転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー60

 「ならば、これはどうでござるか」

 

 傷一つ付けられなかった相手を前にしても、マヒロは一歩も怯まない。

 

 すぐさま次の一手を打つべく、崩れかけた氷の足場を蹴り、再び銀鏡の翼龍へと跳躍した。

 

 「抜刀! 【水龍】!!」

 

 魔妖《まやかし》を抜いた瞬間、今度は髪が澄んだ水色へと染まる。

 

 狙いは首。

 

 岩すら容易く断ち切る水龍の刃なら、あの硬い鱗でさえ――。

 

 「はあっ!!」

 

 鋭い斬撃が銀鏡の翼龍の首筋を捉える。

 

 「なっ!?」

 

 しかし、結果はあまりにも無情だった。

 

 渾身の一太刀は傷一つ刻めず、それどころか鱗一枚剥がすことすらできない。

 

 水龍ですら通用しないだと……?

 

 なんて硬さだ。

 

 身体そのものがダイヤモンドか、超合金でできているとしか思えない。

 

 「くっ!」

 

 マヒロは舌打ち混じりに後方へ飛び退き、そのままミオ達の近くへ着地する。

 

 反撃は受けずに済んだ。

 

 だが、切り札級の斬撃がまるで通じなかった事実は、あまりにも重い。

 

 ――――――――――!!!

 

 「ッ!?」

 

 巨龍が再びマヒロへ顔を向ける。

 

 その先にはミオ達もいる。

 

 あそこで攻撃を撃たれたら、全員まとめて吹き飛ばされる。

 

 絶対に阻止しなければ。

 

 「くそっ! こっち向け! 爆ぜる焔よ、火の球として聚合し、眼前に現れし標的に猛る一投を撃ちかけん――【火球《フレール》】!!」

 

 すぐさま詠唱を終え、火球を放つ。

 

 狙うのはもちろん顔面。

 

 威力は八割。

 

 僅かな差ではあるが、少しでもダメージを与えられれば――。

 

 ―――――

 

 爆炎が弾ける。

 

 しかし。

 

 「ちっ! やっぱりノーダメか」

 

 炎が晴れた先に立っていた巨龍は、相変わらず美しい銀色の鱗を輝かせていた。

 

 焦げ跡すら残っていない。

 

 どうやら、火球を撃ち続けても結果は変わらなさそうだ。

 

 ……なら。

 

 火球《フレール》・【炎衝拳《インパクト》】ならどうだ?

 

 フィーの強化魔法も乗っている今なら、普段以上の威力は引き出せるはずだ。

 

 「……」

 

 いや。

 

 駄目だ。

 

 マヒロの水龍ですら傷一つ付けられなかった相手だ。

 

 自分の切り札を使ったところで、大したダメージにはならない可能性が高い。

 

 しかも炎衝拳は高い集中力を必要とする。

 

 マヒロの剣技のように連発できる技じゃない。

 

 使うなら、ここぞという決定機だけだ。

 

 ――――――――――!!!!!

 

 「ッ!? まずい!」

 

 思考を巡らせた、その直後だった。

 

 銀鏡の翼龍が大きく翼を広げ、一気に上空へ舞い上がる。

 

 崩れ落ちる氷塊など意にも介さず、高く、高く。

 

 その姿を見た瞬間、嫌な予感が脳裏をよぎった。

 

 違う。

 

 逃げるつもりじゃない。

 

 自分達の手が届かない場所へ移動しただけだ。

 

 つまり、次に来るのは――。

 

 「ミオ!! 防御魔法を全開だ!!」

 

 「えっ!?」

 

 距離を取ってからの遠距離攻撃。

 

 そう確信した自分は、全速力で仲間の元へ駆け戻る。

 

 スゥゥゥゥゥ……

 

 上空では巨龍がゆっくりと息を吸い込み始めていた。

 

 「皆、張れるだけ結界を張れ!! 何重でもいい! 急げ!!」

 

 戻るなり矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

 ミオの防御魔法を中心に、その上から結界を何重にも重ねる。

 

 どこまで耐えられるかは分からない。

 

 だが、今はそれしか生き残る術がない。

 

 その間にも、銀鏡の翼龍は静かに力を溜め続けていた。

 

 迷宮を貫いた、あの超高圧の光線。

 

 再び放たれるその瞬間が、刻一刻と迫っていた。

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