転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー81

 「ッ!? マヒロ、その技は……」

 

 マヒロが魔妖を抜き放った、その瞬間。

 

 いつもとは明らかに異なる異変を目の当たりにし、思わず息を呑んだ。

 

 これまで、彼女が能力を発動するたびに見せてきた変化は単純だった。

 

 赤鬼なら、燃え立つような深紅。

 水龍なら、澄み渡るような蒼。

 

 髪も瞳も、使用する力に応じて、どちらか一色に染まる――それが、これまでの常識だったはずだ。

 

 だが、今は違う。

 

 右側の髪と瞳は、灼熱を思わせる深紅。

 対して左側は、凍てつく氷水のような蒼。

 

 まるで身体の中心線を境に、二つの異なる存在が同時に宿っているかのように、彼女の姿は赤と青の二色に染め上げられていた。

 

 そして、その瞳もまた――完全なオッドアイへと変貌している。

 

 ――まさか。

 

 赤鬼と水龍。

 

 その二つの力を、同時に発動している……!?

 

 「驚くのは、まだ早いでござるよ」

 

 平然とした声音。

 

 だが、その奥には隠しきれない昂揚が滲んでいた。

 

 マヒロ自身も、この力の先に何が待っているのか――確かめることを楽しんでいるようにすら見える。

 

 「なっ!?」

 

 しかし、驚愕させられたのは、それだけではなかった。

 

 次の瞬間、視界に飛び込んできたものを見て、俺は完全に言葉を失った。

 

 魔妖。

 

 その刀身が――まるで別物へと変貌していたのだ。

 

 水龍の力によって生み出される水の刃。

 

 それが、ただの水とは思えないほど極限まで凝縮され、まるで鋼鉄そのもののような異様な硬度を帯びている。

 

 さらに、そこへ赤鬼の力が上乗せされたのか。

 

 刃は通常の倍以上にまで伸長し、その姿はもはや刀というより、大太刀と呼ぶべき威容を誇っていた。

 

 水龍による圧倒的なリーチ。

 

 そして、赤鬼がもたらす膂力と身体能力の強化。

 

 それら二つの力が重なり合うことで、魔妖はこれまでとは比較にならないほど強固で、強大な刃へと変貌を遂げている。

 

 ……掛け合わせると、こうなるのか。

 

 さっきの話を聞く限り、マヒロ自身もここまでの変化は想定していなかったはずだ。

 

 というか、間違いなく本人にとっても初めての経験だろう。

 

 それなのに――

 

 「これで拙者は、頭部を狙うでござる。サダメは、背中――もしくは翼の部分を頼み申す」

 

 迷いは、微塵もなかった。

 

 「……ああ、分かった」

 

 一瞬遅れて、俺も頷く。

 

 背中を狙うのも悪くはない。

 

 だが、より確実にダメージを通すのであれば、狙うべきは背中よりも、明らかに脆そうな翼だ。

 

 なにより――飛行能力を奪うことができれば、あの巨体はもはや逃げ場を失う。

 

 狙うのは――俺から見て最も近い、右の翼。

 

 「まいるでござるよ、サダメ!」

 

 「おう!!」

 

 互いに視線を交わし、短く気合を入れる。

 

 役割は決まった。

 

 あとは――やるだけだ。

 

 マヒロは魔妖を頭上へと掲げ、両手でしっかりと構える。

 

 俺もまた、両腕を大きく振りかぶった。

 

 ここが正念場だ。

 

 これが――最後の一撃になる。

 

 頼む。

 

 もう少しだけでいい。

 

 耐えてくれよ、俺の腕……!

 

 「火《か》の球《きゅう》として、両腕に聚合《しゅうごう》し、眼前に移りし標的に、双炎の爆撃を与えん」

 

 再び、詠唱を開始する。

 

 両腕へと魔力を集中させながら、さきほどの攻撃で残った痺れを、無理やり意識の外へと追いやっていく。

 

 痛い。

 

 痺れる。

 

 もう限界に近い。

 

 それでも――ここで止まるわけにはいかない。

 

 目の前には、今もなお銀鏡の翼龍がいる。

 

 こいつを倒すために、俺たちはここまで来た。

 

 ならば――

 

 この一撃に、全部を懸ける。

 

 「鬼龍一刀流、奥義」

 

 隣では、マヒロが静かに口を開いた。

 

 その声を聞いた瞬間。

 

 全身に、ぞくりとした感覚が走る。

 

 奥義。

 

 つまり、マヒロもまた――この一撃に全てを懸けるつもりなのだ。

 

 ―――――!?

 

 「【火球《フレール》・双爆拳《ブラスト》】ォォォ!!!」

 「【打天《だてん》】」

 

 二人の声が――完全に重なった。

 

 次の瞬間。

 

 俺の構えた両拳と、マヒロが振りかぶった魔妖が、銀鏡の翼龍へ向かって一気に振り下ろされる。

 

 灼熱の炎と、凝縮された水の刃。

 

 赤鬼と水龍。

 

 二つの異なる力が、同時に銀鏡の翼龍へと迫っていく。

 

 狙うのは――頭部と右翼。

 

 互いに異なる場所を狙いながらも、その目的は一つ。

 

 この化け物を――ここで終わらせる。

 

 「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」」

 

 二人の咆哮が轟く。

 

 そして――

 

 二つの力が、銀鏡の翼龍の巨体へと交差した。

 

 炎が爆ぜる。

 

 水の刃が唸る。

 

 拳が叩き込まれ、刀が振り抜かれる。

 

 これまで何度攻撃しても揺るがなかった銀鏡の翼龍の巨体が、初めて大きく仰け反った。

 

 ――いける。

 

 確かな手応えがあった。

 

 この一撃なら――届く。

 

 マヒロと俺。

 

 二人の力を合わせた、決着の一撃が――今、銀鏡の翼龍へと放たれた。

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