『私、勝手に諦めて、皆の気持ちも考えずにあんなこと言っちゃった。本当にごめんなさい。
……うん。そうだよね。皆で協力すれば、きっとなんとかなる。
わかった。私も最後まで諦めずに頑張るよ!』
「……フィーちゃん!!」
返ってきた「ごめん」は拒絶の言葉ではなかった。
自分達へ向けられた謝罪――そして、もう一度前を向こうとする決意の言葉だった。
袖で涙を拭ったフィーは、大きく息を吸い込むと、力強く立ち上がる。
その姿を見た瞬間、真っ先に駆け寄ったのはミオだった。
「フィーちゃん!」
勢いよく抱き着き、その小さな身体をぎゅっと抱き締める。
気付けばミオの顔も涙でぐしゃぐしゃだった。
自分のことのように喜び、心から安堵しているのが伝わってくる。
フィーも少し驚いたように目を丸くしたあと、小さく笑ってミオを抱き返した。
「よかったね、サダメ君」
「……はい」
そんな二人を横目に、自分の頭へそっと手が置かれる。
振り向くと、ソンジさんが穏やかな笑みを浮かべていた。
涙こそ流してはいないが、その表情はどこか柔らかく、張り詰めていた空気がようやくほどけたことを物語っている。
自分も思わず頬が緩んだ。
胸の奥に重くのしかかっていた不安が、少しだけ軽くなる。
「うむ。よき弁舌であったぞ、サダメ」
「うおっ!?」
今度は背後から柔らかな感触が包み込んできた。
振り返る間もなく、マヒロが抱き着いてきたらしい。
後頭部がすっぽりと彼女の豊かな胸元へ埋まり、一瞬思考が止まる。
……いや、今はそんなことを意識している場合じゃない。
自分は苦笑しながら彼女の腕を軽くほどき、一歩前へ出る。
「よし。フィーの協力も得られたし、今度こそ奴を倒すぞ!
皆、戦闘準備!」
その一言で空気が変わる。
張り詰めた緊張は残ったままだ。
それでも、さっきまで皆を覆っていた絶望はもうどこにもない。
自分の号令に応えるように、それぞれが武器を構え、魔力を練り上げる。
皆の瞳には、先ほどまでにはなかった力強い光が宿っていた。
その姿を見た瞬間、自然と確信する。
――大丈夫だ。
今の自分達なら戦える。
ほんの少し前まで砕けそうだった心は、一つに繋がった。
互いを信じる想いは、凍てつく空気すら溶かしてしまいそうなほど熱く燃えている。
今なら、魔王が相手だったとしても負ける気がしない。
「手筈はさっき話した通りだ。フィー、任せた!」
『うん!』
フィーは力強く頷く。
泣き腫らした目元はまだ赤く残っている。
それでも、その瞳にはもう怯えはなかった。
仲間を信じ、自分自身を信じる者だけが宿せる強い光が宿っている。
銀色の翼龍は、まだこちらへ気付いていない。
長き封印から解放された直後だからか、その動きにはどこか鈍さが見えた。
五感や魔力感知も完全には戻っていないのだろう。
とはいえ、油断はできない。
万全ではない状態ですら、あれほどの一撃を放つ怪物だ。
ほんの一瞬の隙が命取りになる。
『集いし者たちに膂力の向上を――【身体強化《パワーアップ》】』
フィーの詠唱が静かな氷の空間へ響き渡る。
次の瞬間、温かな魔力が全身を駆け巡った。
身体がふっと軽くなる。
筋肉へ力が満ち、冷え切っていた身体に熱が戻っていくような感覚。
気のせいなのかもしれない。
それでも、この極寒の空間では、それだけで心強かった。
仲間の想いが一つになり、身体強化の恩恵も重なったことで、皆の士気はさっきとは比べものにならないほど高まっている。
恐怖は消えていない。
それでも、それ以上に「勝つ」という意思が胸を満たしていた。
自分は剣を握り直し、銀色の翼龍を真っ直ぐ見据える。
口元に小さく笑みを浮かべながら、静かに呟いた。
「んじゃ、始めますか。昔話の続きを!」