転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー67

 「なっ!? ミオ、お前……」

 

 さっきまで横になっていたミオが、ゆっくりと上半身を起こす。

 

 その顔色はまだ青白く、息遣いもどこか苦しそうだった。

 

 どう見ても万全とは言えない。

 

 これ以上無茶をさせられる状態ではないはずなのに――。

 

 『無茶しちゃダメだよ、ミオ。少し休んでた方が……』

 

 「ううん。大丈夫。思いっきり魔法を使うのは無理かもしれないけど、風でロープを引っ掛けるくらいなら、なんとかなるから」

 

 「……ミオ」

 

 彼女の考えは単純だった。

 

 風魔法でロープを操り、銀鏡の翼龍へ引っ掛ける。

 

 確かに風を自在に操れるミオだからこそ可能な芸当だ。

 

 だが、問題はそこじゃない。

 

 今の彼女に、その魔法を使う余力が本当に残っているのか。

 

 皆が不安に思っていたのは、その一点だけだった。

 

 ミオはそんな視線を受け止めながら、小さく微笑む。

 

 「それに……ここで休んでたって、死んじゃったら意味ないもん。だったら最後までやれることをやりたい。皆で生きて帰りたいから」

 

 「……」

 

 返す言葉が見つからなかった。

 

 ここで休ませたところで、全滅すれば何の意味もない。

 

 彼女の言葉はあまりにも正論だった。

 

 だからこそ、誰も否定できない。

 

 「……わかった。だけど、無茶だけはするなよ」

 

 「うん。ありがとう、サダメ」

 

 苦渋の決断だった。

 

 本当なら止めたい。

 

 それでも今は、一人でも戦力が欲しい。

 

 俺は祈るような気持ちで、ミオの参加を認めた。

 

 「本当にいいのかい?」

 

 ソンジさんが確認するように尋ねる。

 

 「仕方ありません。時間もありませんし、この方法でいきましょう」

 

 もう迷っている暇はない。

 

 作戦はこうだ。

 

 まず結界で翼龍を包み込み、一気に高度を落とす。

 

 もし結界が破られそうなら、ミオが風魔法でロープを翼龍へ引っ掛ける。

 

 そのまま強引に引きずり下ろし、高度五十メートルまで落ちたところでフィーの拘束魔法を叩き込む。

 

 危険極まりないが、他に勝機はなかった。

 

 となると、最後の問題は綱引きだ。

 

 俺とマヒロは翼龍を倒す役目を担う以上、ここで体力を使い切るわけにはいかない。

 

 そもそも、人間だけの力で伝説の龍と力比べをして勝てるとも思えなかった。

 

 「綱引きなら私に任せときな。この魔道具があるからね」

 

 そう言ってソンジさんがバッグから取り出したのは、釣りで使う電動リールを一回り大きくしたような道具だった。

 

 「それは?」

 

 「これは【自動巻き取り機(オート・ロール)】。縄やワイヤーを自動で巻き取る魔道具さ。頑丈だし、巻き上げる力だけなら一般男性の数倍はある。このスイッチを押せば、あとは勝手に引っ張り続けてくれる」

 

 小さな装置を軽く叩きながら、ソンジさんは説明を続ける。

 

 「もちろん、相手は伝説の龍だ。これだけで勝てるとは思ってない。でも、人力で引っ張るより何倍もマシなのは間違いない」

 

 「なるほど……」

 

 電動リールの魔道具版、といったところか。

 

 どこまで通用するかは未知数だが、少なくとも人の力だけに頼るよりは遥かに希望がある。

 

 綱引きの問題は、これでひとまず解決と言っていいだろう。

 

 「これを二つ使う。片方をここ、もう片方を向こう側に設置して、翼龍の両足を狙うんだ」

 

 ソンジさんは向かい側を指差した。

 

 「片足だけじゃ振りほどかれるかもしれないからね。保険でもう一本欲しい。そこで――君の力を借りたい」

 

 「……え? 俺?」

 

 二台ある巻き取り機を左右から作動させるというわけか。

 

 だが、向こう側へ行くには中央の巨大な穴を飛び越えなければならない。

 

 俺とマヒロは戦闘に備えなければならず、その役目は務まらない。

 

 しかも、設置した後も装置が動かないよう見張る必要がある。

 

 氷の床では滑って位置がずれたり、最悪の場合は穴へ落ちたりする危険もあった。

 

 だからこそ、その役目を任せられる者は限られている。

 

 ソンジさんが視線を向けた先にいたのは――ギリスケだった。

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