「「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」」
二人の雄叫びが重なった、その瞬間。
全身に残された力を――すべて解き放った。
俺は渾身の一撃を、狙い定めた銀鏡の翼龍の右翼へと叩き込む。
そしてマヒロは、巨大化した魔妖を両手で握り締め、迷いなく、その脳天へと振り下ろした。
――――――――――――――――――――ッ!?
次の瞬間。
確かな手応えが、拳を通して伝わってきた。
鈍い。
だが、それだけではない。
確実に何かを砕いたような、重く生々しい衝撃が、腕の奥へと突き抜けてくる。
「――――――――――――――――――――!!!」
やつが、はっきりと悲鳴を上げた。
効いている。
間違いない。
右翼を破壊する勢いで叩き込んだ渾身の打撃。
そして同時に、頭部へと振り下ろされたマヒロの一閃。
二方向から叩き込まれた重たい一撃が、銀鏡の翼龍の巨体を大きく揺さぶった。
――――――――――――――――――――!!!
巨体が傾く。
空中で翼をばたつかせるも、先ほどまでのような力強さはない。
いや。
そもそも――翼を動かせていない。
片翼を失ったことで、飛行能力そのものが大きく損なわれたのだ。
銀鏡の翼龍は、空中で完全に均衡を失っていた。
そして――
「――――――――――――――――――――――ッ!!!」
耐えきれなかったのだろう。
翼龍は再び絶叫を上げながら、その巨体を制御できないまま落下していく。
しかも――今回は頭からだ。
体勢を立て直す暇など、与えられていない。
片翼を失い、頭部へ強烈な一撃を受けた巨体は、そのまま重力に引きずり込まれるようにして、真っ逆さまに落ちていく。
……効いている。
間違いなく、今の攻撃は相当なダメージになっている。
これまで、何度攻撃してもほとんど揺らぐことすらなかった化け物が、今は俺たちの目の前で為す術もなく落下している。
「頼む……このまま、やられてくれ……」
思わず、そんな言葉が口から漏れた。
弱音なのか。
それとも、祈りなのか。
自分でも分からない。
ただ――本心だった。
もう、全員が限界だ。
ここまで来るために、どれだけの力を使った。
どれだけ傷ついた。
どれだけ命を削った。
俺だって、もう両腕が限界に近い。
マヒロだって、これまでの戦いで相当な消耗を強いられている。
他のみんなも同じだ。
これ以上、戦いを長引かせる余裕なんて、どこにもない。
だから――
もし、今の一撃で終わらせられるのなら。
これが、銀鏡の翼龍を殺すことのできる最初で最後のチャンスなのだ。
頼む。
頼むから――
これで、終わってくれ。
「――――――――――――――――――――――!?」
だが。
銀鏡の翼龍は――止まらなかった。
落下する。
ただひたすらに。
その巨体は、まるで底の見えない闇へと吸い込まれるように、下方へと落ち続けていく。
そして――
その先に待ち構えていたのは。
巨大な空洞だった。
「――――――――――――――――――――ッ!」
翼龍の巨体が、その巨大な口を開けたような空洞へと突入していく。
その瞬間。
「――――――――――――――――――――――ッ!!」
突入の勢いで、わずかに残っていた氷の地面へと翼が激突した。
凄まじい衝撃音が響き渡る。
「バキィィィィィンッ!!」
氷が砕け散った。
無数の破片が宙を舞い、銀鏡の翼龍の巨体と共に、深い闇の底へと吸い込まれていく。
――落ちた。
少なくとも、目的は果たした。
銀鏡の翼龍を、この巨大な空洞へ叩き落とす。
その一点においては――完璧だった。
問題は――ここからだ。
「……」
俺自身も、未だに落下を続けている。
視線だけは逸らさず、闇の底へと消えていった銀鏡の翼龍の行方を追い続けた。
このまま落下していけば、いずれは皆の元へ戻れるだろう。
もしかしたら――これで終わりなのかもしれない。
翼龍は、あのまま落下して死んだ。
俺たちは生き残った。
そう考えてもいい。
むしろ――そう考えたい。
だが。
「……サダメ」
隣から、マヒロの声が聞こえた。
「拙者たちも、このまま行くでござるよ」
「ッ!?」
思わず、マヒロの方へと視線を向ける。
その表情を見た瞬間。
俺は、すべてを察した。
彼女は――すでに覚悟を決めている。
逃げるつもりなど、微塵もない。
「はたして……あやつほどの存在が、これだけで終わると思うでござるか?」
その言葉に。
胸の奥が、ざわついた。
「……」
答えは――分かっていた。
あれほどの化け物が。
あれだけの攻撃を受けてもなお、俺たちを追い詰め続けた怪物が。
ただ落下した程度で死ぬ。
そんな都合のいい結末を――俺は信じられなかった。
「……思えぬ、でござろう」
マヒロが、静かに続ける。
「ならば――やつの息の根が止まるところを、しかと見届けるまで戦おう」
――そうだ。
俺も、心のどこかでは分かっていた。
銀鏡の翼龍は、まだ生きている。
あれだけの化け物を、ただ落としただけで終わらせられるはずがない。
もし、このまま引き返せば。
もし、あいつが生きていたら。
そして、再び地上へ戻ってきたら――。
その時。
今度こそ、取り返しのつかないことになるかもしれない。
中途半端に生き延びさせるくらいなら。
ここで逃げるくらいなら。
――俺たちの手で、確実に仕留めるしかない。
「……ああ」
短く答える。
そして、頷いた。
逃げない。
最後まで――付き合う。
銀鏡の翼龍を仕留めるというのなら。
その最期を、この目で見届ける。
そして――
自分たちの手で、確実に息の根を止める。
それが、ここまで死力を尽くして戦ってきた俺たちにできる――最後の仕事だ。
「行くぞ、マヒロ」
「承知したでござる、サダメ」
互いに視線を交わす。
その瞬間。
俺たちは、同時に身体を翻した。
眼下に広がるのは――底の見えない闇。
その先に、銀鏡の翼龍がいる。
まだ、生きている。
ならば――追う。
たとえ、この先に何が待ち受けていようとも。
逃げることはしない。
俺たちは銀鏡の翼龍を追い――そのまま、巨大な闇の口を開けた空洞へと突入していくのだった。