「そうだ、ギリスケ君。頼めるのは現状、君しかいないんだ」
「え? え?? えぇぇぇっ!?」
ソンジさんに真っ直ぐ指を差され、ギリスケは目を丸くした。
口をぱくぱくと開閉させ、完全に思考が追いついていない。
まあ、無理もない。
まさか自分が指名されるとは夢にも思っていなかっただろう。
だが、現実問題として他に適任はいなかった。
ソンジさんはもう一台の巻き取り機を設置しなければならない。
ミオは満身創痍。
フィーは拘束魔法に集中する必要がある。
俺とマヒロは翼龍を仕留める役目を担う以上、その場を離れるわけにはいかない。
消去法で考えれば、残るのはギリスケだけだった。
「いやいやいや!? 無理無理無理!! 俺があそこまで行くなんて、とてもじゃないができっこねーよ! 自慢じゃないけど、運動神経は良くて中の下なんだぜ!?」
「うん。それは知ってる」
「知ってるんかい!?」
即答だった。
ギリスケは頭を抱え、大げさな身振りで抗議する。
突然こんな大役を任されれば拒否したくなる気持ちも分かる。
実際、ギリスケは運動神経が抜群というわけでもなければ、魔法が得意という印象もない。
俺ですら、こいつが何を得意としているのか未だによく分かっていないくらいだ。
任務中も隙あらば昼寝をし、気付けば要領よくサボっている。
ある意味才能ではあるが、今この場で役立つ才能ではない。
そんな男に重要任務を任せることになるとは、誰も予想していなかった。
だからこそ、その場の全員がどこか不安そうな顔をしている。
とはいえ、他に選択肢はない。
本人が嫌がろうと、この役目を果たせるのはギリスケしかいなかった。
『こういうときって、いつも「俺に任せとけよな、子猫ちゃんたち。俺が華麗に助けてやるぜ!」とか言うくせに?』
「フィーちゃん、俺ってそんなふうに見られてんの?」
「いや、実際それっぽいこと言ってるだろ、お前」
フィーが妙に芝居がかった口調でギリスケの物真似を披露する。
似ているような、似ていないような絶妙な出来だった。
それでもギリスケ本人には十分効いたらしく、肩を落として項垂れた。
多少盛っている気もしなくはないが、普段の言動を思い返せば、あながち間違いとも言えない。
もっとも――。
いつもなら軽口を叩いて笑わせるギリスケも、今だけは違った。
相手は伝説の龍。
失敗すれば命はない。
さすがのこいつにも、冗談を飛ばす余裕までは残っていないらしい。
「いやいやいや!? 本当に無理なんだって俺なんかじゃ! 誰か代わってくれよぉ!」
「代われって言われてもな……」
俺は頭をかいた。
「ソンジさんは指揮を執らなきゃいけないし、俺とマヒロは一緒に動く必要がある。ミオは満足に動けないし、フィーは拘束魔法の準備がある。だから、お前以外に動ける奴がいないんだ」
理屈は分かっている。
だからこそ説得しようとしているのだが、本人は首を横に振るばかりだった。
困った。
ミオが命懸けの覚悟を見せてくれたというのに、このままでは作戦そのものが立ち行かなくなる。
重苦しい沈黙が流れる。
誰も決定打を口にできない。
その時だった。
「……仕方ない」
ぽつりと呟いたのはソンジさんだった。
「ソンジさん?」
その表情には、どこか覚悟を決めたような色が浮かんでいる。
まさか、まだ何か秘策でもあるのか――。
全員の視線がソンジさんへ集まる。
そして彼女は胸を張り、高らかに宣言した。
「この作戦に協力してくれたら――一つだけ、『どんなお願いでも聞いて』あげようじゃないか!!」