転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー69

 「……は?」

 

 ソンジさんの一言に、その場の全員が固まった。

 

 今、この人――。

 

 『どんなお願いでも』って言ったよな?

 

 一瞬、耳を疑った。

 

 「ちょ、ちょちょちょっ!?」

 

 我に返るなり、俺は慌ててソンジさんへ駆け寄る。

 

 さすがに今の発言は聞き流せない。

 

 「ソンジさん……今の意味、ちゃんと分かって言ってます?」

 

 ギリスケに聞こえないよう声を潜め、耳元で問いかける。

 

 『何でも言うことを聞く』程度なら勢いで済む。

 

 だが、『どんなお願いでも』となれば話は別だ。

 

 その言葉には、どうしたって妙な含みが生まれてしまう。

 

 「ああ、もちろん分かってるよ」

 

 ソンジさんはあっさり頷いた。

 

 「彼に本気を出してもらうには、それくらいの餌が必要だからね」

 

 「なっ……!?」

 

 理解した上で言っているのか。

 

 俺は思わず言葉を失った。

 

 ギリスケを動かすためとはいえ、そこまで腹を括る必要があるのか。

 

 「本当にいいんですか? あいつですよ? 絶対エロいこと要求しますよ? むしろ、その権利を手に入れるために全力を出すと思いますけど」

 

 念のため、はっきりと言葉にする。

 

 遠回しに言っても意味はない。

 

 ギリスケの性格を考えれば、答えは見えている。

 

 恐る恐る本人へ目を向けると――。

 

 案の定だった。

 

 ギリスケは目を爛々と輝かせ、ソンジさんを食い入るように見つめている。

 

 ……あいつ。

 

 絶対ろくでもないこと考えてる。

 

 さっきまで「無理!」と叫んでいた男とは思えないほど、生気に満ちた顔だった。

 

 だからこそ俺は、この発言を撤回してほしかった。

 

 このままでは、本当にソンジさんの身が危ない。

 

 「……うん。覚悟はできてるさ」

 

 一瞬だけ真面目な表情を見せたソンジさんだったが――。

 

 次の瞬間には、いつもの調子に戻っていた。

 

 「けどぉ~? その前にぃ~? キミがワタシの初めてをもらってくれると、ウレシーんだけどなぁ~?」

 

 甘ったるい声。

 

 とろんとした上目遣い。

 

 完全に人をからかう時のソンジさんだった。

 

 「いや、ふざけてる場合じゃないでしょ。それに、それじゃ結局あんまり変わらないですから」

 

 「……さらっと酷いこと言うよね、君って」

 

 頬を膨らませるソンジさん。

 

 どうやら本人は、この状況でも危機感より悪ふざけが勝っているらしい。

 

 なんだろう。

 

 真面目に心配している自分が、急に馬鹿らしく思えてきた。

 

 俺が相手だろうとギリスケが相手だろうと、「初めて」を差し出すという意味では何も変わらない。

 

 そこを軽口で済ませられる神経は、ある意味大したものだった。

 

 ソンジさんは小さく笑うと、表情を引き締める。

 

 「まっ、なるようになるさ」

 

 その一言には、不思議と迷いがなかった。

 

 「今は彼の力がどうしても必要なんだ。私一人の代償で、みんなが助かるなら安いものだよ」

 

 「……」

 

 軽口の奥にある本音が、その言葉で伝わってきた。

 

 彼女は最初から覚悟を決めている。

 

 自分がどうなろうと、この場の全員を生かすためなら構わない。

 

 だからこそ、冗談を交えながらでも、この提案を撤回するつもりはないのだろう。

 

 結局、作戦はそのまま決まった。

 

 ギリスケが協力する条件は――ソンジさんが『どんなお願いでも一つだけ聞く』こと。

 

 ……本当に、大丈夫なんだろうか。

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