「う、ウソだろ……? まさか、さっきの攻撃で?」
眼前に広がるあまりにも凄惨な光景に、誰も言葉を失っていた。
ギリスケの声は震え、その顔からは血の気が引いている。
無理もない。
たった一撃。
それだけで、広大だった氷の大地は跡形もなく抉り取られてしまったのだから。
よく目を凝らせば、自分達が守られていた場所だけが辛うじて残り、その周囲は巨大な匙で削り取られたように消え失せている。
穴の規模は、上層から落ちてきたあの巨大な縦穴とほぼ同じ。
……まさか。
あの縦穴も、この銀鏡の翼龍が作り出したものなのか。
逃げ道を確保するために。
そう考えると、背筋を冷たいものが走った。
「……あれほどの威力の攻撃を、もう一度撃たれたら防ぎ切れないぞ。ミオ君も、今ので魔力も体力も相当削られているはずだ」
呆然と穴を見つめていたソンジさんが、ゆっくりと現実へ引き戻されるように口を開く。
努めて冷静を装っている。
だが、その声には隠し切れない焦燥が滲んでいた。
その通りだ。
あんな攻撃をもう一発受ければ終わる。
しかも、今のミオには――。
「がはっ!?」
「ッ!? ミオ!」
嫌な予感は、最悪の形で的中した。
ミオが突然激しく咳き込み、その場へ膝をつく。
苦しそうに胸を押さえ、肩を大きく上下させながら呼吸を繰り返していた。
乱気流の城壁を維持し続けた反動で、一気に魔力を消耗したのだろう。
この状態でさらに魔法を使わせれば、本当に命に関わる。
少しでも休ませなければならない。
――だが。
「くっそ! あいつ、俺達のこと見下ろしてやがる! 降りてきやがれ、このこんちくしょー!!」
ギリスケが空へ向かって怒鳴り散らす。
銀鏡の翼龍は相変わらず高空を悠然と旋回し、自分達を見下ろしていた。
挑発など意にも介さない。
まるで獲物が力尽きるのを待つ猛獣のように、静かにこちらを観察している。
連続であの一撃を放つ様子はない。
だが、それも時間の問題だ。
呼吸を整え、力を溜め終えれば、必ず二発目が来る。
ミオは限界。
時間だけが、容赦なく自分達を追い詰めていく。
どうする。
どうすれば、この状況を覆せる。
「おのれ。ならば拙者が、その翼を斬り落として……」
「待つんだ、マヒロ君! 空中戦では私達に勝ち目はない!」
「安心せよ、ソンジ殿。空中戦ならば拙者も一度は制しておる。なんとかなる」
『いや、あれは向こうのミスがあったからであって、また同じように上手くいくとは限らないよ』
フィーの言葉に、自分も心の中で頷く。
あの時は建物という足場があり、相手の判断ミスも重なった。
今回は状況がまるで違う。
壁を伝って近付いたとしても、奴が少し距離を取るだけで届かなくなる。
同じ失敗を二度も犯すほど、あの怪物は甘くない。
「では、どうするのでござる? サダメ、何か良い策はござらぬか?」
「……」
皆の視線が一斉に自分へ集まる。
期待と焦り。
その両方が痛いほど伝わってきた。
考えろ。
焦るな。
相手は空。
なら、無理に追う必要はない。
どうにかして――。
「……奴を地上へ引きずり下ろす。いや……こっちへ近付けさせる方法さえあれば……」