転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ーおまけ2

 サダメたちが迷宮へ足を踏み入れてから、およそ一時間が経った頃。

 

 探索の途中で一息ついていた時のことだった。

 

 「そういえばソンジさんって、迷宮(ここ)の鉱石が欲しいとか言ってませんでしたっけ? 大丈夫なんですか?」

 

 休憩しながら、ふと思い出した疑問を口にする。

 

 今回の探索にソンジが同行している理由。

 

 それは、研究に必要な資源を確保するため――そう聞いていた。

 

 ところが、実際のところはどうだ。

 

 ここまでの一時間、ソンジはずっと地図を片手に先導しているだけ。

 

 壁を削る様子もなければ、鉱石を探して立ち止まることもない。

 

 寄り道すら一度もしていない。

 

 あまりにも効率的。

 

 いや、効率的すぎる。

 

 目的を考えれば、むしろ不自然なくらいだった。

 

 ――もしかして。

 

 素材集めというのは建前で、何か別の目的でもあるのか?

 

 そんな疑念が頭をよぎった。

 

 「ん?」

 

 ソンジが顔を上げる。

 

 少しだけ目を丸くした後、何かを思い出したように「ああ」と頷いた。

 

 「ああ、それなら問題ないよ。素材はバッチリ確保済みだから」

 

 「……は?」

 

 思わず間の抜けた声が出た。

 

 確保済み?

 

 いつ?

 

 どこで?

 

 自分が疑問符を大量に浮かべていると、ソンジは不思議そうに首を傾げる。

 

 「? どういうことですか?」

 

 そう尋ねた瞬間。

 

 待ってましたと言わんばかりに、ソンジの口角がニヤリと吊り上がった。

 

 「実はね、こっそりこれを使ってたんだ」

 

 そう言って、懐から取り出したのは――。

 

 黒く、薄い、小さな板状の物体。

 

 手のひらに収まる程度の大きさで、表面には何やら細かな魔法陣のような模様が刻まれている。

 

 見た目だけなら、ただの石板。

 

 あるいは、少し変わった形をした鏡にも見える。

 

 それ以上でも、それ以下でもない。

 

 「……なんですか、それ?」

 

 思わず尋ねる。

 

 どう見ても普通の板だ。

 

 少なくとも、自分にはそうとしか見えない。

 

 「これはね、転送装置を作った時に思いついた代物でねー」

 

 ソンジは得意げに胸を張った。

 

 どうやら、ここからが自慢タイムらしい。

 

 「壁や地面に設置すると、自動的に素材を回収してくれる魔道具なのだ!」

 

 「自動的に?」

 

 「そうそう。しかも、あらかじめ欲しい素材を設定しておけば、あとは適当な場所にポイポイ置いておくだけ。設置した周囲から対象の素材を探し出して、必要なものだけを選別して回収してくれるのだよ」

 

 「……」

 

 「さらに、設置した場所も全部記録してあるから、帰りに回収するのも簡単。どう? 便利でしょ?」

 

 「へー……凄いっすね」

 

 思わずそう返した。

 

 正直なところ、説明の半分も理解できていない。

 

 だが――。

 

 とにかく、とんでもない代物だということだけは分かった。

 

 「おっ、なんか久しぶりに素直に褒められた気がする」

 

 ソンジは嬉しそうに笑った。

 

 その表情は、自分で作った新しい玩具を見せびらかす子どものようだった。

 

 どうやらこの板――正式名称は知らないが、要するに素材自動回収装置ということらしい。

 

 事前に欲しい鉱石や魔導素材を登録しておけば、設置した場所の周辺から対象となる素材だけを探し出し、自動で回収してくれる。

 

 ――クラフト系のゲームに出てくる自動採掘機じゃん。

 

 いや。

 

 下手をしたら、それ以上だろこれ。

 

 人がわざわざ採掘しなくてもいい。

 

 探す必要すらない。

 

 欲しい素材を設定して放置しておくだけ。

 

 これが本当に実用化されているなら、鉱山や迷宮での資源採取という概念そのものが変わりかねない。

 

 便利すぎる。

 

 便利すぎるが――。

 

 同時に、背筋が少し寒くなった。

 

 この人。

 

 本気で研究に人生を懸けているタイプだ。

 

 便利なものを作るためなら、常識の斜め上を平然と突っ走っていく。

 

 改めてそう思わされた。

 

 『ん? でも、それって転送装置が元なんだよね?』

 

 感心半分、呆れ半分で考え込んでいると、フィーが首を傾げながら口を挟んだ。

 

 『ってことは……回収した素材、どこかに転送してるってこと?』

 

 「ああ、その通り」

 

 ソンジは人差し指をピンと立てる。

 

 「転移先は、私の研究室にある倉庫に指定してあるから問題ナッシーング! あそこは基本的に他の人は立ち入り禁止だし、適当に放置してても大丈夫大丈夫」

 

 あはは、と軽い笑い声。

 

 まるで「買い物した荷物を宅配便で自宅へ送っているだけ」とでも言わんばかりの気軽さだった。

 

 「……なるほど」

 

 確かに理屈としては完璧だ。

 

 迷宮で素材を回収する。

 

 ↓

 

 その場から研究室の倉庫へ転送する。

 

 ↓

 

 帰還した後、倉庫から取り出す。

 

 これなら大量の素材を持ち運ぶ必要もない。

 

 探索の効率としては、恐ろしく高い。

 

 ……ただ。

 

 「本当に大丈夫なんですか、それ?」

 

 なんとなく、もう一度確認してしまう。

 

 「大丈夫大丈夫。何か問題があったことなんて一度もないから」

 

 ソンジは笑って答えた。

 

 その時の彼女は、本当に何の疑いも抱いていなかった。

 

 便利な魔道具を作った。

 

 それを使って素材を集めている。

 

 ただ、それだけ。

 

 ――だが。

 

 この時のソンジは、まだ知らなかった。

 

 自分が「便利だから」という理由だけで迷宮へ放置した、その小さな魔道具が。

 

 そして、そこから何気なく運び込まれていく大量の素材が。

 

 後に、彼女自身ですら予想していなかった、とんでもない事態を引き起こすきっかけになることを。

 

 それが、この時の誰にも知る由のない未来だった。

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