転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

503 / 503
第9章ー63

 「う、ウソだろ……? まさか、さっきの攻撃で?」

 

 眼前に広がるあまりにも凄惨な光景に、誰も言葉を失っていた。

 

 ギリスケの声は震え、その顔からは血の気が引いている。

 

 無理もない。

 

 たった一撃。

 

 それだけで、広大だった氷の大地は跡形もなく抉り取られてしまったのだから。

 

 よく目を凝らせば、自分達が守られていた場所だけが辛うじて残り、その周囲は巨大な匙で削り取られたように消え失せている。

 

 穴の規模は、上層から落ちてきたあの巨大な縦穴とほぼ同じ。

 

 ……まさか。

 

 あの縦穴も、この銀鏡の翼龍が作り出したものなのか。

 

 逃げ道を確保するために。

 

 そう考えると、背筋を冷たいものが走った。

 

 「……あれほどの威力の攻撃を、もう一度撃たれたら防ぎ切れないぞ。ミオ君も、今ので魔力も体力も相当削られているはずだ」

 

 呆然と穴を見つめていたソンジさんが、ゆっくりと現実へ引き戻されるように口を開く。

 

 努めて冷静を装っている。

 

 だが、その声には隠し切れない焦燥が滲んでいた。

 

 その通りだ。

 

 あんな攻撃をもう一発受ければ終わる。

 

 しかも、今のミオには――。

 

 「がはっ!?」

 

 「ッ!? ミオ!」

 

 嫌な予感は、最悪の形で的中した。

 

 ミオが突然激しく咳き込み、その場へ膝をつく。

 

 苦しそうに胸を押さえ、肩を大きく上下させながら呼吸を繰り返していた。

 

 乱気流の城壁を維持し続けた反動で、一気に魔力を消耗したのだろう。

 

 この状態でさらに魔法を使わせれば、本当に命に関わる。

 

 少しでも休ませなければならない。

 

 ――だが。

 

 「くっそ! あいつ、俺達のこと見下ろしてやがる! 降りてきやがれ、このこんちくしょー!!」

 

 ギリスケが空へ向かって怒鳴り散らす。

 

 銀鏡の翼龍は相変わらず高空を悠然と旋回し、自分達を見下ろしていた。

 

 挑発など意にも介さない。

 

 まるで獲物が力尽きるのを待つ猛獣のように、静かにこちらを観察している。

 

 連続であの一撃を放つ様子はない。

 

 だが、それも時間の問題だ。

 

 呼吸を整え、力を溜め終えれば、必ず二発目が来る。

 

 ミオは限界。

 

 時間だけが、容赦なく自分達を追い詰めていく。

 

 どうする。

 

 どうすれば、この状況を覆せる。

 

 「おのれ。ならば拙者が、その翼を斬り落として……」

 

 「待つんだ、マヒロ君! 空中戦では私達に勝ち目はない!」

 

 「安心せよ、ソンジ殿。空中戦ならば拙者も一度は制しておる。なんとかなる」

 

 『いや、あれは向こうのミスがあったからであって、また同じように上手くいくとは限らないよ』

 

 フィーの言葉に、自分も心の中で頷く。

 

 あの時は建物という足場があり、相手の判断ミスも重なった。

 

 今回は状況がまるで違う。

 

 壁を伝って近付いたとしても、奴が少し距離を取るだけで届かなくなる。

 

 同じ失敗を二度も犯すほど、あの怪物は甘くない。

 

 「では、どうするのでござる? サダメ、何か良い策はござらぬか?」

 

 「……」

 

 皆の視線が一斉に自分へ集まる。

 

 期待と焦り。

 

 その両方が痛いほど伝わってきた。

 

 考えろ。

 

 焦るな。

 

 相手は空。

 

 なら、無理に追う必要はない。

 

 どうにかして――。

 

 「……奴を地上へ引きずり下ろす。いや……こっちへ近付けさせる方法さえあれば……」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

欠損奴隷を治したら、俺を崇める宗狂団体が設立されてた(作者:破滅)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

日本でしがない派遣社員をしていた谷川 治太郎(25歳)は、気が付くと異世界に召喚されていた。▼勇者として召喚された彼に与えられたのは『治す』という、どんな呪いも解除し、死んでさえいなければどんな大怪我でも治してしまえるというチート級の回復スキルだった。▼勇者召喚をした王族たちは禁呪を使った代償で死んで、自由の身となったジタローは奴隷を買うことに。▼ジタローは…


総合評価:476/評価:7.14/連載:28話/更新日時:2026年07月28日(火) 12:00 小説情報

TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う(作者:第616特別情報大隊)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

 転生した先は地獄だった。▼ 非力な少女の身体に、スラムの孤児という立場。▼ しかし、ある女性との出会いが私を変えた。▼ 魔法使いであるソフィア──彼女が私を弟子にし、希望をくれたのだ。▼ しかし、魔法使いとなった私は普通ではなかった。▼ 詠唱がいらない。▼ 魔法陣もいらない。▼ 魔導書もいらない。▼ それは世界に敵視されかねない危険因子──イレギュラー。▼…


総合評価:348/評価:7.36/連載:80話/更新日時:2026年09月05日(土) 12:01 小説情報

真祖吸血鬼、まだ存在しないアメリカに寄生する 〜合法的な血液供給のため、建国前から国家運用保守を始めました〜(作者:パラレル・ゲーマー)(オリジナル歴史/冒険・バトル)

アメリカ建国250年おめでとうございます記念小説です。▼欧州の吸血鬼貴族ヴァレンシュタイン家に転生したルカは、始祖の血を濃く継ぐ「真祖の中の真祖」だった。▼霧化、影操作、自己再生、記憶読取、そして前世の記録から現代の物品や情報を引き寄せる力。▼無法なまでのチートを持って生まれたルカだったが、両親の価値観は最悪だった。人間牧場、血統管理、血の風呂。現代日本人の…


総合評価:1148/評価:6.21/連載:39話/更新日時:2026年08月10日(月) 16:18 小説情報

人とはこの世で最も醜悪な獣の総称である。(作者:顔のない女@人外ものしか書けない人)(オリジナル現代/恋愛)

人付き合いがとても苦手で、教室の隅で息を潜めて震えながら生きてきた少女には、画面越しにしか愛せない推しがいた。▼ところがその推し——超大手VTuberの彼女は、偶然にもクラスに在籍していて、しかも彼女は少女が自分のガチ恋だと知ったうえで、距離を詰め、からかい、やりたい放題してしまう。▼やがて限界を超えた少女は、ある日の教室で魔が差し、最推しの彼女の唇を奪って…


総合評価:652/評価:8.47/完結:111話/更新日時:2026年08月03日(月) 23:05 小説情報

オール・フォー・ワンから逃げきる方法について(作者:ヒロアカは青春…?)(原作:僕のヒーローアカデミア)

オール・フォー・ワンってヤンデレ適性あるよねってこと。▼多分どうやっても逃げられない()


総合評価:820/評価:7.54/連載:35話/更新日時:2026年07月20日(月) 06:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>