「鳥かご!?」
思わず素っ頓狂な声が漏れた。
鳥を飛べなくするなら鳥かごに入れる。
理屈としては間違っていない。
……いや、待て。
あんな巨大な翼龍を閉じ込められる鳥かごなんて、この世のどこに存在するんだ。
そんなものがあるなら、とっくに伝説なんて呼ばれていない。
ライラック先生の使い魔ですら、あんな巨大な檻で飼われているわけではないはずだ。
どう考えても現実味がない。
俺が本気で首を傾げていると、ソンジさんは呆れたように苦笑した。
「結界で閉じ込めるんだよ」
「……ああ」
その一言でようやく腑に落ちた。
なるほど。
鳥かごというのは、あくまで比喩だったのか。
本気で巨大な鳥かごを想像していた自分が、少しだけ恥ずかしくなる。
ソンジさんは腰のポーチから小さな魔道具を取り出し、指先で軽く弄びながら説明を続けた。
「私の結界魔道具なら、離れた場所にも結界を展開できる。それに、さっき話した通り弾力性も持たせてあるから、簡単には壊されない」
一瞬だけ希望が見えた。
だが、その希望は続く言葉であっさり打ち砕かれる。
「もっとも、相手は伝説の龍だけどね。持って数秒ってところかな」
肩をすくめながら苦笑するソンジさん。
その笑みは冗談ではない。
無理だと理解したうえで、それでも口にしている笑いだった。
「ちなみに、さっきの攻撃で一個壊されちゃってさ。残りはあと一つ」
そう言って魔道具を軽く持ち上げる。
「つまり、一回きりの勝負ってわけ」
「……」
胸の奥が重く沈んだ。
結界で銀鏡の翼龍を包み込み、翼の自由を奪う。
羽ばたけなければ揚力を失い、そのまま地面へ落下する。
理屈だけなら単純だ。
だが、相手は伝説として語り継がれる存在。
結界を力任せに叩き壊されれば、それで終わる。
数秒。
そのわずかな猶予しかない。
その間に奴を五十メートル以内まで引きずり下ろし、フィーの拘束魔法へ繋げなければならない。
少しでも判断が遅れれば失敗。
少しでも位置がずれれば失敗。
そして、その失敗は即ち――全滅だ。
しかも、結界魔道具は残り一つ。
やり直しは利かない。
成功か、全滅か。
許される結末は、そのどちらかしかなかった。
……もっとも。
何もしなければ、待っている結末も同じだ。
「一応、もう一つ案はあるんだけどね」
重苦しい空気を払うように、ソンジさんが人差し指を立てた。
「ロープを投げて奴の身体に引っ掛けて、そのまま全員で引きずり下ろす」
「いや……ロープを投げても、引っ掛からなきゃ意味ないですよね」
「そうなんだよ」
ソンジさんも苦笑する。
「輪っかを作って鱗か爪に引っ掛けられれば理想なんだけど……問題は、その『引っ掛ける』こと自体が至難の業なんだ」
確かに、その通りだった。
百メートル近い上空を飛び回る相手に向かってロープを投げるだけでも無茶だ。
そのうえ、狙った場所へ正確に引っ掛けるなど奇跡に等しい。
仮に奇跡的に成功したとしても、待っているのは伝説の龍との綱引きである。
人間が勝てる未来など、とても想像できなかった。
つまり、この案は最初から現実的ではない。
苦し紛れに絞り出した最後の悪あがき。
その程度の策だった。
となれば――。
賭けるしかない。
残された結界魔道具、その一度きりの勝負に。
失敗は許されない。
いや、許されるかどうかではない。
失敗した瞬間、全員の命が終わる。
静寂が落ちた。
誰も次の言葉を口にできない。
作戦はある。
だが、それを実行できる者がいない。
誰もがそう思っていた。
その時だった。
「……それなら、私がなんとかやってみせます」
静まり返った空気を震わせたのは、か細く、それでいて不思議なほど芯の通った声だった。
全員が一斉に振り返る。
そこに立っていたのは――ミオだった。