転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー71

 「ギリスケくーん! 準備はできたかーい?」

 

 「オッケーっす!!」

 

 数分後。

 

 反対側から元気な返事が返ってくる。

 

 ギリスケの準備が整ったことを確認すると、ソンジさんは静かにこちらへ目配せした。

 

 ――作戦開始。

 

 その合図だった。

 

 「マヒロ」

 

 「うむ」

 

 俺が名を呼ぶより早く、マヒロはすでに動いていた。

 

 右手には、ソンジさんから託された結界魔道具。

 

 狙いを定めると、一切の迷いなく腕を振り抜く。

 

 「はあっ!!」

 

 魔道具は一直線に空を裂いた。

 

 その軌道はまるで熟練の投手が放つ剛速球。

 

 寸分の狂いもなく銀鏡の翼龍へ迫り――。

 

 カンッ!!

 

 額へ正確に命中した。

 

 「よし! 今だ!」

 

 ソンジさんの声が飛ぶ。

 

 次の瞬間、魔道具が眩く輝いた。

 

 透明な膜が一気に広がり、一秒も経たないうちに巨大な球状の結界を形成する。

 

 銀鏡の翼龍の巨体は、そのまま丸ごと閉じ込められた。

 

 ――――――――――!?

 

 突然の出来事に翼龍は明らかに狼狽していた。

 

 暴れようにも、身体にぴたりと沿う狭い空間では思うように翼を広げられない。

 

 巨体をねじり、首を振り、苦しげな咆哮を上げながら力任せに脱出を試みる。

 

 だが、弾力を持った結界は容易には砕けない。

 

 そのまま巨大な球体は重力に引かれ、ゆっくりと高度を落とし始めた。

 

 順調だ。

 

 作戦は、予定通り進んでいる。

 

 スゥゥゥゥゥ……

 

 「……ッ!?」

 

 だが、その安堵は長く続かなかった。

 

 落下を始めて三秒ほど。

 

 透明だった結界の内側が、一瞬で白く染まった。

 

 まるで濃霧が一気に充満したかのように、翼龍の姿が見えなくなる。

 

 ――まさか。

 

 結界の中を、凍らせたのか!?

 

 ――――――――――!!!!!

 

 バキッ!!

 

 嫌な音が響いた。

 

 白く染まった球体の表面に、一本の亀裂が走る。

 

 その一本を皮切りに、無数のひび割れが蜘蛛の巣のように広がり――。

 

 パリンッ!!

 

 結界は粉々に砕け散った。

 

 「くっ……!」

 

 力任せでは破れない。

 

 だから内部ごと凍結させ、弾力を失わせて砕いたのか。

 

 まさか、こんな突破方法を選ぶとは。

 

 ただ暴れるだけの魔物ではない。

 

 状況を瞬時に判断し、最適解を導き出すだけの知性を持っている。

 

 さすがは伝説と語り継がれる存在。

 

 生半可な相手ではなかった。

 

 ――――――

 

 結界を破った銀鏡の翼龍は、その巨大な翼を広げる。

 

 氷片を撒き散らしながら低く唸り、その黄金色の瞳が真っ直ぐこちらを射抜いた。

 

 先ほどまでの余裕は消えている。

 

 今の一撃で、自分たちを完全な敵と認識したのだろう。

 

 その眼差しには、隠そうともしない怒りが宿っていた。

 

 「ソンジさん!」

 

 それでも、収穫はあった。

 

 三秒。

 

 たったそれだけの時間だったが、翼龍はおよそ三十メートルほど高度を落としている。

 

 まだフィーの拘束魔法が届く距離ではない。

 

 だが、確実に地上へ近づいた。

 

 この好機を逃すわけにはいかない。

 

 俺はすぐさまソンジさんへ視線を送り、次の作戦へ移る合図を飛ばした。

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