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銀鏡の翼龍は低空で静止したまま、周囲をゆっくりと見回していた。
長き封印から解き放たれたばかりだからか、視界はまだ完全には戻っていないのだろう。小さな自分達の姿を捉え切れていない様子だ。
――今しかない。
「抜刀! 【赤鬼】!」
真っ先に動いたのはマヒロだった。
崩れかけた氷の足場をものともせず、軽やかに蹴り上げると、一気に巨龍の眼前まで跳躍する。
宙を舞いながら愛刀・魔妖《まやかし》を抜いた瞬間、その長い髪が鮮やかな赤へと染まった。
「はあっ!!」
裂帛の気合いとともに振り抜かれた一撃が、銀鏡の翼龍の喉元を強かに打ち据える。
――――――――――!?
巨龍が絶叫した。
喉へ叩き込まれた衝撃に、巨体が大きくのけ反る。
以前聞いた話では、【赤鬼】は腕力を飛躍的に引き上げる代わりに刃の切れ味を失わせる技らしい。
しかし、その代償と引き換えに生まれる破壊力は凄まじい。
斬るのではなく、巨大な金棒で全力で殴りつけるような一撃。
まさに「鬼に金棒」という言葉そのものだ。
……食らう側はたまったものじゃない。
グググググ……
苦悶の唸りを漏らしながら、銀鏡の翼龍は首を震わせる。
【赤鬼】に加え、フィーの身体強化まで重なった渾身の一撃だ。
さすがに無傷では済まな――
グルルルルル……
「むっ!?」
「ッ!? 危ない、マヒロ!」
次の瞬間、巨龍の鋭い視線がマヒロを捉えた。
反対側へ着地した彼女へ、ゆっくりと顔を向ける。
もう反撃に移るのか。
ということは、今の一撃で受けたダメージは思ったほど大きくないということか。
――――――――――!!!
巨龍は大きく息を吸い込む。
その動きを見た瞬間、全身に悪寒が走った。
間違いない。
さっき自分達を吹き飛ばした、あの超高圧の光線だ。
あれを真正面から受ければ、さすがのマヒロでも避け切れない。
まずい。
ここは自分が注意を引きつけるしかない。
「爆ぜる焔よ、火の球として聚合し、眼前に現れし標的に猛る一投を撃ちかけん――」
自分は【脱兎跳躍】で右側の足場へ飛び移りながら、高速で詠唱を紡ぐ。
あのまま撃たせれば、後方にいるミオ達まで巻き込まれる。
だったら別方向から攻撃し、狙いを逸らすしかない。
「【火球《フレール》】!!」
着地と同時に右手を突き出し、火球を放つ。
威力は七割程度。
狙いは撃破ではなく、攻撃の妨害。
そしてもう一つ。
この程度の威力で、どれだけ通用するのかを見極めることだ。
もしこれでまったく効かなければ、全力の火球ですら決定打にはなり得ない。
――――――――――!!!!!
轟音とともに火球が炸裂する。
爆炎が巨龍の顔面を包み込み、衝撃波が周囲の氷を大きく揺らした。
ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛……
「ッ!? これでも駄目か」
炎が晴れる。
そこに立っていた銀鏡の翼龍の姿は、何一つ変わっていなかった。
鱗は傷一つ付かず、銀色の輝きも失われていない。
……くそ。
やはりこの程度の火球では、有効打にはならないか。
――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!
天を震わせるような咆哮が迷宮全体へ響き渡る。
「ぐっ!?」
鼓膜を突き破らんばかりの轟音に思わず顔をしかめる。
ダメージは与えられなかった。
だが――。
少なくとも、自分の攻撃は奴の怒りを買うことには成功した。