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内側から爆ぜた灼熱は、銀鏡の翼龍の内臓と血肉を容赦なく焼き尽くしていた。
砕けた臓腑から赤黒い血が溢れ、生命を支えていた魔力は急速に制御を失っていく。
全身を満たしていた力が、まるで砂時計の砂のように零れ落ちていく感覚。
その一つひとつが、己の命そのものだった。
――死。
その境地を味わうのは、実に久方ぶりだった。
だが、かつてとは決定的に違う。
あの時は、確信があった。
どれほど傷つこうと、自分は死なない。
そう疑うことすらなかった。
しかし、今は違う。
理解してしまった。
自分は、ここで終わる。
この命は、ここで尽きる。
そして――。
人類に、敗れた。
その事実を認めた瞬間。
薄れゆく意識の奥底から、堰を切ったように記憶が溢れ出した。
――遥か昔。
千年もの時を遡る。
ここから数千キロ離れた極寒の地。
吹雪に閉ざされた雪山の奥深く。
陽の光すら届かぬ、小さな洞穴。
そこが、銀鏡の翼龍の生まれた場所だった。
外界の音は届かない。
ただ濃密な魔力だけが満ちる、静寂の世界。
それこそが、彼にとっての揺籃であり、唯一の楽園だった。
彼は、その魔力を糧に育つ。
食事など必要なかった。
息をするように魔力を取り込み、その巨体は日を追うごとに膨れ上がっていく。
生まれて半年。
当初は広く感じていた洞穴も、もはや身体を収めきれなくなっていた。
岩壁は背に押され、天井は翼に擦られる。
狭い。
苦しい。
もっと広い場所へ行きたい。
そんな本能だけが、胸の内で膨らんでいった。
そして、それから半月ほどが過ぎた頃。
限界は訪れた。
巨体が洞穴を押し広げる。
耐え切れなくなった岩盤が砕け、轟音と共に山肌が崩れ落ちた。
雪崩が山を飲み込み、凍てついた白煙が空へ舞い上がる。
その中心から、一体の巨大な龍が姿を現した。
その瞬間こそが。
銀鏡の翼龍にとって、本当の意味での誕生だった。
初めて見る外の世界。
吹き荒れる雪嵐。
果てなく続く白銀の大地。
そして――。
無数の、小さな生き物。
二本の足で立ち、己とは比べものにならないほど小さな存在。
手には剣や槍を握り締め、何十、何百という数でこちらを見上げている。
――人類。
それが、彼と人類との最初の出会いだった。
彼らを見た瞬間、最初に抱いた感情は恐怖でも敵意でもない。
純粋な疑問だった。
――なんと弱そうな生き物だ。
武器は構えている。
だが、その表情には恐怖が張り付き、身体の震えは隠し切れていない。
それでも。
彼らは確かな殺意を向けていた。
直感する。
この者たちは、自分を殺そうとしている。
――弱いくせに、なぜだ。
理解できなかった。
だからこそ、興味が湧いた。
試してみよう。
自分と彼らとの力の差を。
生まれながらにして莫大な魔力を宿し、その巨大な身体を持つ彼にとって、それは遊戯にも等しい思いつきだった。
魔法という概念など知らない。
ただ、本能の赴くまま肺いっぱいに魔力を吸い込み、それを吐き出した。
その瞬間。
白き吐息が吹き荒れる。
凍てつく冷気は嵐となって大地を駆け抜け、周囲の木々を、岩を、建物を、すべて氷へと変えていく。
逃げ惑う人類も例外ではなかった。
悲鳴を上げる暇すらない。
次々と氷像へ変わり、その場に立ち尽くしたまま命を失っていった。
戦いは――ほんの数分で終わった。
圧倒的だった。
勝負と呼ぶことすら、おこがましい。
抵抗と呼べるほどの力もなく、人類はただ蹂躙されるだけだった。
静まり返った雪原を見下ろしながら。
彼は、自らの力を悟る。
自分は、圧倒的に強い。
この程度の存在では、誰一人として自分には届かない。
その胸に芽生えた感情は、歓喜でも優越でもなかった。
――失望。
あまりにも弱い。
あまりにも脆い。
これでは、力を試す相手にすらならない。
そう結論づけた彼は、静かに踵を返した。
生まれ育った雪山にも、もはや未練はなかった。
求めるものは、ただ一つ。
己の力をぶつけるに値する強者。
その存在を探し求め、銀鏡の翼龍は雪山を後にする。