「なっ!? ミオ、お前……」
さっきまで横になっていたミオが、ゆっくりと上半身を起こす。
その顔色はまだ青白く、息遣いもどこか苦しそうだった。
どう見ても万全とは言えない。
これ以上無茶をさせられる状態ではないはずなのに――。
『無茶しちゃダメだよ、ミオ。少し休んでた方が……』
「ううん。大丈夫。思いっきり魔法を使うのは無理かもしれないけど、風でロープを引っ掛けるくらいなら、なんとかなるから」
「……ミオ」
彼女の考えは単純だった。
風魔法でロープを操り、銀鏡の翼龍へ引っ掛ける。
確かに風を自在に操れるミオだからこそ可能な芸当だ。
だが、問題はそこじゃない。
今の彼女に、その魔法を使う余力が本当に残っているのか。
皆が不安に思っていたのは、その一点だけだった。
ミオはそんな視線を受け止めながら、小さく微笑む。
「それに……ここで休んでたって、死んじゃったら意味ないもん。だったら最後までやれることをやりたい。皆で生きて帰りたいから」
「……」
返す言葉が見つからなかった。
ここで休ませたところで、全滅すれば何の意味もない。
彼女の言葉はあまりにも正論だった。
だからこそ、誰も否定できない。
「……わかった。だけど、無茶だけはするなよ」
「うん。ありがとう、サダメ」
苦渋の決断だった。
本当なら止めたい。
それでも今は、一人でも戦力が欲しい。
俺は祈るような気持ちで、ミオの参加を認めた。
「本当にいいのかい?」
ソンジさんが確認するように尋ねる。
「仕方ありません。時間もありませんし、この方法でいきましょう」
もう迷っている暇はない。
作戦はこうだ。
まず結界で翼龍を包み込み、一気に高度を落とす。
もし結界が破られそうなら、ミオが風魔法でロープを翼龍へ引っ掛ける。
そのまま強引に引きずり下ろし、高度五十メートルまで落ちたところでフィーの拘束魔法を叩き込む。
危険極まりないが、他に勝機はなかった。
となると、最後の問題は綱引きだ。
俺とマヒロは翼龍を倒す役目を担う以上、ここで体力を使い切るわけにはいかない。
そもそも、人間だけの力で伝説の龍と力比べをして勝てるとも思えなかった。
「綱引きなら私に任せときな。この魔道具があるからね」
そう言ってソンジさんがバッグから取り出したのは、釣りで使う電動リールを一回り大きくしたような道具だった。
「それは?」
「これは【
小さな装置を軽く叩きながら、ソンジさんは説明を続ける。
「もちろん、相手は伝説の龍だ。これだけで勝てるとは思ってない。でも、人力で引っ張るより何倍もマシなのは間違いない」
「なるほど……」
電動リールの魔道具版、といったところか。
どこまで通用するかは未知数だが、少なくとも人の力だけに頼るよりは遥かに希望がある。
綱引きの問題は、これでひとまず解決と言っていいだろう。
「これを二つ使う。片方をここ、もう片方を向こう側に設置して、翼龍の両足を狙うんだ」
ソンジさんは向かい側を指差した。
「片足だけじゃ振りほどかれるかもしれないからね。保険でもう一本欲しい。そこで――君の力を借りたい」
「……え? 俺?」
二台ある巻き取り機を左右から作動させるというわけか。
だが、向こう側へ行くには中央の巨大な穴を飛び越えなければならない。
俺とマヒロは戦闘に備えなければならず、その役目は務まらない。
しかも、設置した後も装置が動かないよう見張る必要がある。
氷の床では滑って位置がずれたり、最悪の場合は穴へ落ちたりする危険もあった。
だからこそ、その役目を任せられる者は限られている。
ソンジさんが視線を向けた先にいたのは――ギリスケだった。