―――――?!
自分の放った【火球《フレール》】は、一筋の流星となって銀鏡の翼龍の口元へ一直線に突き進む。
翼龍が凍結のブレスを吐き出すよりも、ほんの一瞬――いや、刹那ほど早く。
灼熱の焔は、その牙の奥へと吸い込まれていった。
その瞬間。
思考が、わずかに過去へと跳ぶ。
昔話で語られていた勇者は、巨大な火球によって銀鏡の翼龍の口内を焼いたという。
どれほど巨大な火球だったのかは分からない。
だが、もし口に収まりきらないほどの大きさだったのなら。
火球は口元で炸裂し、その爆炎と熱が口腔の奥へ流れ込んだのだろう。
――ならば。
極限まで圧縮された火球が、そのまま口の奥深くへ到達したら。
外殻は、銀鏡の名にふさわしい異常な硬度を誇る。
だが、その内側まで同じ強度を保てる生物など、本当に存在するのか。
そんな考えが、脳裏をかすめた――その直後だった。
――――――――――――――――――――?!
「……ッ!?」
答えは、即座に示された。
火球は寸分違わず、銀鏡の翼龍の口腔深くへと到達する。
そして――。
腹の底へ響くような、鈍い爆発音。
その音は外ではなく、明らかに巨体の内部から響いていた。
同時に、翼龍の喉元や牙の隙間から、眩い灼光が一斉に溢れ出す。
まるで、その身体の内側に太陽が生まれたかのようだった。
次の瞬間。
――――――――――――――――――――――!!!!!
空洞全体を震わせる、凄絶な絶叫。
今までの咆哮とは比較にならない。
苦痛と絶望が入り混じった、断末魔そのものだった。
「……やっぱり、そうか」
思わず、声が漏れる。
予想は的中した。
どれほど堅牢な外殻を持とうとも。
内側までは守れない。
口内へ撃ち込まれた圧縮火球は、逃げ場を失った灼熱と衝撃を、そのまま巨体の内部へ叩き込んだのだ。
それは、外から何度攻撃しても届かなかった致命の一撃。
銀鏡の翼龍の命を刈り取る、決定打となっていた。
―――――――――――――――――――――――――?!
銀鏡の翼龍が激しく身をよじる。
喉を押さえるように首を振り回し、苦しげにのたうち回る。
やがて、その口から大量の赤黒い血が噴き出した。
鮮血は氷と岩の地面へ飛び散り、白銀の世界を無惨な赤へ染め上げていく。
その姿は、どこか滑稽だった。
何が起きたのか理解できず、ただ本能のまま痛みに抗っている。
伝説として語り継がれてきた絶対の存在が、初めて見せる無様な姿だった。
しかし――。
もう遅い。
もはや立ち上がる力は残されていなかった。
「……これで、終わりだ」
自然と、その言葉が口をついて出る。
銀鏡の翼龍の悲鳴は、次第に掠れていった。
絶叫は呻きへ。
呻きは呼吸音へ。
そして、ついには喉を震わせる音すら消えていく。
静かだった。
あれほど暴れ狂っていた巨体から、戦意が消えていく。
こちらを睨みつけていた黄金の双眸からも、ゆっくりと光が失われていく。
やがて。
巨大な首が、力なく前へ傾いた。
がくり、と。
最後の力が抜け落ちるように垂れ下がり、そのまま地面へと沈む。
――動かない。
もう、二度と。
空洞を満たしていた魔力の圧が、少しずつ薄れていく。
耳を塞ぎたくなるような咆哮も。
肌を刺すような殺気も。
すべてが、静寂の中へ溶けていった。
凍てついた空気だけが、その場に残される。
俺は、その光景をしばらく見つめ続けた。
信じたかった。
そして、信じ切れなかった。
あれほど圧倒的だった怪物が、本当に倒れたのか。
だが、どれだけ待っても。
銀鏡の翼龍は、もう二度と動かなかった。
そこでようやく実感する。
――終わった。
この死闘が。
この絶望的な戦いが。
長きにわたり恐れられ続けた伝説の魔物との戦いが。
すべて――終わったのだ。
銀鏡の翼龍との決着は、紛れもなく。
自分たちの勝利だった。