転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

55 / 60
第3章ー7

 「「ッ!?」」

 

 あまりにも衝撃的な光景に、自分とミオは言葉を失い、顔面は一瞬で蒼白になった。

 

 ほんの刹那の出来事だった。

 前を走っていた馬車は黒い槍に貫かれ宙を舞い、半回転しながら崩れ落ちる。その荷台から放り出された子供たちは、皆、胸や腹を一突きにされ、全身を血に染めていた。中には四肢の一部が吹き飛んでいる者、頭部を貫かれたまま力なく落下する者の姿さえ見える。

 

 そして――その中に、ラエルもいた。

 

 胸を貫かれ、全身を血に濡らしたラエルは、地面に叩きつけられたまま動かない。口元から流れる血。かっぴらいたまま焦点の合わない瞳。その視線が、確かにこちらと交わった。

 

 だが、その瞳はもう、生者のものではなかった。

 

 周囲から呻き声は一切聞こえない。

 誰一人として苦しむ暇すら与えられず、即死――。

 

 「……ラエル……」

 

 喉の奥から、掠れた声が漏れ出た。

 頭が状況を理解できず、ただ名前だけが勝手に口をついて出る。

 

 「……う、そ……」

 

 隣のミオも、震える唇で二文字を絞り出す。

 口が思うように動かないほどの恐怖と衝撃。

 

 そのとき――

 

 「『本当なら、もう少し様子を見るつもりでしたが……気付かれてしまっては仕方ありませんね』」

 

 「ッ!?」

 

 黒い槍がズルリと影の中へ引き戻される。

 そして地面の影が盛り上がり、フードを被った人型へと形を成していく。

 

 まるで、闇そのものが立ち上がったかのように。

 

 「……はあ……はあ……おまえ……」

 

 その姿を見た瞬間、呼吸が荒くなる。

 悲しみ、怒り、憎悪――感情が絡まり合い、胸の奥で煮えたぎる。

 

 原因は一つ。

 ――こいつだ。

 

 「『それにしても、随分とやってくれましたね、あなた方。おかげで面倒事が増えてしまいましたよ。こんな大事な時に』」

 

 「くっ……!」

 

 こいつさえいなければ。

 村も、父も、ラエルも、子供たちも――死なずに済んだ。

 

 そう考えるほど、怒りが他の感情を押し潰していく。

 平然と話しかけてくるその態度が、殺意をさらに煽った。

 

 「『しかし、残念でしたね。あなたが私に気付かなければ、彼らも死ぬことはなかったでしょうに』」

 

 「あ゛あ゛っ!?」

 

 まるで愉しむような声音。

 煽られていると分かっていても、理性が焼き切れそうになる。

 

 「ふざけるな……! 最初から俺たちを殺すタイミングを狙ってただけだろ!」

 

 「『……さて、どうでしょう』」

 

 薄っぺらい言葉。

 その軽さが、逆に確信へと変わる。

 

 ――勇者から逃れるため、自分たちを囮にするつもりだったのだ。

 なんと狡猾で、卑劣な存在か。

 

 「……絶対に、許さねえ」

 

 「『ほう?』」

 

 仲間を殺したこと。

 自分だけ生き残ろうとしたこと。

 そのすべてが、許容できるはずがない。

 

 「絶対に許さねえぞ……エイシャ!!」

 

 怒りと憎悪を全て込めて、俺は叫んだ。

 

 闇のフードの奥で、

 奴は静かに笑ったように見えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。