「ならば、これはどうでござるか」
傷一つ付けられなかった相手を前にしても、マヒロは一歩も怯まない。
すぐさま次の一手を打つべく、崩れかけた氷の足場を蹴り、再び銀鏡の翼龍へと跳躍した。
「抜刀! 【水龍】!!」
魔妖《まやかし》を抜いた瞬間、今度は髪が澄んだ水色へと染まる。
狙いは首。
岩すら容易く断ち切る水龍の刃なら、あの硬い鱗でさえ――。
「はあっ!!」
鋭い斬撃が銀鏡の翼龍の首筋を捉える。
「なっ!?」
しかし、結果はあまりにも無情だった。
渾身の一太刀は傷一つ刻めず、それどころか鱗一枚剥がすことすらできない。
水龍ですら通用しないだと……?
なんて硬さだ。
身体そのものがダイヤモンドか、超合金でできているとしか思えない。
「くっ!」
マヒロは舌打ち混じりに後方へ飛び退き、そのままミオ達の近くへ着地する。
反撃は受けずに済んだ。
だが、切り札級の斬撃がまるで通じなかった事実は、あまりにも重い。
――――――――――!!!
「ッ!?」
巨龍が再びマヒロへ顔を向ける。
その先にはミオ達もいる。
あそこで攻撃を撃たれたら、全員まとめて吹き飛ばされる。
絶対に阻止しなければ。
「くそっ! こっち向け! 爆ぜる焔よ、火の球として聚合し、眼前に現れし標的に猛る一投を撃ちかけん――【火球《フレール》】!!」
すぐさま詠唱を終え、火球を放つ。
狙うのはもちろん顔面。
威力は八割。
僅かな差ではあるが、少しでもダメージを与えられれば――。
―――――
爆炎が弾ける。
しかし。
「ちっ! やっぱりノーダメか」
炎が晴れた先に立っていた巨龍は、相変わらず美しい銀色の鱗を輝かせていた。
焦げ跡すら残っていない。
どうやら、火球を撃ち続けても結果は変わらなさそうだ。
……なら。
火球《フレール》・【炎衝拳《インパクト》】ならどうだ?
フィーの強化魔法も乗っている今なら、普段以上の威力は引き出せるはずだ。
「……」
いや。
駄目だ。
マヒロの水龍ですら傷一つ付けられなかった相手だ。
自分の切り札を使ったところで、大したダメージにはならない可能性が高い。
しかも炎衝拳は高い集中力を必要とする。
マヒロの剣技のように連発できる技じゃない。
使うなら、ここぞという決定機だけだ。
――――――――――!!!!!
「ッ!? まずい!」
思考を巡らせた、その直後だった。
銀鏡の翼龍が大きく翼を広げ、一気に上空へ舞い上がる。
崩れ落ちる氷塊など意にも介さず、高く、高く。
その姿を見た瞬間、嫌な予感が脳裏をよぎった。
違う。
逃げるつもりじゃない。
自分達の手が届かない場所へ移動しただけだ。
つまり、次に来るのは――。
「ミオ!! 防御魔法を全開だ!!」
「えっ!?」
距離を取ってからの遠距離攻撃。
そう確信した自分は、全速力で仲間の元へ駆け戻る。
スゥゥゥゥゥ……
上空では巨龍がゆっくりと息を吸い込み始めていた。
「皆、張れるだけ結界を張れ!! 何重でもいい! 急げ!!」
戻るなり矢継ぎ早に指示を飛ばす。
ミオの防御魔法を中心に、その上から結界を何重にも重ねる。
どこまで耐えられるかは分からない。
だが、今はそれしか生き残る術がない。
その間にも、銀鏡の翼龍は静かに力を溜め続けていた。
迷宮を貫いた、あの超高圧の光線。
再び放たれるその瞬間が、刻一刻と迫っていた。