「ッ!?」
その言葉を聞いた瞬間。
ようやく理解した。
マヒロが何をしようとしているのか。
彼女の作戦は――。
【赤鬼】によって強化された魔妖を、巨大な跳躍台として利用する。
そして、その上に俺が乗る。
マヒロが魔妖を持ち上げた瞬間、その勢いを利用して――。
俺自身を、銀鏡の翼龍のいる場所まで飛ばす。
つまり。
「……お前、俺をあそこまで投げ飛ばすつもりか?」
「投げるというより……飛ばす、でござるな」
どっちでもいい。
やっていることは同じだ。
「流石に一町――約百メートルまでは飛ばせぬが」
マヒロは空を見上げる。
「二十三丈ほど――だいたい七十メートルであれば、なんとかイケる気がするでござる」
「……」
なんとか。
イケる気がする。
なんとも不安になる言葉だった。
果たしてそれは、これまでの経験に基づいた判断なのか。
それとも単なる勘なのか。
おそらく――後者だろう。
なにせ本人が「気がする」と言っている。
しかし、そんな俺の不安などお構いなしに、当のマヒロはすでに準備を終えていた。
「ほれ。あまり猶予はござらん。急がねば」
魔妖を地面へ斜めに突き刺す。
そして、柄を両手でしっかりと握り締め、いつでも持ち上げられるよう身構えていた。
完全に準備万端だ。
……本当にこれで飛ぶのか?
正直、不安しかない。
だが――。
今はそんなことを考えている余裕すらなかった。
ソンジさんたちは限界。
ロープもいつ切れるか分からない。
銀鏡の翼龍は今にも拘束を振りほどこうとしている。
ここで動かなければ、次のチャンスは二度と来ない。
「……ソンジさん」
俺は覚悟を決め、彼女へ声を掛ける。
「な、なんだい!?」
返事だけが返ってきた。
振り返る余裕すらないのだろう。
ソンジさんは息を切らしながら、必死にロープを握り続けている。
どうやら俺達の作戦は、まだ伝わっていないらしい。
「もう少しだけ、耐えてください」
「はあ……はあ……わ、分かった……!」
苦しそうに息を吐きながら、それでもソンジさんは頷いた。
「何を考えてるのかは……分かんないけど……なるべく早く……してくれよ……? こっちも……そう長くは持ちそうに……ない、から……!」
その言葉が、今の状況を何よりも正確に表していた。
ロープは限界。
ソンジさんも限界。
ギリスケも限界。
そして、俺達に残された時間も――もうほとんどない。
「マヒロ!」
俺は魔妖へ向き直る。
「頼む!」
「うむ!」
迷っている暇はない。
俺は魔妖の刃へ足を乗せた。
横向きにしているとはいえ、足場はあまりにも狭い。
片足を乗せるだけで、つま先が少しはみ出してしまうほどだ。
……本当に大丈夫か、これ。
五十キロ程度の人間を飛ばすには、あまりにも頼りない足場に思える。
そもそも、刀をジャンプ台にするという発想自体がどうかしている。
だが――。
「スゥゥゥゥゥッ……!」
俺の不安をよそに、マヒロは静かに息を吸い込んだ。
大きく。
深く。
肺いっぱいに空気を取り込む。
そして――。
「ハアアアアアアアアア……ッ!」
次の瞬間。
マヒロが両手に力を込めた。
魔妖が、僅かに震える。
「……ッ!」
ギリッ。
彼女の足元の氷が軋んだ。
その全身に赤い魔力が渦巻く。
【赤鬼】によって強化された身体能力が、凄まじい勢いで解放されていく。
「アアアアアアアアアア゛ッ!!!」
雄叫びとともに、マヒロが魔妖を持ち上げた。
ズズズズズッ……!!
「う、嘘だろ……!?」
魔妖が動く。
持ち上がっていく。
まさか――。
本当に俺ごと持ち上げやがった!?
「いっっっっっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
ドンッ!!!
凄まじい衝撃が全身を貫いた。
次の瞬間。
俺の身体は、まるで大砲から撃ち出された砲弾のように――。
一直線に。
銀鏡の翼龍が待つ七十メートル上空へと、勢いよく打ち上げられた。