転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー66

 「鳥かご!?」

 

 思わず素っ頓狂な声が漏れた。

 

 鳥を飛べなくするなら鳥かごに入れる。

 

 理屈としては間違っていない。

 

 ……いや、待て。

 

 あんな巨大な翼龍を閉じ込められる鳥かごなんて、この世のどこに存在するんだ。

 

 そんなものがあるなら、とっくに伝説なんて呼ばれていない。

 

 ライラック先生の使い魔ですら、あんな巨大な檻で飼われているわけではないはずだ。

 

 どう考えても現実味がない。

 

 俺が本気で首を傾げていると、ソンジさんは呆れたように苦笑した。

 

 「結界で閉じ込めるんだよ」

 

 「……ああ」

 

 その一言でようやく腑に落ちた。

 

 なるほど。

 

 鳥かごというのは、あくまで比喩だったのか。

 

 本気で巨大な鳥かごを想像していた自分が、少しだけ恥ずかしくなる。

 

 ソンジさんは腰のポーチから小さな魔道具を取り出し、指先で軽く弄びながら説明を続けた。

 

 「私の結界魔道具なら、離れた場所にも結界を展開できる。それに、さっき話した通り弾力性も持たせてあるから、簡単には壊されない」

 

 一瞬だけ希望が見えた。

 

 だが、その希望は続く言葉であっさり打ち砕かれる。

 

 「もっとも、相手は伝説の龍だけどね。持って数秒ってところかな」

 

 肩をすくめながら苦笑するソンジさん。

 

 その笑みは冗談ではない。

 

 無理だと理解したうえで、それでも口にしている笑いだった。

 

 「ちなみに、さっきの攻撃で一個壊されちゃってさ。残りはあと一つ」

 

 そう言って魔道具を軽く持ち上げる。

 

 「つまり、一回きりの勝負ってわけ」

 

 「……」

 

 胸の奥が重く沈んだ。

 

 結界で銀鏡の翼龍を包み込み、翼の自由を奪う。

 

 羽ばたけなければ揚力を失い、そのまま地面へ落下する。

 

 理屈だけなら単純だ。

 

 だが、相手は伝説として語り継がれる存在。

 

 結界を力任せに叩き壊されれば、それで終わる。

 

 数秒。

 

 そのわずかな猶予しかない。

 

 その間に奴を五十メートル以内まで引きずり下ろし、フィーの拘束魔法へ繋げなければならない。

 

 少しでも判断が遅れれば失敗。

 

 少しでも位置がずれれば失敗。

 

 そして、その失敗は即ち――全滅だ。

 

 しかも、結界魔道具は残り一つ。

 

 やり直しは利かない。

 

 成功か、全滅か。

 

 許される結末は、そのどちらかしかなかった。

 

 ……もっとも。

 

 何もしなければ、待っている結末も同じだ。

 

 「一応、もう一つ案はあるんだけどね」

 

 重苦しい空気を払うように、ソンジさんが人差し指を立てた。

 

 「ロープを投げて奴の身体に引っ掛けて、そのまま全員で引きずり下ろす」

 

 「いや……ロープを投げても、引っ掛からなきゃ意味ないですよね」

 

 「そうなんだよ」

 

 ソンジさんも苦笑する。

 

 「輪っかを作って鱗か爪に引っ掛けられれば理想なんだけど……問題は、その『引っ掛ける』こと自体が至難の業なんだ」

 

 確かに、その通りだった。

 

 百メートル近い上空を飛び回る相手に向かってロープを投げるだけでも無茶だ。

 

 そのうえ、狙った場所へ正確に引っ掛けるなど奇跡に等しい。

 

 仮に奇跡的に成功したとしても、待っているのは伝説の龍との綱引きである。

 

 人間が勝てる未来など、とても想像できなかった。

 

 つまり、この案は最初から現実的ではない。

 

 苦し紛れに絞り出した最後の悪あがき。

 

 その程度の策だった。

 

 となれば――。

 

 賭けるしかない。

 

 残された結界魔道具、その一度きりの勝負に。

 

 失敗は許されない。

 

 いや、許されるかどうかではない。

 

 失敗した瞬間、全員の命が終わる。

 

 静寂が落ちた。

 

 誰も次の言葉を口にできない。

 

 作戦はある。

 

 だが、それを実行できる者がいない。

 

 誰もがそう思っていた。

 

 その時だった。

 

 「……それなら、私がなんとかやってみせます」

 

 静まり返った空気を震わせたのは、か細く、それでいて不思議なほど芯の通った声だった。

 

 全員が一斉に振り返る。

 

 そこに立っていたのは――ミオだった。

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