん!」

 

 勢いよく抱き着き、その小さな身体をぎゅっと抱き締める。

 

 気付けばミオの顔も涙でぐしゃぐしゃだった。

 

 自分のことのように喜び、心から安堵しているのが伝わってくる。

 

 フィーも少し驚いたように目を丸くしたあと、小さく笑ってミオを抱き返した。

 

 「よかったね、サダメ君」

 

 「……はい」

 

 そんな二人を横目に、自分の頭へそっと手が置かれる。

 

 振り向くと、ソンジさんが穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 涙こそ流してはいないが、その表情はどこか柔らかく、張り詰めていた空気がようやくほどけたことを物語っている。

 

 自分も思わず頬が緩んだ。

 

 胸の奥に重くのしかかっていた不安が、少しだけ軽くなる。

 

 「うむ。よき弁舌であったぞ、サダメ」

 

 「うおっ!?」

 

 今度は背後から柔らかな感触が包み込んできた。

 

 振り返る間もなく、マヒロが抱き着いてきたらしい。

 

 後頭部がすっぽりと彼女の豊かな胸元へ埋まり、一瞬思考が止まる。

 

 ……いや、今はそんなことを意識している場合じゃない。

 

 自分は苦笑しながら彼女の腕を軽くほどき、一歩前へ出る。

 

 「よし。フィーの協力も得られたし、今度こそ奴を倒すぞ!

 

 皆、戦闘準備!」

 

 その一言で空気が変わる。

 

 張り詰めた緊張は残ったままだ。

 

 それでも、さっきまで皆を覆っていた絶望はもうどこにもない。

 

 自分の号令に応えるように、それぞれが武器を構え、魔力を練り上げる。

 

 皆の瞳には、先ほどまでにはなかった力強い光が宿っていた。

 

 その姿を見た瞬間、自然と確信する。

 

 ――大丈夫だ。

 

 今の自分達なら戦える。

 

 ほんの少し前まで砕けそうだった心は、一つに繋がった。

 

 互いを信じる想いは、凍てつく空気すら溶かしてしまいそうなほど熱く燃えている。

 

 今なら、魔王が相手だったとしても負ける気がしない。

 

 「手筈はさっき話した通りだ。フィー、任せた!」

 

 『うん!』

 

 フィーは力強く頷く。

 

 泣き腫らした目元はまだ赤く残っている。

 

 それでも、その瞳にはもう怯えはなかった。

 

 仲間を信じ、自分自身を信じる者だけが宿せる強い光が宿っている。

 

 銀色の翼龍は、まだこちらへ気付いていない。

 

 長き封印から解放された直後だからか、その動きにはどこか鈍さが見えた。

 

 五感や魔力感知も完全には戻っていないのだろう。

 

 とはいえ、油断はできない。

 

 万全ではない状態ですら、あれほどの一撃を放つ怪物だ。

 

 ほんの一瞬の隙が命取りになる。

 

 『集いし者たちに膂力の向上を――【身体強化《パワーアップ》】』

 

 フィーの詠唱が静かな氷の空間へ響き渡る。

 

 次の瞬間、温かな魔力が全身を駆け巡った。

 

 身体がふっと軽くなる。

 

 筋肉へ力が満ち、冷え切っていた身体に熱が戻っていくような感覚。

 

 気のせいなのかもしれない。

 

 それでも、この極寒の空間では、それだけで心強かった。

 

 仲間の想いが一つになり、身体強化の恩恵も重なったことで、皆の士気はさっきとは比べものにならないほど高まっている。

 

 恐怖は消えていない。

 

 それでも、それ以上に「勝つ」という意思が胸を満たしていた。

 

 自分は剣を握り直し、銀色の翼龍を真っ直ぐ見据える。

 

 口元に小さく笑みを浮かべながら、静かに呟いた。

 

 「んじゃ、始めますか。昔話の続きを!」

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