「「ッ!?」」
あまりにも衝撃的な光景に、自分とミオは言葉を失い、顔面は一瞬で蒼白になった。
ほんの刹那の出来事だった。
前を走っていた馬車は黒い槍に貫かれ宙を舞い、半回転しながら崩れ落ちる。その荷台から放り出された子供たちは、皆、胸や腹を一突きにされ、全身を血に染めていた。中には四肢の一部が吹き飛んでいる者、頭部を貫かれたまま力なく落下する者の姿さえ見える。
そして――その中に、ラエルもいた。
胸を貫かれ、全身を血に濡らしたラエルは、地面に叩きつけられたまま動かない。口元から流れる血。かっぴらいたまま焦点の合わない瞳。その視線が、確かにこちらと交わった。
だが、その瞳はもう、生者のものではなかった。
周囲から呻き声は一切聞こえない。
誰一人として苦しむ暇すら与えられず、即死――。
「……ラエル……」
喉の奥から、掠れた声が漏れ出た。
頭が状況を理解できず、ただ名前だけが勝手に口をついて出る。
「……う、そ……」
隣のミオも、震える唇で二文字を絞り出す。
口が思うように動かないほどの恐怖と衝撃。
そのとき――
「『本当なら、もう少し様子を見るつもりでしたが……気付かれてしまっては仕方ありませんね』」
「ッ!?」
黒い槍がズルリと影の中へ引き戻される。
そして地面の影が盛り上がり、フードを被った人型へと形を成していく。
まるで、闇そのものが立ち上がったかのように。
「……はあ……はあ……おまえ……」
その姿を見た瞬間、呼吸が荒くなる。
悲しみ、怒り、憎悪――感情が絡まり合い、胸の奥で煮えたぎる。
原因は一つ。
――こいつだ。
「『それにしても、随分とやってくれましたね、あなた方。おかげで面倒事が増えてしまいましたよ。こんな大事な時に』」
「くっ……!」
こいつさえいなければ。
村も、父も、ラエルも、子供たちも――死なずに済んだ。
そう考えるほど、怒りが他の感情を押し潰していく。
平然と話しかけてくるその態度が、殺意をさらに煽った。
「『しかし、残念でしたね。あなたが私に気付かなければ、彼らも死ぬことはなかったでしょうに』」
「あ゛あ゛っ!?」
まるで愉しむような声音。
煽られていると分かっていても、理性が焼き切れそうになる。
「ふざけるな……! 最初から俺たちを殺すタイミングを狙ってただけだろ!」
「『……さて、どうでしょう』」
薄っぺらい言葉。
その軽さが、逆に確信へと変わる。
――勇者から逃れるため、自分たちを囮にするつもりだったのだ。
なんと狡猾で、卑劣な存在か。
「……絶対に、許さねえ」
「『ほう?』」
仲間を殺したこと。
自分だけ生き残ろうとしたこと。
そのすべてが、許容できるはずがない。
「絶対に許さねえぞ……エイシャ!!」
怒りと憎悪を全て込めて、俺は叫んだ。
闇のフードの奥で、
奴は静かに笑ったように見えた。