転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー75

 「ッ!?」

 

 その言葉を聞いた瞬間。

 

 ようやく理解した。

 

 マヒロが何をしようとしているのか。

 

 彼女の作戦は――。

 

 【赤鬼】によって強化された魔妖を、巨大な跳躍台として利用する。

 

 そして、その上に俺が乗る。

 

 マヒロが魔妖を持ち上げた瞬間、その勢いを利用して――。

 

 俺自身を、銀鏡の翼龍のいる場所まで飛ばす。

 

 つまり。

 

 「……お前、俺をあそこまで投げ飛ばすつもりか?」

 

 「投げるというより……飛ばす、でござるな」

 

 どっちでもいい。

 

 やっていることは同じだ。

 

 「流石に一町――約百メートルまでは飛ばせぬが」

 

 マヒロは空を見上げる。

 

 「二十三丈ほど――だいたい七十メートルであれば、なんとかイケる気がするでござる」

 

 「……」

 

 なんとか。

 

 イケる気がする。

 

 なんとも不安になる言葉だった。

 

 果たしてそれは、これまでの経験に基づいた判断なのか。

 

 それとも単なる勘なのか。

 

 おそらく――後者だろう。

 

 なにせ本人が「気がする」と言っている。

 

 しかし、そんな俺の不安などお構いなしに、当のマヒロはすでに準備を終えていた。

 

 「ほれ。あまり猶予はござらん。急がねば」

 

 魔妖を地面へ斜めに突き刺す。

 

 そして、柄を両手でしっかりと握り締め、いつでも持ち上げられるよう身構えていた。

 

 完全に準備万端だ。

 

 ……本当にこれで飛ぶのか?

 

 正直、不安しかない。

 

 だが――。

 

 今はそんなことを考えている余裕すらなかった。

 

 ソンジさんたちは限界。

 

 ロープもいつ切れるか分からない。

 

 銀鏡の翼龍は今にも拘束を振りほどこうとしている。

 

 ここで動かなければ、次のチャンスは二度と来ない。

 

 「……ソンジさん」

 

 俺は覚悟を決め、彼女へ声を掛ける。

 

 「な、なんだい!?」

 

 返事だけが返ってきた。

 

 振り返る余裕すらないのだろう。

 

 ソンジさんは息を切らしながら、必死にロープを握り続けている。

 

 どうやら俺達の作戦は、まだ伝わっていないらしい。

 

 「もう少しだけ、耐えてください」

 

 「はあ……はあ……わ、分かった……!」

 

 苦しそうに息を吐きながら、それでもソンジさんは頷いた。

 

 「何を考えてるのかは……分かんないけど……なるべく早く……してくれよ……? こっちも……そう長くは持ちそうに……ない、から……!」

 

 その言葉が、今の状況を何よりも正確に表していた。

 

 ロープは限界。

 

 ソンジさんも限界。

 

 ギリスケも限界。

 

 そして、俺達に残された時間も――もうほとんどない。

 

 「マヒロ!」

 

 俺は魔妖へ向き直る。

 

 「頼む!」

 

 「うむ!」

 

 迷っている暇はない。

 

 俺は魔妖の刃へ足を乗せた。

 

 横向きにしているとはいえ、足場はあまりにも狭い。

 

 片足を乗せるだけで、つま先が少しはみ出してしまうほどだ。

 

 ……本当に大丈夫か、これ。

 

 五十キロ程度の人間を飛ばすには、あまりにも頼りない足場に思える。

 

 そもそも、刀をジャンプ台にするという発想自体がどうかしている。

 

 だが――。

 

 「スゥゥゥゥゥッ……!」

 

 俺の不安をよそに、マヒロは静かに息を吸い込んだ。

 

 大きく。

 

 深く。

 

 肺いっぱいに空気を取り込む。

 

 そして――。

 

 「ハアアアアアアアアア……ッ!」

 

 次の瞬間。

 

 マヒロが両手に力を込めた。

 

 魔妖が、僅かに震える。

 

 「……ッ!」

 

 ギリッ。

 

 彼女の足元の氷が軋んだ。

 

 その全身に赤い魔力が渦巻く。

 

 【赤鬼】によって強化された身体能力が、凄まじい勢いで解放されていく。

 

 「アアアアアアアアアア゛ッ!!!」

 

 雄叫びとともに、マヒロが魔妖を持ち上げた。

 

 ズズズズズッ……!!

 

 「う、嘘だろ……!?」

 

 魔妖が動く。

 

 持ち上がっていく。

 

 まさか――。

 

 本当に俺ごと持ち上げやがった!?

 

 「いっっっっっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

 

 ドンッ!!!

 

 凄まじい衝撃が全身を貫いた。

 

 次の瞬間。

 

 俺の身体は、まるで大砲から撃ち出された砲弾のように――。

 

 一直線に。

 

 銀鏡の翼龍が待つ七十メートル上空へと、勢いよく打ち上げられた。

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