転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー63

 「う、ウソだろ……? まさか、さっきの攻撃で?」

 

 眼前に広がるあまりにも凄惨な光景に、誰も言葉を失っていた。

 

 ギリスケの声は震え、その顔からは血の気が引いている。

 

 無理もない。

 

 たった一撃。

 

 それだけで、広大だった氷の大地は跡形もなく抉り取られてしまったのだから。

 

 よく目を凝らせば、自分達が守られていた場所だけが辛うじて残り、その周囲は巨大な匙で削り取られたように消え失せている。

 

 穴の規模は、上層から落ちてきたあの巨大な縦穴とほぼ同じ。

 

 ……まさか。

 

 あの縦穴も、この銀鏡の翼龍が作り出したものなのか。

 

 逃げ道を確保するために。

 

 そう考えると、背筋を冷たいものが走った。

 

 「……あれほどの威力の攻撃を、もう一度撃たれたら防ぎ切れないぞ。ミオ君も、今ので魔力も体力も相当削られているはずだ」

 

 呆然と穴を見つめていたソンジさんが、ゆっくりと現実へ引き戻されるように口を開く。

 

 努めて冷静を装っている。

 

 だが、その声には隠し切れない焦燥が滲んでいた。

 

 その通りだ。

 

 あんな攻撃をもう一発受ければ終わる。

 

 しかも、今のミオには――。

 

 「がはっ!?」

 

 「ッ!? ミオ!」

 

 嫌な予感は、最悪の形で的中した。

 

 ミオが突然激しく咳き込み、その場へ膝をつく。

 

 苦しそうに胸を押さえ、肩を大きく上下させながら呼吸を繰り返していた。

 

 乱気流の城壁を維持し続けた反動で、一気に魔力を消耗したのだろう。

 

 この状態でさらに魔法を使わせれば、本当に命に関わる。

 

 少しでも休ませなければならない。

 

 ――だが。

 

 「くっそ! あいつ、俺達のこと見下ろしてやがる! 降りてきやがれ、このこんちくしょー!!」

 

 ギリスケが空へ向かって怒鳴り散らす。

 

 銀鏡の翼龍は相変わらず高空を悠然と旋回し、自分達を見下ろしていた。

 

 挑発など意にも介さない。

 

 まるで獲物が力尽きるのを待つ猛獣のように、静かにこちらを観察している。

 

 連続であの一撃を放つ様子はない。

 

 だが、それも時間の問題だ。

 

 呼吸を整え、力を溜め終えれば、必ず二発目が来る。

 

 ミオは限界。

 

 時間だけが、容赦なく自分達を追い詰めていく。

 

 どうする。

 

 どうすれば、この状況を覆せる。

 

 「おのれ。ならば拙者が、その翼を斬り落として……」

 

 「待つんだ、マヒロ君! 空中戦では私達に勝ち目はない!」

 

 「安心せよ、ソンジ殿。空中戦ならば拙者も一度は制しておる。なんとかなる」

 

 『いや、あれは向こうのミスがあったからであって、また同じように上手くいくとは限らないよ』

 

 フィーの言葉に、自分も心の中で頷く。

 

 あの時は建物という足場があり、相手の判断ミスも重なった。

 

 今回は状況がまるで違う。

 

 壁を伝って近付いたとしても、奴が少し距離を取るだけで届かなくなる。

 

 同じ失敗を二度も犯すほど、あの怪物は甘くない。

 

 「では、どうするのでござる? サダメ、何か良い策はござらぬか?」

 

 「……」

 

 皆の視線が一斉に自分へ集まる。

 

 期待と焦り。

 

 その両方が痛いほど伝わってきた。

 

 考えろ。

 

 焦るな。

 

 相手は空。

 

 なら、無理に追う必要はない。

 

 どうにかして――。

 

 「……奴を地上へ引きずり下ろす。いや……こっちへ近付けさせる方法さえあれば……」

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